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ウイスキー界の異端児、ロンドン発「コンパス ボックス」が誕生25周年を記念した限定品を発売 法規制にも挑戦する姿勢とは

「ウイスキー界の異端児」として注目を集めるロンドン発の独立系ブレンデッドウイスキーブランド「コンパス ボックス(COMPASS BOX)」はブランド誕生25周年を記念し、アイコニックな限定シリーズ“フレーミング ハート(Flaming Heart)”(2万6950円※編集部調べ)の第8弾を8月上旬から順次発売する。

ウイスキーは、単一の蒸留所で作られた「シングルモルト」と、複数の蒸留所のウイスキーをブレンドした「ブレンデッド」に大きく分けられる。これまでは、「シングルモルト=高級で純粋、丁寧に時間をかけて作られたもの」、「ブレンデッド=安いウイスキーを混ぜて、大量生産を目的に作られたもの」というイメージが根強かった。一方、「コンパス ボックス」は、「ブレンデッドは安価で粗雑なものではなく、シングルモルトの良い部分を組み合わせてブレンディングすることで、より豊かで立体的な味わいが生まれる」と主張してきた。2000年には、業界で安物のイメージが強いグレーンウイスキーを使用した高級ボトルを発売。その味わいとステートメントを通して、「グレーンウイスキー=安物」という固定観念を覆したとされている。このほど来日したニシャット・グプテ(Nishat Gupte)最高経営責任者(CEO)サミュエル・トラヴァース(Samuel Travers)=ウイスキーメーカーに、ブランドのスタンスや展望について聞いた。

挑戦の姿勢を貫く

WWD:「コンパス ボックス」の強みは?

ニシャット・グプテ最高経営責任者(以下、グプテ):クラフツマンシップと透明性、ストーリーテリングを重視している。ウイスキーはとても汎用的な酒で、ストレートやロック、ハイボール、カクテルなど、人それぞれ好きな飲み方は異なる。世界中のウイスキー愛好家に自由に楽しんでもらえる、おいしいウイスキーを届けている。

WWD:時には伝統や業界の慣習、法規制にも立ち向かうブランドのスタンスについて教えてほしい。

グプテ:伝統も尊重する一方で、ウイスキー本来の素晴らしい価値を邪魔するような慣習に挑戦することを恐れていない。われわれは「熟成=おいしい」では必ずしもないと考えており、一つ一つの構成要素にこだわり、ウイスキー作りを追求している。求めるフレーバーを作るために必要な熟成はもちろん行っているが、消費者には熟成の年数ではなく、どのようなフレーバーなのかを伝えている。

サミュエル・トラヴァース=ウイスキーメーカー(以下、トラヴァース):スコッチウイスキー業界では、これまではレシピを公開しないブランドが大多数で、スコッチウイスキー協会(Scotch Whisky Association以下、SWA)にも開示を制限されていた。「コンパス ボックス」は15年に「情報は飲む人の権利」との考えから、使用した蒸留所の名前や各原酒の比率、熟成年数、樽の種類などを公開したところ、同協会から開示停止を求められた。それを受けて、われわれは16年に「透明性運動」を実施。欧州連合(EU)と英国の規制に対し、レシピを開示する選択肢を生産者に与えるよう働きかけた。最終的には、現行の規制を変えることなく回避策を手に入れた。スコッチウイスキーメーカーは、消費者からの問い合わせに対してレシピの詳細を明らかにすることができるようになったのだ。

WWD:ブレンディングのプロセスや、そこにかける思いを教えてほしい。

トラヴァース:「コンパス ボックス」のウイスキー作りは、表現したいアイデアやコンセプト、感情から始まる。インスピレーション源は、音楽やアート、文化、ウイスキー業界で起こっていることなどさまざまだ。コンセプトが決定したら構成要素を検討し、ブレンドするウイスキーを慎重に選択する。プロトタイプを試飲し、コンセプトの再現に至ったら樽で数カ月なじませ、瓶詰めする。1カ月半で完成した製品もあれば、2年ほどかかった製品もある。

