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「ボタンが夢を留めてくれた」 宮園夕加がボタンデザイナーになるまで

 服全体の印象を左右もするし、服の機能を完成させるためにも必要なパーツだが、ベテランのデザイナーでもブランドやメーカーの名前をよく知らない資材がある。ボタンだ。服のデザインや仕様を決める際の優先順位は、いつも一番後回し。だから納期は短く、なぜかついでに価格も叩かれやすい。似たような製品としてファスナーがあるが、こちらは世界中に年間100億本を販売する巨大企業YKKが、ファスナーの存在感をしっかりと引き上げている。

 だが33歳のボタンデザイナー宮園夕加は、早くも高校生のときにボタンデザイナーになることを決めたという。宮園の人生を決めたのは、洋裁が得意で大好きな祖母の「最後に端切れを持っていって手芸店でボタンを選ぶ瞬間が一番楽しいのよね」という一言だった。当時栃木県の進学校に通っていた宮園は「当時ファッションが好きだけどお金のない私は、『ユニクロ』の服をボタンだけ変えてオシャレをしていました。ボタンひとつを変えただけで、服がこんなにも変わる。祖母の言葉にハッとしました」。高校生の宮園はボタンデザイナーの道に進むことを決めた。

 上京して女子美術大学ファッション造形学科に入学。「ボタンデザイナーになるために、まずはファッションを知ろう」とファッションデザインを学んだ。だが大学3年生のときに、父の事業が失敗。授業料が払えなくなって、退学に追い込まれそうになる。「無理かなと思ったけど、奨学金を借りて、親戚のおじさんの愛人のボロボロのアパートが空いているというのでそこを補修して住み、空いた時間はすべてアルバイトに費やしました。アパートの下は飲食店で虫もたくさん出た。家族もお金のことでバラバラになった。でもそんなつらい毎日でも、ボタンデザイナーになりたいという夢が生活を支えてくれました」。

 大学卒業後は、ボタン卸をルーツに持つアパレル資材商社の清原に入社。ボタンを中心に服飾パーツの企画職を10年間務めた。「ボタン作りの多くを教えてもらいました。日本だけでなく、韓国や中国の工場にも行かせてもらったし、“工業製品としての服”のパーツであることを叩き込まれました。ボタンは服と一緒に洗濯するので素材の強度や色落ちしないことがとても大事なんです。ただ可愛いだけのボタンじゃ意味がない」。ボタン作家ではなく、ボタンデザイナーを自称するのもそうした意味を込めているのだという。清原は、卒業生を対象にした女子美のコンペで1年間ミラノに行ける“ミラノ賞”を受賞したときも宮園の1年間の休職を認めてくれた。「本当にいい会社で、感謝しかありません」。

 それでも退職を決めたのは、ボタンに関わる業務がどんどん減っていったためだ。ボタンを含め30万SKUものアイテムを扱う清原では、祖業といえどもボタン作りに関わる業務はごく一部に過ぎない。「いまの服飾資材の商社は、商品を右から左へ流すだけでは、いくら膨大なアイテムを扱っていても商売になりません。企画職の仕事はファッショントレンドを踏まえ、取引先のニーズに沿った服飾資材をトータルで提案すること。数年前からはスポーツがトレンドになり、そうした提案商材の中にボタンがなくなることが増えてきた。清原のような商社からしたら、ボタンがないと仕事のモチベーションが上がらないなんて正直意味不明だと思うので、本当に申し訳なく思っています。ただ、振り返ってみると在職中も私のボタン愛が強すぎて、若干浮いていた気がします(笑)」。

 初の個展では、祖母の名前を付けたボタンブランド「スミエ(SUMIE)」をスタート。これまで宮園がデザインしてきたボタン約30アイテムを展示する。「ボタンは服に付いて初めて完成品だと思っているので、これはあくまできっかけのようなもの。これで完成ではなく、デザイナーさんやブランドの意見によって修正しようとは思っています」。ボタンデザイナーの仕事もまだ手探りだ。「ボタン作家さんはいても、ボタンデザイナーなんてたぶん私しかいない(笑)。なので、働き方も自分で考えないと。ボタンメーカーや卸のようにアイテムあたりの単価で仕事を請けていたらたぶん生活ができません。やり方が正しいのかはわからないけど、ボタンのディレクターやコンサルタントのような形で仕事を作っていきたいと思っています」。

 今後の目標はボタンの地位向上だ。宮園は、ボタンコレクターや日本で唯一のボタン専門の博物館「ボタンの博物館」の金子泰三館長らで構成する「日本ボタンソサイエティ」のメンバーの一人だ。「ファッション業界はボタンの扱いが雑すぎる。清原にいたときはテキスタイルメーカーがうらやましくて。清原在職時に『プルミエール・ヴィジョン』に出展させてもらったり、イタリアのボタン工場で働いたりしましたが、やっぱりラグジュアリーブランドはいいボタンを使ってますよね。ボタンだって重要なファッションアイテムの一つだってことは誰もが分かっている。その地位向上に少しでも貢献する。それが最終的な目標です」。宮園のボタンデザイナー人生は、まだ始まったばかりだ。

■「SUMIE」展覧会
日程:3月20〜23日
時間:11:00~19:00
場所:haus & terrasse 2F
住所:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1-20-3