ファッション

「シャネル」が紡ぐ、手仕事の美学 日本初の大規模展覧会──見どころを解説

シャネル(CHANEL)」は、国際展覧会「ラ ギャルリー デュ ディズヌフエム トーキョー(la Galerie du 19M Tokyo)」を東京・六本木ヒルズの東京シティビューと森アーツセンターギャラリーで10月20日まで開催している。パリでは現地時間10月6日に、同ブランドのマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)=アーティスティック・ディレクターがデビューコレクションを披露したばかり。展覧会では、変革期を迎える「シャネル」のクリエイションを支えてきた、美しい手仕事の歴史と技術を堪能できる。

第1章
1500点が織り成す手仕事の源泉

同展は3章で構成。第1章「フェスティバル(le Festival)」では、2021年にパリで誕生した「シャネル」の複合施設「ル ディズヌフエム(以下、le19M)」に集う、メゾンダール(アトリエ)の卓越した技術を紹介する。第2章「ビヨンド アワー ホライズンズ(Beyond Our Horizons)」は、「le19M」のアトリエと日本各地のアーティストや職人をつなぐコラボレーションプロジェクトだ。第3章「ルサージュ 刺繍とテキスタイル、100年の物語」では、刺しゅうとツイードのメゾン「ルサージュ(Lesage)」の創立100周年を記念し、その歩みをたどる。

エントランスを抜けた先の第1章「フェスティバル」のスペースには、おもちゃ箱をひっくり返したように色彩がはじける「le19M」の世界が広がる。会場では、刺しゅうの「アトリエ モンテックス」、羽根細工や花細工、クチュール縫製を担う「ルマリエ」、金細工の「ゴッサンス」、プリーツ加工の「ロニオン」など、「le19M」に集う11のアトリエが、原材料や小道具、サンプルを通して技の源泉を紹介。インスタレーションを手掛けたのは建築家・田根剛率いるATTA。約1500点もの展示が並ぶ空間で、職人たちの繊細な手仕事と創造のプロセスを間近に感じ取ることができる。

第2章
日仏の職人技が切り開く
新たな創造の可能性

第2章「ビヨンド アワー ホライズンズ」では、“クリエイティブ ヴィレッジ”と題した6つの空間を舞台に、日仏の職人、アーティストがコラボレーションを実現。作品を通じて、手仕事の本質を探り、感性を呼び覚ます時間へと誘う。空間演出は、風・水・土といった自然の五大元素から着想を得て構成している。会場設計は、建築家・橋詰隼弥が担当した。

入り口の「パサージュ」では、江戸時代から続く「小嶋商店」と、1936年創業の老舗帽子メゾン「メゾン ミッシェル」がコラボレーションした京提灯が来場者を迎える。一つひとつの提灯には、参加クリエイターや工房の名前が記されており、いくつかのシルエットは「メゾン ミッシェル」に伝わる帽子の木型をベースにしているという。

その先に広がる「アトリエ」では、織物・土・紙をテーマにした作品を展示。「ルサージュ」と沖縄の石垣昭子による暖簾のコラボレーションや、京都の土風炉・焼物師の永樂善五郎が制作した茶碗に「アトリエ モンテックス」が刺しゅうを施すといった異色の試みが並ぶ。また、「ルマリエ」のデザイン画を「金沢 木制作所」が版木に彫り、「かみ添」の唐紙に落とし込んだ作品など、日仏の職人技が響き合う。

3つ目の「ランデブー」では、数寄屋職人の技と「le19M」の技術が融合した数寄屋建築が現れる。刺しゅうを施した障子や、「ルサージュ」による黒・金・紫のミックスツイードを畳縁に用いた異国のエスプリが漂う38畳の座敷が、日仏の手仕事を象徴する空間を形作る。

その奥に続く「フォレスト」では、木工芸家・中川周士が手掛けた高さ4メートルの木桶の樹々がそびえる。幹の空洞には、館鼻則孝が「マサロ」の靴“メリージェーン”から着想を得たヒールレスシューズや、金属工芸家・満田晴穂による蝶々、「鈴木盛久工房」の南部鉄器とクララ アンベールがコラボレーションをしたモニュメントなど、多彩な作品が点在し、クラフツマンシップとアートが交差する“創造の森”として、来場者を包み込む。森を抜けると、アーティストたちの制作過程を映したムービーが流れる「シアター」へと続く。

最後の空間「マジック」では、河野富広と丸山サヤカによるkonomadが、「アトリエ モンテックス」「ゴッサンス」「ルマリエ」「メゾン ミッシェル」とコラボレーションしたウィッグアートを展示。さらに、アーティストA.A. MURAKAMIが「ルサージュ」と「パロマ」とタッグを組み、防水加工を施した「ルサージュ」のツイードを「パロマ」がドレスのように仕立てたインスタレーションを披露。そこから絶え間なく流れ落ちる無数の泡は、生まれては消える一瞬のきらめきを映し出し、今この瞬間の儚さを体感させる。

第3章
刺しゅうとテキスタイルに息づく
「ルサージュ」100年の創造の軌跡

第3章「ルサージュ 刺繍とテキスタイル、100年の物語」では、刺しゅうとツイードのメゾン「ルサージュ」が、100年にわたりデザイナーやクチュリエと築いてきた関係と、その卓越した技術の軌跡をたどる。

会場には、「ルサージュ」のアトリエを再現した空間をはじめ、「シャネル」と共同で制作した3Dプリントスーツや、刺しゅうを施したコレクションピース、制作過程のサンプルなどが並ぶ。さらに、「ルサージュ」との関係を確立させたカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)によるコレクションピースも披露。彼が手掛けたデビューコレクションのルックに加え、「ルサージュ」がクリストバル・バレンシアガ(Cristóbal Balenciaga)やエルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)らのために手掛けた刺しゅう作品も紹介。50種類以上の貴重なアーカイブが一堂に会し、100年にわたり伝統と革新を行き来しながら進化してきた、そのクリエイションの軌跡を垣間見ることができる。

「シャネル」は同展を通じて、手仕事の可能性、そして人の手が生み出す美の価値を改めて問いかける。“クラフツマンシップ”という普遍的なテーマを軸に、過去・現在・未来をつなぐ対話を可視化した展示は、伝統を継承しながらも、常に新たな表現を切り開く同メゾンの姿勢を映し出す。そこに息づくのは、時代を超えて進化し続ける創造の精神だ。

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