ファッション

「テレビで見た商品が欲しい」を実現、アパレルの製造工程を変える新ビジネス

 「テレビや雑誌で見かけた商品が欲しい」というニーズに応えるため、AI認識機能を使った画像検索サービス市場が盛り上がりを見せている。しかし、その精度はまだ必ずしも高いとはいえず、類似商品の提案にとどまるサービスも多い。また、アパレルはシーズンごとに商品が入れ替わるため、シーズンを過ぎてしまった商品は欲しくても買えないという課題もあり、なかなか浸透しないのが現状だ。

 そんな中、AIを活用して商品を識別するのではなく、掲載する商品情報を前もって入手することで精度100%の提案ができるのではないか、というアイデアを事業化した企業があると聞き、衝撃を受けた。それが森川亮Cチャンネル社長も社外取締役を務めるスタートアップ企業のアイエントだ。同社はメディアの着用情報サイト「コレカウ」に加えて、着用情報を得るためのスタイリスト向けサービス「スタイリア(STYLIA)」を運営し、新たな情報流通を生み出した。現在はこれに限らず、検索ニーズに応えるためのさまざまな事業を展開する。同社が目指す流通市場のあり方について、大森智人・社長を取材した。

WWDジャパン(以下、WWD):製造業のコンサルをしてきた中で、アパレルに特化した企業を設立した理由は?

大森智人・社長(以下、大森):これまで、アナログな生産過程にテクノロジーを付加したり、熟練の職人が持つ暗黙値を可視化することを専門としてきた。アパレル業界でもコーディネートを探すスタリストの感覚値のようなものを可視化できると考えていた。そんな中、テレビで見た洋服を欲しいと、テレビ局に問い合わせをしてくる視聴者がかなり多いと聞き、オンライン化することで事業化できると考え、半年かけて情報サイト「コレカウ」を開発した。

WWD:「コレカウ」は雑誌・テレビの着用アイテムを探すための情報サイトですよね?

大森:テレビ局への電話問い合わせをネット上でできるように、情報プラットフォームを作った。初めは回答をするにも自力で情報を探すしかなかったが、質問が来て1時間以内に回答できれば、その30%がネット経由で商品を購入していることが分かった。その後、質問が増えるにしたがって回答に限界が来たため、どうにか商品情報を得る方法はないかと思案し、効率よく回答をするには事前に情報を得るしかないと考えた。しかし、もちろんスタイリストから事前に情報をもらうことはできない。それならば、自分たちが商品を貸す側に回るしかないという結論に至った。

WWD:そうして、オンラインショールーム「スタイリア」にたどり着いた?

大森:タレントやスタイリスト向けのクローズサイトを用意することで、スタイリストはリース作業なくオンライン上で借り受けの手続きができると考えた。そこで借り受け情報などを登録してもらえば、われわれは衣装情報を得られることになる。重要なのは即時性。「コレカウ」と情報を連動させることで、視聴者は番組の正確な衣装情報を即時に得られるプラットフォームが完成した。

WWD:収益化は可能か?

大森:「スタイリア」に関しては、出店ブランド側に登録料をいただいている。地方の小規模ブランドにとって、訴求の場を与えることができているはずだ。現在は約100ブランドと約500人のスタイリストが登録をしている。

WWD:「スタイリア」に掲載した商品がテレビなどで広まっても、ECを持たずに販売につなげられないブランドも多いのでは?

大森:売り先のないブランドに対して、「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」に出店するセレクトショップのパーキールーム(perky room)を作った。

WWD:9月にリリースした「チャオ(chao)」はどういった立ち位置か。

大森:同じスキームをSNSではより簡単に構築できると考えた。インフルエンサーが着用したアイテムの類似商品を提案するのが「チャオ」だが、「コレカウ」同様に、事前に着用情報を把握できているものについては正確な商品情報を提供できている。現在は約1万ダウンロードで、これから伸ばしていきたいと思う。

WWD:検索という点では、ヤフーとの協業も非常に画期的だと感じた。

大森:「テレビ・雑誌の着用商品を知りたい」と考えるユーザーは間違いなく検索を利用する。そこで、ヤフーとAPI連携をし、われわれが持つ着用情報を表示することで、ユーザーにとっても、また掲載ブランドにとってもメリットがあるはずだ。

WWD:現在4つのサービスを展開するが、これらを使って、今後どのようなスキームを目指すか。

大森:生産過程における構造改革を行いたい。現状のアパレルでは、サンプルを展示会で披露し、量産販売によって消費者に商品が届く仕組みをとっている。つまり、製品化されていないサンプルもたくさんあるわけだ。そこで、サンプルの状態でも良いから「スタイリア」に掲載をして貸し出しを行う。そして、テレビや雑誌で着用いただき、視聴者の反応を見る。そうすれば量産前に商品の反響を計測できる。また、通常ECにつなげるスキームを予約販売サイトに連携させることで、サンプルをもとにした完全受注体制を取ることもできると考えている。

WWD:完全受注体制となると、生産側にも改革が必要では?

大森:その通り。このスキームのいいところは、量産をやめて消費者が欲しいと思う商品だけを最小ロットで生産することにある。それも1000単位ではなくもっと小さい単位で。そうなると、生地屋さんや縫製職人さんなどとのつながりを作る必要がある。この中流と川上をつなぐことこそが大きな目標。「スタイリア」を拡張して、アパレルと地方の工場をマッチングすることも可能だと考えている。

WWD:マッチングサービスという点では「ヌッテ」などの競合も多いのでは?

大森:「ヌッテ」はまさに目指すべきサービスを展開している。われわれはプラットフォームを目指しているので、競合ではなくむしろ協業できるのではないかと考えている。

WWD:大きな構想に向けて、今はどの段階?

大森:1月にはサンプルを「スタイリア」に組み込み、受注生産のスキームを試験的に導入しようと思っている。併せて、「スタイリア」自体の掲載ブランド数を増やす必要があり、月額契約料を下げて従量課金に移行するなどして、1年間で600ブランド、6万点まで商品を増やす計画だ。

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