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「ジェイ ダブリュー アンダーソン」が初のパリで見せたファッションとアートの楽しさ メンズショー前後のアンダーソンの様子をのぞき見

 ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)=「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」クリエイティブ・ディレクターは毎シーズン、ファッションとアートの楽しい関係をショーでインタラクティブに披露する。今回はロンドンを離れ、初めてパリ・メンズ・ファッション・ウイークで2019-20年秋冬のメンズ・コレクションを発表した。

 会場に選んだのは、フランスの詩人アンドレ・ブルトン(Andre Breton)のかつてのアトリエ。近々ブティックホテルへと生まれ変わる建物だ。コレクションのインスピレーションとなったのは、アメリカ人画家・彫刻家のポール・テック(Paul Thek)の作品。ショーの4日前から準備されたという会場は5つの部屋に分けられ、それぞれの部屋でポール・テックの世界観を表現する異なるインスタレーションがセットされ、ショー直前までアンダーソン自身が最終調整をしていた。キャットウォークに黒い砂を敷き詰めたり、ペルシャ絨毯の上には無造作にレモンの装飾を2つ置き、天井からぶら下げられた地球儀のバルーンの向きを変えたりし、観客が会場入りする直前までセットの確認に抜かりない。今季のショーはポール・テックの作風同様、”即興”が一つのテーマのようで、アンダーソンが感じるままにインスタレーションを完成させていく。パリでは初のショーということもあり、スタッフたちの緊張感は高まっているようだった。最初は”即興”に対応できるような余裕はなさそうに見えたが、最終的には非現実的なアートの世界へと人々を招き入れ、ファッションとアートの境界線を曖昧にする「ジェイ ダブリュー アンダーソン」らしいショーへと仕上げた。

 しかし、彼のインスタレーションやコレクションを理解するのは容易ではない。仏新聞「ル・フィガロ(LE FIGARO)」のジャーナリスト、ヴァレリ・グエドン(Valerie Guedon)は「ロンドンではなくパリでショーを開催したアンダーソン自身を投影するように、安全地帯から抜け出して新たな旅へ出る冒険家のような挑戦的なコレクションだった。柄の組み合わせや洋服のシェイプなど、アンバランスに見えるにもかかわらず、全体としてはまとまっている。論理的にコレクションを読み解くには難解で、だからこそ魅力を感じる」と感想を述べた。

 なぜレモンを置いたのか、なぜバルーンをぶら下げたのか、それらは愚問のようだ。「整合性はない。意味があるようで無意味。まるで私たちを取り巻く世界のように」とバックステージを取材していた、映像作家のロイック・プリジャン(Loic Prigent)は口にした。彼が語ったインスタレーションの解釈に、納得した。一つの正しい答えはなく、見る者それぞれが自分なりの解釈を導き出せば、それが答えでいいのだろう。

 アンダーソンはショーが終わると、一瞬緊張が解けたようで照れくさそうに笑顔をこぼし、チームと抱き合ったり、バックステージで取材や撮影に対応したりしていた。しかし34歳の才能豊かな彼に、息つく暇はなさそうだ。3日後に控えた「ロエベ(LOEWE)」初のメンズのショーの準備のために、足早に会場を後にしていた。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける