ファッション

米国発時計デジタルメディアの「ホディンキー」日本版がデビュー 創設者と編集長に聞く

 2008年にスタートした米国のデジタルメディア兼ECサイト「ホディンキー(HODINKEE)」は、ハースト婦人画報社とライセンス契約を結び、11月18日に初の国外版となる「ホディンキー・ジャパン」をスタートさせた。「ホディンキー」の革新性は、他の多くの時計メディアが機構など技術面にフォーカスする中、ビンテージウオッチを積極的に取り上げるなどスタイルを提案している点にある。来日したベンジャミン・クライマー(Benjamin Clymer)「ホディンキー」創設者兼最高経営責任者(以下、CEO)と、関口優「ホディンキー・ジャパン」編集長に話を聞いた。

WWD:初の国外版となるが、日本という選択、そしてタイミングはベストだった?

ベンジャミン・クライマー「ホディンキー」創設者兼CEO(以下、クライマー):日本のマーケットは成熟し、チャンスにあふれている。熱を感じるし、コレクターも多い。それになんといってもハースト婦人画報社と素晴らしいパートナーシップを結ぶことができた。タイミングについても今ほどの好機はなかった。

WWD:ハースト婦人画報社は最良の相手だった?

クライマー:もちろんだ。ハースト(HEARST)は世界最大級のメディアグループだ。“新聞王”とも呼ばれた創業者のウィリアム・ランドルフ・ハースト(William Randolph Hearst)は、アメリカの成功者の象徴でもある。

WWD:「ホディンキー・ジャパン」のスタートまでには、どれくらいの準備期間が必要だった?

クライマー:ニコラ・フロケ(Nicolas Floquet)=ハースト婦人画報社社長と初めて会ったのは1年半前だ。それからメールで交渉を重ねた。

関口優「ホディンキー・ジャパン」編集長(以下、関口):日本版「ホディンキー」をハースト婦人画報社が手掛けることは、6月に情報配信で知った。

WWD:その際に編集長就任の打診があった?

関口:いや、ぜんぜん(笑)。むしろ「ウォッチナビ」(学研プラス)編集長として、そのニュースを脅威に感じ、6月は必死に「ホディンキー」対抗策を練っていたくらいだ。ハースト婦人画報社から話をもらったのは、それからひと月半ほど後のこと。公開日時は決定していたので、まさに激動の年だった。

WWD:本人を前に言いにくいかもしれないが、日本版の編集長にはどんな人物が適任と考えていた?

クライマー:若くてスタイルのある人。そして商品の持つ雰囲気を理解し、それを感覚的に伝えられる人。その点、関口編集長は最適だった。

WWD:日本版の編集長に就任する前の「ホディンキー」の印象は?

関口:時計業界のゲームチェンジャー。時計業界に、日本を含む既存メディアとは違うアプローチで迫っている。「時計のストーリーを語る」とベン(クライマー「ホディンキー」創設者兼CEO)は言うが、それこそ最大の魅力だと思う。

WWD:日本の既存メディアに限界を感じていた?

関口:紙からスタートした日本のメディアが新たに読者を獲得するのは難しい。もちろん、その中での改善策を考えていたが。

WWD:「ホディンキー」を立ち上げた経緯について、あらためて聞きたい。

クライマー:関口編集長が話す、マーケットが時計コレクター以外に広がりにくいという閉塞感はアメリカにも存在する。機構など技術にフォーカスしたメディアばかりで、スタイルについて言及するものは皆無だったからだと思う。だから「ホディンキー」を作った。とにかくおもしろいことをやりたくて、既存メディアが敬遠していたビンテージも推した。僕らは新たなスタイルを提案する。それが最大の違いだ。2009年に俳優のスティーブ・マックイーン(Steve McQueen)の私物の「ロレックス(ROLEX)」“サブマリーナ”がオークションに掛けられたとき、既存メディアは見向きもせず、「ホディンキー」だけが記事にした。機能はもちろん、時計さえ無視してマックイーンにフォーカスし、「この時計があるから、こういうスタイルが構築できる」と訴えた。これが「ホディンキー」ブレークのきっかけだった。

WWD:そういった革新的な試みが、コンサバな時計業界や市場に受け入れられるまでには大変な苦労があったのでは?

クライマー:いまでも大変だ(笑)。当初、時計の本場スイスからはまったく理解されなかった。取材を申請しても断られることもあった。彼らはビンテージにもネットやSNSにも興味がなかった。むしろ僕らの動きに恐怖すら感じているようだった。長い時間が掛かったが、「ホディンキー」が売り上げに貢献していることが分かってから彼らの見方も変わった。平均年齢65歳ともいわれる時計業界に、「ホディンキー」が新たな読者、新たな購入者をもたらしている。今、「ホディンキー」読者の平均年齢は35歳だ。

WWD:“黒船来航”を日本の時計業界はどう見ている?

関口:「待望のメディアが上陸した!」と皆に言ってもらえている。今の業界に限界を感じていた証しだろう。プロモーションに関しても、本国版という完成されたプラットフォームがあり、説明が不要な点も大きい。

WWD:本国版に付帯するECサービスの実装もある?

関口:いずれは実現したい。ただ、それより前になすべきことがある。まずは20年に雑誌版を作る。ウェブでは動画企画のリクエストも受けているので、それにも応えたい。

WWD:本国版の記事の流用は、全体の何割くらいになる?

関口:8割ほどだ。残りの2割が日本のオリジナル記事となる。編集部員は僕を含めて2人で、そこに外部ライターが加わる。ベンも当初2人体制だったと聞いて、不思議な縁を感じた。

WWD:日本のオリジナル記事の内容は?

関口:本国版でも人気の時計レビューを実施したい。われわれが1週間着用した感想をまとめるものだ。ほかには、日本人時計愛好家の動画インタビューなどを企画している。

WWD:「ホディンキー・ジャパン」をスタートさせて一段落だろうが、本国版は今後どう成長させる?

クライマー:「ホディンキー」は、「オメガ(OMEGA)」や「ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)」など14の時計ブランドの公認を得てECを運営している。コラボレーションにも積極的で、最近のヒットは150ドル(約1万6200円)で販売した「スウォッチ(SWATCH)」との協業モデルだ。コレクターはもちろん、若い層にも時計の魅力を伝えている。

WWD:日本でもコラボレーションはある?

関口:セイコーウオッチや「G-SHOCK」とのコラボを考えている。

WWD:「ホディンキー・ジャパン」ができたことで、今後はより立体的な施策も実現可能だと思う。具体的なプランは?

クライマー:マンハッタンのバーで、時計愛好家がスタイルを語り合うイベントを開いている。日本でも開催したい。また、ソーホーの「シュプリーム(SUPREME)」跡にサロンを常設する準備を進めている。店内にビンテージカーを入れてギターを置くなど、こだわりを詰め込んだ空間にしたい。3~4月をめどにオープンする。

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