1. 仏メディアはエディを称賛? 新生「セリーヌ」への講評の違いから見える米仏のフェミニズムと自由の概念

仏メディアはエディを称賛? 新生「セリーヌ」への講評の違いから見える米仏のフェミニズムと自由の概念

コラム コレクション・レポート

2018/10/11 (THU) 14:00

 10月2日にパリ・コレクションが閉幕しても、まだパリは「セリーヌ(CELINE)」の話題で持ちきりだ。今季は発表の場をミラノからパリへと移した「グッチ(GUCCI)」や、これまでになくリアルクローズを展開した「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」、新しい最高経営責任者(CEO)とアーティスティック・ディレクターによって若々しくよみがえった「クレージュ(COURREGES)」など興味を引くトピックスは豊富だが、それら全てをエディ・スリマン(Hedi Slimane)による「セリーヌ」デビューコレクションの話題が凌駕する。

 ショー後、私の周りのフランス人女性らは「エディに悪夢を見せられた」「話題性重視の利己主義」「創業者への冒瀆」と、よくそんな言葉が思いつくなと感心してしまうほど痛烈に批判していた。「エディはケリング(KERING)対LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)のパワーゲームの駒の一つ、2年で使い捨てにされるだろう」という見方に賛同する人も多い。アメリカにブティックを持つバイヤーは「顧客に新生『セリーヌ』の何を提案すればいいっていうの。すでに『サンローラン(SAINT LAUREN)』で必要なアイテムはそろっているというのに」と嘆いていた。プライベートな席で業界人らの批判の声をたくさん聞いていたため、さぞ仏メディアは酷評の嵐だろうと予想していたが、意外とそうでもなかった。

 コレクション発表前に唯一エディがインタビューに応じた仏新聞「ル・フィガロ(Le Figaro)」は「彼が手掛けた『ディオール オム(DIOR HOMME)』や『サンローラン』で見覚えのあるルックばかりが続く。“新しいチャプター”というよりも違うブランドのようで、一体どこのブランドのショーを見ているのか分からない」と批判しながらも「他の多くのディレクターが巧妙な戦略を練って、デビューコレクションではリスク回避のために前任者の技法を取り入れながら、シーズンごとに自分のテイストを織り交ぜていくが、エディは違った。自身の確固たるスタイルを崩さず、ジェネレーションZのパリジェンヌに高らかにミニスカートを捧げた」と、エディが自身のスタイルを貫いたことに称賛した。仏「マダム・フィガロ(Madame Figaro)」は「純度の高いミニマリズムが、クチュール級の仕立ての良さを際立たせている。両親のクチュールのワードローブから自由気ままに服を拝借し、夜の街へと繰り出す若者なのだ。ドレスアップを楽しんでもメイクアップは最小限、まさにパリジェンヌ」と、エディがテーマに掲げたジェネレーションZのパリジェンヌを表現している点を評価し「周囲は過剰反応し過ぎだ。新生『セリーヌ』は始まったばかり」とつづった。

 特に仏雑誌「スレート(Slate)」に掲載されたアンティゴーン・シリング(Antigone Schilling)の見解は興味深かった。「革命は過去にもしばしば起こった。ジョン・ガリアーノ(John Galliano)は『ディオール(DIOR)』のハウス内を激しく揺るがしたが、彼のパーソナルなテイストが徐々にリンクして素晴らしいコレクションを展開した。『イヴ・サンローラン』の復活に貢献したトム・フォード(Tom Ford)でさえ当初は、(それ以前に指揮をとっていた)『 グッチ』の名残が強過ぎると非難されたのだから。今、新生『セリーヌ』に欠けているのは新しい物語であり、デジャブの感覚ではない。エディで『セリーヌ』を育てるなら、旧『セリーヌ』のファンはどこに行くのか。モード界のチェス盤が新たな動きを見せそうだ」。

READ MORE 1 / 1 エディに厳しい米メディア

 批判はあるが結論としては前向きで、今後に期待する内容が大半だった仏メディアに対し、米メディアはフェミニズムと関連付けてエディを糾弾する内容が多い。「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」紙は「2年前にエディがモード界を去ってから、世界はすっかり変わった。当時とは女性たちも違う。女性は前進したが、彼は変わっていない」と指摘し、「ハリウッド・リポーター(The Hollywood Reporter)」紙は「#MeToo運動が1周年を迎えようという今、優れた女性デザイナーの功績を葬り去ってしまうのはタイミングとしていかがなものか」と提起し、米メンズ誌「GQ」は「自分の品位を損なわないものを着たいと思っている女性に対して大ブーイングをした」と揶揄。米ウェブマガジン「ファッショニスタ(Fashionista)」はエディを「一つの芸しかできない子馬」とまで言い放った。私はこれほどまで明確に、両国の見解が異なるのを見たのは初めてだ。それは両国の文化とメンタリティーの違いが浮き彫りになるようだった。

