ファッション
連載 コレクション日記

メンズコレ裏街道記 ロンドンメンズ2日目は小学校で爆音の「マーティン ローズ」や鳥肌ものの「ウェールズ ボナー」など

 1月5日。曇り。東京は初雪と聞きましたが、ロンドンは意外とまあまあ温かいんです。

11:00「8 on 8」

 中国版「GQ」の招へい枠で参加した中国人デザイナーによる「8オン8」は、ウェス・アンダーソン(Wes Anderson)監督の映画のような、ユニークな世界観。2017年設立というキャリアの浅さが露骨でしたが、スポーツメーカー「カッパ(KAPPA)」とのコラボレーションが印象的でした。お馴染みのロゴ“オミニ”がカラフルになり、シューティングゲームの敵キャラのようでかわいい。ラスト手前に巨体の個性派モデルが登場して大勢の観客がスマホを向ける中、そのすぐ後に登場したフィナーレのルックがかすんでしまってモデルが少し気の毒でした。

「8オン8」2020-21年秋冬ロンドン・メンズ・コレクションから

12:00「チャラヤン」

 一時代を築いた御大フセイン・チャラヤン(Hussein Chalayan)もまだまだ現役です。メンズの普遍的なウエアにフューチャリスティックなディテールを加えて、ヨークやラペルなどの各パーツが身頃や周辺の部位と溶けて混ざり合うかのように一体化。トレンチコートがオールインワンになっちゃいました。クリエイションに大きな変化はありませんが、会場がいつも狭いのだけはどうにかならないでしょうか?

「チャラヤン」2020-21年秋冬ロンドン・メンズ・コレクションから

13:00「パー ギョーテソン」

 「パー ギョーテソン(PER GOTESSON)」はランウエイ上に置かれた無数の便器に、早くも面倒くさそうなムード(笑)。コレクションもやはりアートタッチなアイテムが多く、難易度超高め。かといってその世界観を届ける力量には至っておらず、今後に期待です。序盤には着やすそうなデニムのセットアップもあったので、ちょうど中間ぐらいのアイテムが見たかった。

「パー ギョーテソン」2020-21年秋冬ロンドン・メンズ・コレクションから

14:00「ザンダー ゾウ」

 僕が初めてロンドンメンズを取材した3年前はキワモノのイメージだった「ザンダー ゾウ(XANDER ZHOU)」も現在は知名度をぐっと上げ、人気のショーの一つとなりました。ショー前には、メールでAIが書いた(!)という意味不明な日本語のリリースが届き、ザンダー劇場に誘われます。彼の武器は、ただ奇抜なだけでなく、街でちゃんと着られる服をイメージできるバランス感。今シーズンも、電気のようにジグザグにカットされたトップスのセンターラインや裾、モザイクがかかったビジュアルのコラージュやメイクなど、機械がエラーを起こした際のイメージを服に落とし込んでいるように見えました。未来のワークウエアをイメージしたフューチャリスティックなブルゾンもいい感じ。

「ザンダー ゾウ」2020-21年秋冬ロンドン・メンズ・コレクションから

15:00「ステファン クック」

 パールのようなスタッズやプリーツの腰巻き、ワンショルダーバッグやハンドバッグが多出。ウィメンズの定番をメンズっぽくというよりも、あくまでメンズとしてエレガントに馴染んでいたのが好感でした。星空のようにスタッズを打ちまくったウエアもきれい。キーホルダーリングがストラップとしてじゃらじゃら付いたハンドバッグはちょっと欲しいかも。

「ステファン クック」2020-21年秋冬ロンドン・メンズ・コレクションから

15:30「ヴィンティ アンドリューズ」

 1990年代のレイブカルチャーから着想を得たそうで、キャッチーな色使いも納得。DIYで頑張ってお洒落してる感じがちょっと懐かしくてほっこりしました。ロンTの袖にはカタカナのブランド名がプリントされており、不良っぽい書体のチョイスに「君、分かってる」と感心。

15:45「オマール アフリディ」

 若き日本人デザイナーによる英国ブランド「オマール アフリディ(OMAR AFRIDI)」の2回目となるプレゼンテーション。デザイナーの1人である市森天颯(はやて)さんは、会場スタッフとしても奮闘しておりました。会場には何やら巨大なオブジェが設置されています。20代中盤とは思えないマニアックな世界観が持ち味なので、今回は何が出てくるのかと期待が膨らみます。待つこと数分、中央のオブジェからワントーンカラーのマスクマン7人組が出てきました。聞くと、彫刻アーティストの制作のプロセスをプレゼンテーションで表現したそうです。いやー渋い(笑)。とはいえ服そのものはミニマルできれいなので、単品では着やすそう。ハードルの高さは承知の上で、このワントーンカラーに挑戦してみたいです。

16:00「カシミ」

「カシミ」2020-21年秋冬ロンドン・メンズ・コレクションから

 2019年7月に創業者のハリド・アル・カシミ(Khalid Al Qasimi)が39歳の若さで急逝し、同氏と双子のフール・アル・カシミ(Hoor Al Qasimi)がクリエイティブ・ディレクターに就いた新体制で初のランウエイショーです。ただ登場したのは創業者による最後のコレクションなので、大きな変化はなし。むしろ素材感やテーラリングといった安定感がさらに向上していただけに、やはり残念でなりません。フィナーレに登場した感無量のフール・ディレクターを観客はスタンディングオベーションで迎え、僕もうるっときてしまいました。生前のハリド氏への取材で「パリコレに復帰したい」と話していたので、今後は彼の遺志をどのように受け継いでいくのか、注目したいです。

17:00「アストリッド アンデルセン」

 お次は久しぶりにランウエイに帰ってきた「アストリッド アンデルセン(ASTRID ANDERSEN)」。「カシミ」のしめやかなムードから一転し、ごりっごりのストリートウエアです。ただし、巷に溢れるグラフィック頼みのものとはちょっと違い、素材使いが唯我独尊。カモフラはシルクのような光沢を放ち、リアルファーもぜいたくに使います。ラグジュアリーな要素をスポーツウエアに仕立て、どこか品の良さも感じさせるセンスが光りました。

18:00「ウェールズ ボナー」

 今回のロンドンメンズは「クレイグ グリーン(CRAIG GREEN)」もいなければ「キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」もいない。大丈夫?と心配しておられた皆さま、ご安心ください。1年半ぶりにロンドンメンズ に復帰した「ウェールズ ボナー(WALES BONNER)」がやってくれました。会場のシートは円卓でビーガンのケータリングも用意されていて大助かり!コレクションは、これまでブラックカルチャーへの強い思いが込められたテーラリングがストイックすぎてちょっととっつきづらかったのですが(それが魅力でもあるのですけれど)、今シーズンは肩の力が抜けて英国ベーシック色も濃くなり、だいぶ親しみやすくなりました。「アディダス(ADIDAS)」とのコラボレーションもブランドらしさがしっかりにじんでいてめちゃいい感じ。フィナーレの歓声は今季ナンバーワンクラスで、鳥肌ものでした。ちなみにショーのスタイリストは、デザイナーと親交が深い元モデルのトム・ギネス(Tom Guiness)。なんとあのギネスビールの御曹司なのです。モデル時代には日本の雑誌にもたびたび登場しており、撮影現場でよく一緒になることも多かったので、彼の仕事が見られてじーんときました。

「ウェールズ ボナー」2020-21年秋冬ロンドン・メンズ・コレクションから

19:00 「アートスクール」

 今のロンドンの異端枠といえば「アートスクール(ART SCHOOL)」でしょう。予測不可能なクリエイションや演出で、多方面で知名度を上げています。ただし奇想天外な演出にクオリティーが追いついておらず、今回もその印象は変わりませんでした。半裸のモデルの胸毛をよーく見るとブランド名になっているといった仕掛けは話題を呼ぶかもしれませんが、いつまでも小手先だけでは飽きられてしまいます。地元からの期待は大きいはずなので、頑張ってほしい。

20:00「マーティン ローズ」

 毎度会場が中心部からは遠いことでおなじみの「マーティン ローズ(MARTINE ROSE)」。今回も移動中は時差ボケによる睡眠不足でぐらつきながら車に揺られて30分、ようやくトリアーノ小学校に到着しました。実はここ、デザイナーの娘が実際に通う学校とのこと。学校なんて久しぶりに入りましたが、なんて不思議な空間なんでしょうか。子どもたちの作品が壁の至る場所に飾られ、童心に返っていろいろ思い出していくうちに、移動時間のことなど忘れて楽しくなってきました。今回も一般客がたくさんいて、まるで授業参観のよう。そんなほっこり空間に、めちゃくちゃアップテンポなBGMが次々と鳴り響きます。ノスタルジックと狂気が入り乱れるカオスなムードが最高。コレクションは、得意の日常着をひねったり肩を張り出したりするシルエットのデフォルメは控えめ。とはいえ、いつも通りのちょっと変な日常着です。でも、「マーティン ローズ」はこれでいいんでしょう。メインストリームからは距離を置き、ファッションとともにコミュニティーを育んでいく。そんな服作りはこの先もずっと続いていくはず。ショー開始は50分も遅れたけど、楽しかったから今回は許しちゃいます。

「マーティン ローズ」2020-21年秋冬ロンドン・メンズ・コレクションから

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