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特集 メンズ・コレクション26年春夏

【2026年春夏メンズコレ日記Vol.2】 「ドルチェ&ガッバーナ」の新境地“パジャマコア”に心躍り、「ブリオーニ」の技術に畏敬を抱く

2026年春夏のメンズ・ファッション・ウイークがスタート。久々にメンズコレサーキットに舞い戻った編集長・村上と、初参戦のヘッドリポーター・本橋が、ヨーロッパを覆う熱波に負けないアツいリポートをお届けします!今回はミラノ・コレクションの2日目、前編。

イレブンティ(ELEVENTY)

本橋涼介「WWDJAPAN」ヘッドリポーター(以下、本橋):最初に見たのは「イレブンティ(ELEVENTY)」でした。すでに村上さんもメルマガに書かれてますが、僕も正直、あまりピンとこないというか、「そんなブランドあったっけ?」という感じでした。

ただ実際に見てみると、素材も作りもかなり上質。それでいてラグジュアリーと比べれば価格はだいぶこなれています。モデルプレゼンは、村上さんの言うように“いわゆるイタリアブランド”な感じ。男の色気全開なモデルプレゼンを見ると、急に自分に重ねられなくなりました。

村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):正直ノーマークの方も多いのではないでしょうか?私もコロナ前まではスルーでしたが(苦笑)、久しぶりに拝見したら、なんか良かったですね(笑)。以前はごくごくありふれたフツーのイタリア服という印象でしたが、「ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)」や「ゼニア(ZEGNA)」の生地を使って、ほんのり黄色いコリアンダーカラーなどをまとわせるなどして、野暮ったさを一蹴。ジャケットの上からのスエードのベストや、ブレザーとベースボールブルゾンのコーディネートなど、実際なかなか披露するチャンスはないけれど、若々しいスタイリングも好印象でした。ディストリビューターの三喜商事は、「百貨店の外商のお客さまに向けて」って話していたけれど、セレクトショップも興味を持ってくれるんじゃないかな?

本橋:CPOジャケットや軽やかなスエードブルゾンは、個人的にはジャストで着こなすというより、ちょいユルくらいで着るのがいいかなと。イメージは「スタジオ ニコルソン(STUDIO NICHOLSON)」。東京のセレクトショップの審美眼でスタイリングすれば、日本でも可能性があるブランドだと思います。

チャーチ(CHURCH'S)

本橋:プラダグループの「チャーチ(CHURCH'S)」は、一枚革のオックスフォードシューズやローファーがすごかったです。スニーカー顔負けの軽さなのに、安っぽく見えず、上品な佇まいはそのまま。まさに職人芸のなせるワザなんでしょうね。

これならサンダルのように――は言い過ぎかもしれませんが、気兼ねなく履けると思います。スーツだけじゃなく、セットアップやショーツなど、カジュアルの格上げにも使えそう。一度、実際に足を入れてみたいです。

ハイエンドの紳士靴ブランドの中では伝統的で、正直これまでは「地味で代わり映えしない」という印象が否めませんでした。でも、そういう存在ってクラスにひとりいますよね。決して目立たないのに、実はすごい特技を持ってて、気づいたら地味にモテてる……そんなタイプ。

村上:何の話してるの(笑)?“シャンハイ”というモンクストラップの初代、1929年に誕生し、2008年に寄贈していただいたことでブランドの手元に戻ってきたシューズのムードを再現した新作、良かったですね。アッパーにダメージ加工を施したり、水に浸して革を柔らかくした後に成形したり、中には一度土に埋めたりなんて商品もあるそう。マニアックな男心をくすぐりつつ、今っぽいビンテージや古着屋で見つけた逸品のムードを醸し出しました。

装飾は、アッパーに直接レーザー加工で。装飾を施したレザーをさらに縫い付けることをせず、軽量化を図っています。伝統的なムードを、新しい発想や技術で形にしているお手本ですね。本橋さんのわかりにくい例えをあえて引用すれば、「地味で代わり映えしない」子が、いきなりデビューしてイケてるグループの仲間入りをしたカンジでした。

プロナウンス(PRONOUNCE)

本橋:ロンドン拠点の中国系デザイナーデュオが手掛ける「プロナウンス(PRONOUNCE)」。そら豆のような緑やサーモンピンク、土っぽいブラウンといった淡く濁った色調は、中国ブランド特有の色彩感覚を感じさせます。

同じ中国系でも、未来的なテック素材の融合が巧みな「フェン チェン ワン(FENG CHEN WANG)」、アルチザンなクリエイションが際立つ「ジギー チェン(ZIGGY CHEN)」などと比べると、「プロナウンス」はフォルムも穏やかで、クラシカルな慎ましさを感じさせます。シャツのパッチワーク使いやセットアップのやわらかい曲線のシルエット、ハイウエストのパンツ、ツヤのあるレザー使い。“壊さない美学“が漂い、西洋的な構造の上に東洋的な要素を静かに添えている印象でした。

それゆえ“アジア枠”にとどまりがちな側面もあるかもしれません。前日の「セッチュウ(SETCHU)」のように、東洋と西洋の文化を横断しつつ、より自由で躍動感を帯びた表現があってもいいのでは?もう少し遊びが必要だと感じました。

村上:私がコロナ前に見ていた頃の中華系ブランドは、総じて「バレンシアガ(BALENCIAGA)」の“三番煎じ”みたいな印象だったけれど(ごめん!でもほんとにそんなカンジだったの!)、そろそろスタイルで勝負できるカンジになったかな。ただ、まだちょっと「頑張ってます」ってカンジですよねぇ。

極端なシルエットとか、極薄のナイロン生地で作った切り返し多数のパラシュートシルエットのシャツとか、やたらとデカいネックレスやスカーフ使いとか、だいぶ落ち着いてはきたけれど、まだまだ味の濃いおかずが多くて、「白米とか、お漬け物はありませんか?」というカンジ。いや、それでもだいぶコース料理とか、幕の内弁当にはなってきたんだけれど。

「プロナウンス」と言えば、今話題の「ラブブ(LABUBU)」とコラボレーションしたことがあるんですよね。ミもフタもないけれど、世界に羽ばたくには、もう一回「ラブブ」とコラボするのが最短じゃね?なんて思ったりもしました。

ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)

本橋:ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」、個人的にはすごく好みでした。ギラギラしたジャケットスタイル連発かなと思いきや、パジャマを主役に、ジャケットやレザー、ファーを合わせるバランスが、新鮮な裏切りでした。そのまま“パジャマコア”、はたまた“スリープコア”とか“ベッドルームコア”とか呼んだら流行りますかね?手には大きめのボストンを提げていて、こんなリゾートスタイルもいいなと思いました。

村上:シワを寄せたり、シャツブルーやパステルピンクに染めたり、いろんなタイプが登場するけれど、オーバーサイズのパジャマのセットアップで酷暑時代のフォーマルを提案ですね。足元は、当然スリッパかビーチサンダルね(笑)。ホント、ホテルとかに備え付けてありそうなパイル地のヤツ。

そこに「ドルチェ&ガッバーナ」らしいアイテムを合わせているのも良かったですね。起毛してビンテージ感が漂うスキッパータイプのポロニットとか、ゴージャスでボリューミーなファーコートとか、レオパード柄のハラコとカラフルなレザーを切り返した巨大トートバッグとか。そしてフィナーレは、スズランなどの繊細な手刺繍で飾り立てたパジャマの大行進。大行進といえば、今シーズンもモデルたちはそのまま会場の外に飛び出て、セレブリティー見たさに駆けつけた若い世代にもスタイルを見せつけました。セレブの来場だけに終始してしまいがちなSNSの世界を少しでも拡張するチャレンジのように思えて、私は嬉しくなりました。

ブリオーニ(BRIONI)

本橋:ブリオーニ(BRIONI)」は、スーパー220の繊維から作った生地のスーツが圧巻でした。160や180クラスの生地は見たことがあったけれど、200超えは私は初めて。糸が細すぎて、椅子に座るだけでもダメージを受けそうなほどの繊細さです。

村上:私だったら、新幹線で東京から新大阪まで行く時でも着替えたい(笑)。そのくらい極細の糸で作った柔らかい生地です。ゆえにドレープや光沢がとんでもなかったよね。シューズの上にできる生地のクッションが、普通のスーツでは考えられないくらい優雅に波打っていて......。

本橋:クロコのレザージャケットにも息を巻きました。裾のリブ部分は、通常ならエラスティックな別素材で作るところを、あえて同素材のクロコで仕立てていて。さらにシルクのジャケットは、畝のような立体的な表情。職人による手まつり仕上げの賜物です。想像するだけで気が遠くなるような手間は、驚きを超えて、もはや畏敬の念を覚えました。これがラグジュアリー......。

村上:足を蹴り上げた時の生地の“たまり方”が見たことないカンジでしたね。もはや吸い付いているかのように、足を優しく撫でるカンジ。一方で風が吹くと、シャツはおろかジャケットの裾さえヒラヒラと優しく揺れて、見る者も涼しい気分にさせてくれます。さすが、最高峰だわ。

そんなプレシャスな素材を、卓越した技術力で洋服に仕上げているから、ノンシャラン、気取らず気分が赴くままに洋服を組み合わせたようなスタイルが実にカッコ良い。この辺りは、街で暮らす男性のスタイルを見ながら、彼らの日々の生活や独自の価値観などにも思いを馳せるノルベルト・スタンフル(Norbert Stumpfl)=デザイン・ディレクターならではなんですよね。

ランバン(LANVIN)」のかつての黄金期を支えたルカ・オッセンドライバー(Lucas Ossendrijver)の門下生は、「リアリティ」や「アティチュード」「ライフスタイル」なんて言葉に価値を見出し、彼らが求める洋服を提供します。なんてカッコいいんだろう。いつか一着手に入れたいな。

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