WWD:独自の世界観を持ったパッケージデザインも特徴だ。

グプテ:ウイスキーという製品において、最終的な体験はもちろん「飲む」ことだが、飲む前に消費者が何らかのストーリーを思い浮かべられるようなデザインを意識している。ラベルを見ただけで、味わいが口の中に広がるようなデザインを追求してきた。感情を喚起することから体験は始まると考えているからだ。

WWD:製品名やコンセプトに、風刺や問題提起を反映させた製品もある。

トラヴァース:今年初め、一部のイングランドの蒸留所が「自分たちのウイスキーを“シングルモルト”とは呼べない」という指摘を受けていたため、「スコッチウイスキーを含まないイングランド産のヴァテッドモルト(複数の蒸留所のモルトウイスキー原酒のみをブレンドしたもの)」を製造した。“スコットフリー(Scot-Free)”という製品名は、「スコットランドの要素がない」と「処罰を免れる」という2つの意味を持つ言葉を掛け合わせた。現在イギリスでウイスキーを製造する61の蒸留所を象徴し、61本の限定ボトルを作りプレゼントした。

WWD:日本市場の位置付けと、今後の戦略は?

グプテ:数量は限られていたものの、長きにわたり日本でも販売していた。日本人はクラフツマンシップや品質、透明性を重視しており、「コンパス ボックス」のフィロソフィーにフィットしている。今年から直接販売するようになったのでコミュニケーションを強化し、まずは代表作“オーチャード ハウス”の存在感を高めていく。ブランド誕生25周年を記念した“フレーミング ハート”にも期待する。かつては限定品に注力していたが、今後は“オーチャード ハウス”を含む“コアコレクション”を広くアピールする。また、異業種・分野でクラフツマンシップを発揮しているほかのブランドやアーティストとのコラボレーションも検討している。

“フレーミング ハート”について

“フレーミング ハート”は06年、米アーティストのM. ウォード(M. Ward)の楽曲「Flaming Heart」にインスパイアされて誕生した。誕生以来、スモーキーでスパイシーなブレンデッドモルトの可能性を追求し続けてきた。第8弾となる今作は、シリーズ史上最も構成を絞り込んだ4種のモルトウイスキーをブレンド。濃厚なピートとオークの風味が際立つ1本に仕上げた。

ラベルアートは、「炎を育むオークの構造体」に焦点を当てた。10年の10周年記念版以来、“フレーミング ハート”のラベルには木版画調のデザインを採用しているが、今作は従来の天使が「樽職人(クーパー)」へと進化し、炎を宿すオーク構造を点検する姿を描いた。「コンパス ボックス」のウイスキー作りへの情熱を象徴し、それが今なお燃え続けていることを示している。

「コンパス ボックス」とは

「コンパス ボックス」は、ブレンデッドウイスキーのパイオニアとして知られるジョン・グレイザー(John Glaser)が00年に創業したウイスキーブランド。“LONG LIVE INTERESTING”を主張し、ラグジュアリーを追求するオーセンティックなシングルモルトウイスキーと対角に位置するブランドとして、欧米を中心にストリートのバーシーンなどでカジュアルに楽しまれている。

24年、グレイザー創業者は一線を退き、ともにブレンディングを担当していたジェームス・サクソン(James Saxon)がディレクターに就任。これを機に、新たに定番シリーズ“コアコレクション”を設けた。これまでにブランドをけん引してきた代表作“オーチャード ハウス”と“ザ ピート モンスター”に、2種の新作“ネクタロシティ”と“クリムゾン カスク”を加え、“コアコレクション”として展開している。

また自らを「ウイスキーメーカー(創造者)」と呼び、ブランドの創造性を最大限に発揮する場として、毎年3つの限定品を発表。数百本限定の希少なリリースから、数千本規模で展開するやや入手しやすいものまで、ブレンデッドスコッチウイスキーの多様な表現を提案し続けている。

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