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「リストラ騒動」 に揺れるTSIホールディングス 問題の深層にある“主力ブランドの不振”

TSIホールディングスが揺れている。

一部報道によると、同社が進める構造改革の過程で、外部コンサルティング会社ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に一任して進めていたとされる人員削減策の問題が表面化し、訴訟問題にまで発展しているという。

ただ、この騒動の水面下には、長年解決されずに積み上がってきた「主力ブランドの立て直しの遅れ」という、根深い課題が横たわる。

「パーリーゲイツ」頼みと「ナノ・ユニバース」改革の遅れ

TSIホールディングスは昨年4月、3カ年の中期経営計画「TSI Innovation Program 2027」を打ち出し、2027年2月期に売上高1650億円(24年2月期は1554億円)、営業利益100億円(同17億円)を目指す方針を掲げた。

その柱のひとつが、今回のリストラ騒動にもつながる「2025年2月期末までに本社人員を約20%削減する」施策だった。広告費や物流費の圧縮など、固定費を中心とした効率化にも積極的に取り組んできた。

こうした改革の結果、26年2月期中間期(25年3〜8月)は営業損益が6億4000万円の黒字(前年同期は2億2100万円の赤字)、純損益も13億円の黒字(同7億9100万円の赤字)と、収益面では黒字転換を果たした。一方で売上高は前年同期比12.0%減の661億円。減収に伴う粗利の縮小が響き、計画には未達となった。主力ブランドの多くが2ケタ減収に沈むなど、固定費削減で補いきれない収益構造の脆さが鮮明となった。

とりわけ大きな痛手となっているのが、「ナノ・ユニバース(NANO・UNIVERSE)」の長びく低迷だ。かつてTSIの業績をけん引するセレクトショップ業態だったが、近年は売り上げが振るわず、22年に大規模リブランディングを敢行したものの改善には至らなかった。25年3〜8月期も前年同期比6.4%減と、依然として回復途上にある。

一方、コロナ禍のゴルフブームで伸びた「パーリーゲイツ(PEARLY GATES)」は特需の終了とともに売り上げは落ち着きつつある。25年3〜8月期は前年同期比22.4%減。この“ゴルフ特需”の期間にナノ・ユニバースの再構築を完了すべきだったのだろう。

TSIはここ数年、値引き依存から脱却し、プロパー販売比率の改善に努めてきた。方向性としては正しいが、その大前提となる「商品力の底上げ」が伴わなければ、ユーザーには“割高感”を与えてしまう。「マーガレット・ハウエル(MARGARET HOWELL)」「ナチュラルビューティーベーシック(NATURAL BEAUTY BASIC)」などは一時的な回復を見せたが、この3〜8月期はいずれも2ケタ減収。「ナノ・ユニバース」や「パーリーゲイツ」の落ち込みを補うまでには至っていない。

「商店街型」ポートフォリオの構造的難しさ

TSIは東京スタイル、サンエー・インターナショナル、上野商会など複数企業の集合体として形成された“商店街型”ポートフォリオを特徴とする。多様性は強みである一方、ブランド間で世界観が統一しにくく、束ねる難易度が高い。

近年はアングローバルや上野商会の機能をTSIに統合し、横串を入れて効率化を進めてきたものの、各ブランドが持つ“個性”が薄まる懸念は常につきまとう。趣味性や嗜好性の強いブランドが多いTSIでは、単純な集約ではシナジーが生まれにくい構造的問題を抱えている。

今年2月には、ブランド別に分散していた公式ECを「ミックスドットトウキョウ」に統合し、ポイント共通化や運営効率化を狙った。しかし、ブランドに紐づくファンから見ると“コンセプトの見えないモール”と映るリスクがある。ブランドを横断したコーディネート提案などコンテンツ面でシナジーを生み出そうとしているものの、現在は旧サイトからの会員移行が想定を下回っているという。

アパレル業界全体を見渡すと、店舗の集約・大型化とOMOによる運営効率化の動きが進んでいる。大手アパレルのオンワードホールディングスは、デジタルによる在庫引き当てサービス“クリック&トライ”を軸に、婦人服ブランドを集約した「オンワード・クローゼット・セレクト」で郊外モール出店を成功させ、百貨店依存から脱却しつつある。その一方で、TSIは“個の強いブランドを束ねた集合体”という特性上、大型化・集約と相性が良くない側面がある。11月20日からは、上述の統合EC「ミックスドットトウキョウ」初のポップアップストアを東京ミッドタウン日比谷に期間限定出店するが、試みは成功するだろうか。

「個」への立ち返りを

効率化を目的とした過度な“集約”は、ブランドの“個の魅力”を損なうリスクを高める。TSIが再び成長軌道に乗るには、彩り豊かなブランドそれぞれのファンの解像度を高め、世界観を改めて強固にすることが不可欠だ。

かつてウィメンズセレクトショップの旗手だった「ローズバッド(ROSE BUD)」はオリジナル比率の拡大によって個性を失い手放す結果となり、今春には「ジルスチュアート(JILL STUART)」のアパレル事業も終了した。一方で、「アヴィレックス(AVIREX)」や「エトレトウキョウ(ETRE TOKYO)」は25年3〜8月期に共に増収しており、熱烈なファンや感度の高い層に確実に支持されている。

規模の大小に関わらず、「誰に向けたブランドなのか」が明確であれば、持続的な支持につながるということだ。固定費削減と同時に、ブランドとしてどこに熱量を届けるのかという“絞り込み”が求められている。

BCGとの関係含め、再設計を

BCGを巡るリストラ報道は、外部委託やガバナンスの問題として注目されている。しかし、その根底にあるのは、「ナノ・ユニバース」をはじめとする主力ブランドの改革遅延であり、収益を生む“個性”を再構築できていないという数年来の課題だ。コストカットに軸足を置きすぎた印象が否めないBCGとの関係性も含め、TSIがブランドの強みを最大限に生かせるよう、経営体制を再設計してほしい。

TSIは今後、9月に買収したデイトナ・インターナショナルとのシナジー創出や「アルファ・インダストリーズ(ALPHA INDUSTRIES)」の販売開始など、新たな成長施策も計画している。「下期(9月〜26年2月)はあらゆる施策を打って活性化させる」(下地毅社長)。新事業と並行して既存ブランドを改革し、再び“商店街の個性”を取り戻せるかが問われている。

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