 米仏の男女の在り方の違いについて参考になるのは、フランスの哲学者シモーヌ・ド・ボーヴォワール(Simone de Beauvoir)が、1947年に4カ月間旅行した米国での滞在日記「アメリカその日その日」に記した、フランス女性から見た米国の男女関係に対する違和感だ。彼女はフェミニズム理論家・活動家で、20世紀ヨーロッパの女性解放思想の草分け的存在として知られている人物だ。その著書の中で「個人主義的に自分のためにドレスアップをするフランス女性」とは対照的なアメリカ女性について「(米国では)男性に対する態度に何かといえば攻撃的に出る女性たちにもかかわらず、彼女たちは男性のために着飾っている。身に着けるのは明らかに自分たちの女らしさを強調し、男性の視線を引き付けるべく用意された装飾品だ。それに、私はアメリカの女性の化粧が猛烈に女らしく、性的といえる特徴を帯びているのにびっくりした。フランス女性はこれほど屈辱的な厚化粧はしない」とつづった。

 70年近く経った今でもその乖離は大きいようだ。今年はじめに、「#MeToo」運動に対してフランスの女優カトリーヌ・ドヌーヴ(Catherine Deneuve)はじめジャーナリスト、作家、元ポルノ女優など著名人約100人が仏「ル・モンド(Le Monde)」紙に「#MeTooは、男性が女性を口説くという性の自由を妨害する」と公開書簡を発表した。名を連ねた女性たちは、女性の地位向上、労働条件の男女平等などは強く支持しているが「不器用な口説きを、性犯罪と同一視するのは間違い」との見解を展開したのだ。多くの記事を読んでいると、私が14歳でアメリカに留学した時、教師からミニスカート禁止令が出たことを思い出した。理由は「アメリカでは“男性を誘っている”と捉えられるから。レイプ被害に遭ってもあなたがとがめられかねない」というものだった。着たい服を自由に着られない、アメリカは“自由の国”ではないのか?と当時思った。

 エディが仏TMCチャンネルのモード番組によるメールインタビューで「僕のショーに登場したのは自由で気ままな若い女性だから。彼女たちは自分に似合うものを自由に着るだけ」と何度も“自由”という言葉を使っているのが印象的だ。

 これは私の個人的な意見だが、学生時代も含めてアメリカで5年程過ごし、今フランスに住んで3年目となる経験を通して、米仏間でフェミニズムの捉え方が異なるように、“自由”も本質的に全く異なるもののように感じている。それは英語で言うリバティーとフリーダムの違いだ。日本語訳ではどちらも“自由”(フランス語訳はどちらもリベルテ)。私なりの解釈では、無条件に与えられる自由=フリーダムと、他者に認められた上で成り立つ自由=リバティー。自己評価が基準となり、個人主義を謳うフランスはフリーダムで、主張しなければ認められず、自由を勝ち取っていく姿勢のアメリカはリバティーだと私は感じている。新生「セリーヌ」は批判されながらも、エディが自身のスタイルを貫いたことを称賛されるのは、そんなフランスの個人主義の自由さゆえではないだろうか。エディが「結果として、フランスの個人主義と『セリーヌ』の寛容なイメージがより明確になった」と語った真意は、そういうことなのだと解釈している。

 デビューコレクションは確かに「セリーヌ」のDNAとエディの手法がかけ離れているように見えるが、今後どのような化学反応を起こすのか(もしくは起こさないのか)、楽しみである。フィービーのファンは去ったとしても、彼を追いかけてブランドを渡り歩くファンはいる。彼のカリスマ性を信じたLVMHと「セリーヌ」チームの賭けの勝敗は、結果的に売り上げとして数字に出るだろう。旧「セリーヌ」が名残惜しい人には、「セリーヌ」で経験を積んだロック・ファン(Rock Hwang)の「ロック(ROKH)」や、旧「セリーヌ」のスタイルに共鳴しつつリアル価格であるとして人気を伸ばす「ジョゼフ(JOSEPH)」を薦めたい。

 今後、クローゼットを開けるたびに旧「セリーヌ」の洋服への愛着は増していくだろうが、執着心は今すぐ捨てることにしたい。過ぎ去るものには笑顔で手を振り、未来を見据えて今を楽しむ方が、ずっと気分がよいはずだから。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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