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超パーソナルな服作り 「マルジェラ」出身の「ミスターイット」とは?

 「東京で久しぶりにワクワクする新ブランドに出合った」。竹田英史トゥモローランド(TOMORROWLAND)商品部バイイングマネジャーが嬉しそうにそう話してくれた。2018年春夏にデビューした「ミスターイット(MISTER IT.)」だ。トゥモローランドのエディション(EDITION)表参道店で行った「ミスターイット」のポップアップストアは、デビューしたての無名ブランドにもかかわらず、「有名ブランド並みの売り上げでまずまずのスタートだった」という。ブランドを知ってやってきたコアなファンだけではなく、たまたま立ち寄った客からも支持を集めた。18年春夏の6月27日時点でのプロパー消化率(値引きせず定価で販売した割合)は70%を超えている。また、東京・渋谷のファイヤー通りにあるセレクトショップ、ニド・アドゥ(n id a deux)で開催したポップアップストアでは、同店が買い付けた「ミスターイット」が3日間でほぼ売り切れた。

 「ミスターイット」は、「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」で3年間メーンコレクションに携わり、さらにオートクチュール“アーティザナル”のチームでデザイナーを務めた砂川卓也によるウィメンズ(一部ユニセックス)ブランドだ。

 砂川の服作りはきわめてパーソナル。ブランドの始まりは「マルジェラ」チームのメンバーに向けて感謝の気持ちを示し、彼らの性格や特徴、癖などを服に落とし込んだ10ピースの服だった。背景にあるストーリーに心が温かくなるが、服自体のクオリティーも高い。東京・神宮前にあるアトリエで砂川に話を聞いた。

WWD:ブランド名「ミスターイット」の由来は?

砂川:正直なところ理由はありません。自分の名前をブランド名にする選択肢はなかった。というのも、チームで作りたいという思いがあったから。どこの国の人でも読めて、誰でもわかる単語を使いたいと考え、いろんな文字をひらめいたまま書き出し、一番しっくりきた並びでした。

WWD:デビューコレクションは“ゼロ”コレクションとしていますが、その意図は?

砂川:僕がパリに滞在していた時に「メゾン マルジェラ」のデザインチームで働かせてもらっていたけれど、フランス語を丸暗記して面接に臨み入社したので、入社当初は全くフランス語を喋れませんでした。だからチームのみんなには本当に助けてもらったし、今の僕があるのは彼らのおかげです。だから、ブランドを始めるときにまず“やるべきこと”は「マルジェラ」チームに感謝を伝えることだと考えました。それで、それぞれの性格や癖、身体の特徴などを洋服に反映させ、その人が単純に喜んでくれる服を作ろうと思いました。例えば、いつも髭を気にしていた人には、すぐに鏡を見られるように内ポケットに鏡を仕込めるようにしたり、眼鏡をよくなくす人には、眼鏡を収納できるデザインを加えて失くさないようにしたり。ふくらはぎにタトゥーがある人には、ふくらはぎ部分を透ける素材で仕立て、タトゥー自体をデザインに組み込んだパンツを仕立てました。みんなの顔を浮かべながらデザインをし、10人のために10ピースを作りました。

WWD:チームのみんなは喜んでいました?

砂川:モデルを起用したプレゼンテーションで「これはあなたのルックです。あなたはこういう人でこうだから、僕はこういう服を作りました」と一つ一つ説明しながら行いました。もともと、それぞれにプレゼントしようと決めていたので、そもそも売るつもりはありませんでした。でもそんなむちゃくちゃパーソナルな服を、「これ欲しい」「これ売っているの?」と多くの人に聞かれました。パーソナルな気持ちに共感してくれる人がいることがとても新鮮でしたし、自分がやるべきことはこれだ!と思ったんです。

WWD:コレクションはどのように構成するのですか?

砂川:シーズンによってアイテムは変わっていきますが、思い描く人は変わりません。さらに新しく出会った人を加えていく形で作っていきたいです。

WWD:コレクションには量産できるものとできない一点物が混在していますか?

砂川:それぞれどっちかだけになっても僕じゃなくなるし、両方があることで僕の良さが出せるんじゃないかなと思っています。1つだけでしか表現できない特別なモノがあります。例えば、「マルジェラ」でブランドアイコンの1つである肩パッドのある服作りを得意としていた人がいて、彼女は肩パッドに対してめちゃくちゃうるさい。そんな彼女は針を使うから、手の一部が固くなっています。だからグローブの一部分を陶製にしました。そういう思い出を頭に浮かべながら作っていると、量産できない気持ちもあると。また、ビンテージのトランプを縫い付けていますが、トランプを縫い付けると洗えないから、洗ってもらいたくないという気持ちがあります。これを着て、いろんなところ行き、いろんな人と会い、いろんな空気に触れ、その空気感を洗うことで流してほしくないから。ただ単にビンテージ素材を使っているものが一点物というわけではなく、オートクチュールを手掛けた経験も活かしたくて、それを表現できるとも思っています。

WWD:価格帯は1点物が4万円程度から。量産のシャツは2万円台からありますが。

砂川:一番手に取ってもらいたいのはシャツで、メーンアイテムのシャツの価格にはこだわりました。シャツは20世紀初頭から今まであまり形が変わっていない。そこに違和感がありました。昔の人と今の人の行動は絶対に違うのに、何で一緒なんだろうと。だからこそ今の時代のベストなシャツを作り、それをアップデートしていきたい。