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ヒッピー&ストリート育ちの日本発シルバーアクセがモードで評価される理由

 シルバージュエリーといえばまず思い浮かべるのが、連日行列のできる東京・表参道の「ゴローズ(GORO’S)」だろう。海外ブランドでは、「クロムハーツ(CHROME HEARTS)」や「コディ サンダーソン(CODY SANDERSON)」「ホーセンブース(HOORSENBUHS)」などの人気が高い。日本発のシルバージュエリーで注目されるのが「ナチュラルインスティンクト(NATURAL INSTINCT)」だ。通常、スカルやクロスなどのモチーフが使われることが多いシルバージュエリーだが、「ナチュラルインスティンクト」は幾何学的なモチーフの連続や、結び目をモチーフにした抽象的なデザインがインパクトを放っている。ブランド設立後間もなくドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET以下、DSM)が独占販売を始めたというのも納得だ。

成り行きで作り始めたシルバージュエリー

 「ナチュラルインスティンクト」を手掛けるのはデザイナーの稲葉表さんだ。稲葉さんは大学に入学したものの、約1年で中退。1994年頃から東京・六本木のクラブでアルバイトし始めて、この街でヒッピー、ギャング、ストリートといったさまざまなカルチャーに影響を受ける。彼は「夜はヒップホップのクラブでアルバイト、朝からトランスのパーティーという日々でした。ヒッピー仲間とタイや米・ロサンゼルスを旅したときに、夜店などで手作りのシルバージュエリーを販売しているのを見て、いいなと思ったんです」と話す。

 成り行きでシルバージュエリーを作り始めたという稲葉さんだが、その才能は早くから花開く。「たまたま壁紙張りのアルバイトで行ったのがインディアンジュエリー等の輸入をしている会社のリアインターナショナルでした。自社ブランドを立ち上げるタイミングで、アクセサリー作りが出来る人を募集していたので作品を見せに行ったんです」と稲葉さん。当時、同社に所属していたインディアンジュエリーのプロであるハンマー・コング(Hammer Kong)に作品を気に入られ、稲葉さんは即採用された。「彫金学校に通ってもいいから、就職してくれと言われました」という。そこで彼はデザイナーとして働きながら彫金学校でジュエリー作りを学んだ。「オリジナルブランドのデザインと原形を手掛け、ロサンゼルスで生産後し輸入したものを日本とハワイで販売していました。コング氏は僕の師匠でした」。

六本木の仲間が立ち上げたストリートブランドに参画

 稲葉さんは、約2年半のリアインターナショナルでの活動を経て、1997年、六本木で出会った仲間らが始めたストリートブランドに参画し、シルバージュエリーを制作。稲葉さんと仲間の周りにはアメリカ、イギリス、ブラジルなどからのさまざまな人が集まりミックスカルチャーのコミュニティーが出来たそうだ。「当時は東京のブランドが大ブレイクしていました。でも、とある伝説の編集者から褒められ、流行りものではないものを作っているという実感がありました」。

 仲間が立ち上げたブランドでの活動を通してアパレルブランドなど横のつながりができた稲葉さんは、他のブランドからも依頼され、メンズ / ウイメンズを問わずシルバーアクセサリーを作り始めた。国内のジュエリー企業のライセンスブランドのほか、東京のメンズブランド、芸能人御用達の東京のウィメンズブランドなどへもジュエリーやレザーアイテムもデザインしていたという。

子どもの高校入学を機に自身のブランドをスタート

 活動の幅を広げた稲葉さんが「ナチュラルインスティンクト」を始めたのは2017年。シルバージュエリーを作り始めてから20年以上を経てのことだった。「03年に子どもが生まれました。高校から寮生活だった自分のことを考えると子どもと過ごす時間は15年しかないと思い、ジュエリー制作をしながら主夫をしていました」。 

 そんな稲葉さんには05年ごろから、映画やキャラクターなどのオフシャルグッズデザインの依頼が来るようになった。「どのような風の吹き回しか分かりませんが、ジュエリーだけでなくこのような造形のオファーも来ます」。知らず知らずの間に“シルバーといえば稲葉表”という評判が口コミで広がっていったのだろう。

 自身のブランドを立ち上げた理由を聞くと、「息子が遊んでくれなくなったので、息子の高校入学を機に設立しました」という。今までは他のブランドのためにデザインをしてきたが自分のブランドでは、本当に作りたいものだけを作ろうと決心。自身のブランドに集中してデザインをしてきたという。

 ブランド名は子どもが生まれたときに、友人から将来会社を立ち上げる際に使ってほしいと贈られた屋号「ナチュラルインスティンクト」。「ブームに関係なく、他にはないものを作りたいと思うし、作りたいもののアイデアは頭の中にありました。古代建築や植物、動物の本能的に環境に対応できる力、それらの神秘的な美しさ、自然の黄金比のようなものを造形にしたかったのです」。彼の作品には花のつぼみのねじれや古代からあるらせん状のモチーフなどが施されている。価格はリングが4万5000~12万3000円、バングルが9万~25万円、ネックレスが46万円~88万円。

国籍・性別・年齢問わず着けてもらいたい

 「ナチュラルインスティンクト」は、メンズファッション誌だけでなく、国内外の女性モード誌の編集ページでも採用されることがあるという。「国籍や性別、年齢問わず、スタイルを完成させるジュエリーとして着けてもらえたらうれしい」。ジュエリーを作り始めた当初から才能を認められ、主夫を経て自身のブランド設立に至った稲葉さん。「ナチュラルインスティンクト」は彼の生き方や純粋なクリエイションの源が詰まったジュエリーだ。現在DSMの銀座店、ロンドン、シンガポール、北京店で販売されており、今後はニューヨークやロサンゼルスでも販売が予定されている。