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ロンドンコレ初のショーチケット一般販売は売り上げ上々 主催者が語る狙いと今後

 2020年春夏シーズンのロンドン・ファッション・ウイーク(LONDON FASHION WEEK 以下、LFW)は、一般入場可能なパブリックショー(Public Show)を初めて開催した。イベント内容は、9月14日の「アレクサチャン(ALEXACHUNG)」の単独ショーと、15日の「ハウス オブ ホランド(HOUSE OF HOLLAND)」と「セルフ-ポートレート(SELF-PORTRAIT)」の合同ショーの2種だ。LFWの公式ホームページ上で販売したチケットの価格は1日分のスタンダードが135ポンド(約1万7700円)、フロントローが245ポンド(約3万2000円)で、業界人を招いたトークショーや9月に開催予定のイベントに参加する権利も含まれている。

8割は埋まるも高額のフロントローはまばら

 会期中は両日3回のショーが行われた。14日の「アレクサチャン」の初回は約300人収容の会場に250人ほどが来場し、高額なフロントローに空席はあったものの上々の集客だった。会場はLFWのメイン会場である「180 ザ ストランド」内で、場内に目立った装飾はなく、ただ白い真っ直ぐのキャットウオークとスクリーンが設置されていた。ショー前にLFWを紹介する約5分間のムービーが放映され、ショー前にもデザイナーのアレクサ・チャン自身がブランドについて語る約3分間のムービーが流れた後に本番がスタートした。ランウエイで見せたのは19-20年秋冬コレクションで、同ブランドが2月のLFWで行ったショーとは内容が異なり、ジーンズやジャンプスーツなどを組み合わせたリアルなスタイリングの27ルックだった。会場内にはポップアップショップが開かれ、ショーで見た商品がすぐに購入できる仕組みになっていた。ショーの費用は主催するLFWが負担し、ポップアップの商品もそれぞれの店頭用在庫なのでブランドのリスクは少ない。デザイナーのビジョンや世界観を発信する場である業界人向けのファッションショーとは違い、消費者の販売促進が目的といえるだろう。

来場客に聞く
「イベントどうでした?」

 客席は頭から足先まで着飾った一般客が大半で、業界人の姿はほとんど見られなかった。女性客が多く、中にはカップルらしき男女もいた。ショーが始まるまで待ちきれずにキョロキョロと会場を見渡したり、友人同士でセルフィーを撮ったり、来場者が一大イベントとして楽しんでいる様子が印象的だった。ショーの後、女性客数人に感想を聞いた。15歳のスザンナは高校卒業後に専門学校へ通う予定のデザイナー志望。「ファッションショーに参加するのがずっと昔から夢だったけど、どうやったら参加できるのか分からなかったの。だからパブリックショーが開催されると知った時は大喜びしたわ!しかも私にとってアレクサ・チャンは憧れの存在だから絶対に参加したくて、すぐに両親に頼んでチケットを買ってもらい1人で来たの。ショーで見た洋服はとても可愛かったけれど、あっという間に終わってしまったのが少し悲しいな。この後のトークショーにも参加する予定よ」と興奮冷めやらぬ様子だった。

 ピンク色のヘアとホログラムの洋服でひときわ華やかな姿だったクリスティーナは、現在ロンドン郊外のファッション専門学校でマーチャンダイジングを学ぶ学生だ。「パブリックショーは消費者が業界の一員になれるような素晴らしい取り組みだと思う。次回もあれば来たいし、今後はアフターパーティーなども開催してほしいわ。半年後までにお金をためて、次はフロントローのチケットを購入するの」とポジティブな意見を述べた。

主催者に聞く
「チケット売れました?」

 LFWを主催する英国ファッション評議会(ブリティッシュ・ファッション・カウンシル/BFC)のキャロライン・ラッシュ(Caroline Rush)最高経営責任者(CEO)は、パブリックショー開催の理由について「SNSの台頭によってブランドと顧客のつながりはますます強くなっており、ブランドはBtoC事業に注力するようになった。一方で一般消費者にとっては、インスタグラムなどを通じてファション・ウイークの華やかな様子が拡散されることで、よりいっそう注目度や憧れが増している。ファッションに関心がある消費者にファッションショーを見てもらい、英国発のデザイナーや業界内で何が起きているのかを知る貴重な機会を提供することが目的の一つ。会場内の展覧会では、ファッションが世の中や環境にいい影響を与える“ポジティブ・ファッション”という考えを共有し、消費者にこれまでとは違った視点を持ってもらいたい」と語った。選定した3ブランドについては「SNSで認知度が高く、価格帯が高すぎない。すでに取引先をいくつも持っていて消費者が店頭でも気軽に商品を見られること」を理由に決めたという。チケットは2日間のうち「ハウス オブ ホランド」と「セルフ-ポートレート」の合同ショーが行われた日は完売し、全体でも好調な売れ行きだったという。今季のLFWはファッション業界人が約5000人、一般客が約3000人参加した。「毎シーズンの来場者数に大きな変化はないが、LFWへの関心は世界中の小売業者やインフルエンサーを中心に高まっており、市場も広がっている」とラッシュ最高経営責任者。今後の展望について「2030年までにビジネスも生産も循環型システムを構築し、業界内から“ポジティブ・ファッション”を推進すること。100%サステイナブルまでいかなくとも、温室効果ガスの純排出量ゼロを目指し、クリエイティビティー面でも強化していきたい」と述べた。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける