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中国の奇才「ザンダー ゾウ」がCGキャラによる仮装ランウエイで探求する人類の未来

 北京を拠点に活動する「ザンダー ゾウ(XANDER ZHOU)」の視線は常に未来へと向いている。彼は中国でインダスリアルデザインを学んだ後、オランダでファッションデザインの修士号を修め、帰国後の2007年に自身の名を冠したブランドを立ち上げた。国外でコレクションを発表する初の中国人デザイナーとして、18-19年秋冬シーズンからロンドン・メンズ・コレクションでショーを行っている。現在の卸先はロンドンの「マシーンA(MACHINE-A)」やミラノの「ディエチコルソコモ(10 CORSO COMO)」、日本の「グレイト(GR8)」など有力店を含む20以上のアカウントを有する。

 これまでのショーでは、妊娠した男性や宇宙人を彷彿とさせる奇抜なルックが話題を集め、ストリートウエアとクチュールを融合させた近未来のビジョンを示す試みが見られた。しかし2020春夏シーズンでは、彼のルーツである中国の美意識や伝統的衣装からのインスピレーションを強く感じさせる内容だった。

 コレクション発表方法は「SHOW」と記載していたが、会場を訪れるとそこにキャットウオークはなく、巨大なスクリーンにはロサンゼルスを拠点に活動する映像作家リック・ファリン(Rick Farin)が制作した森の中のCG映像が映し出されていた。会場入り口で腰に巻くスカートのようなアイテムを手渡され、それを巻いて床に座りながらスクリーンを観るよう指示を受けた。ショーは、スクリーンに足踏みをするCGキャラクターと人間のモデルが次々と登場し、仮装ランウエイショーの演出で行われた。法衣や着物、大きな数珠のようなアクセサリーなどオリエンタルな雰囲気漂うルックが続く。ゾウは「今季のコレクションは中国の神話や武術、おとぎ話から派生した要素をたくさん含んでいる。ひすいのジュエリーやホットストーンは、“気”を導くため体のツボに配置した。金木水火の文字は、地球の要素。これらは私の未来と過去の両方が、ある独特の方法で結びつけらた結果なのだ」と説明する。

「今シーズンは“超越”させた」

 仮装キャットウォークの演出を行った理由についてはAIと人間、デジタルとアナログの境界線を曖昧にする試みだったようだ。「CGキャラクターを作成することで、実際のモデルでは不可能な方法でキャットウォークに登場させたいという思いから始まった。このショーのために作った最初のCGキャラクターは、体にたくさんのスクリーンが貼られ世界各地からのあらゆる種類の情報が表示する、“情報の神”のような人物だった。しかし、情報の未来が完全にデジタルであるべきではないと思い、このCGキャラクターをショーには登場させなかった。2カ月かけてさまざまなCGキャラクターを生み出し、結果的には2人だけがラインナップした」とゾウ。さらに、会場で配られたスカートについては「コレクション制作にあたってリサーチを進めていると、世界中の異なる文化の中で、ある特定の儀式を行う男性の衣装には類似性があることを知った。その一つは、スカートのような衣服を身につけること。ここでは、性別の境界線を曖昧にするアイテムという考えとは無関係だ。私は単純に、スカートが男性の日常着として自然に溶け込むことに、コレクション制作の間に喜びを感じるようになった」と続けた。ゾウがショー後の会場周りのオフランウエイを眺めたのなら、非常に誇りに思ったはずだ。なぜなら彼の思惑通り、会場で手渡されたスカートをそのまま着用した多くの男性がストリートフォトグラファーからのフラッシュを浴びていたからだ。

 ゾウは「19春夏コレクションで“創造”し、19-20年秋冬で“進化”し、そして今シーズンは“超越”させた。コレクションを通して、私は人類の未来を探求し続けている。今季のコレクション制作にあたって、心理学の概念“意識の流れ”が最初に浮かんだ」とも述べる。これは人間の意識は静的な部分の配列によって成り立つものではなく、動的なイメージや観念が流れるように連なったものであるという考え方のことだ。彼のコレクションは非常にスピリチュアルで穏やかさを与えてくれた。本音を言えば、洋服はスクリーン上ではなく実物で、体に合わせて揺れる動きや素材感を見たかったというのが筆者の感想だ。しかし、スケールが大きすぎる問題は自分事として捉えにくい傾向にある中、彼のメッセージはしっかり心に留めておきたいと思った。「地球が私たちと共に呼吸するのを感じて。私たちは一つのシステムの一員なのだ。内なる自己に目を向けて、心に平穏を」。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける