海外ファッション・ウイークを現地取材するWWDJAPANは毎シーズン、今後が楽しみな若手デザイナーに出会う。本連載では毎回、まだベールに包まれた新たな才能1組にフォーカス。10の質問を通して、ブランド設立の背景やクリエイションに対する考えから生い立ち、ファッションに目覚めたきっかけ、現在のライフスタイルといったパーソナルな部分までを掘り下げる。
今回話を聞いたのは、ウガンダの首都カンパラを拠点に古着の流通がもたらす課題に向き合う「ブジガヒル(BUZIGAHILL)」の創設者兼クリエイティブ・ディレクター、ボビー・コラド(Bobby Kolade)だ。ナイジェリア人とドイツ人の両親のもとスーダンで生まれ、カンパラとナイジェリアのラゴスで育った彼は、ベルリンのヴァイセンゼー芸術アカデミーでファッションデザインの修士号を取得。パリの「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」と「バレンシアガ(BALENCIAGA)」で経験を積んだ後、カンパラに戻り、22年に「ブジガヒル」を立ち上げた。
ボビーが提案する「RETURN TO SENDER(送り主に返す)」と題したコレクションは、欧米やアジアからウガンダに大量に流入する古着によって疲弊する繊維産業に対するリアクション。毎シーズン、古着を再デザイン・再構築することで魅力的なアイテムへと変え、“送り主“である先進国で再び流通させることに取り組んでいる。日本では24年に高島屋とタッグを組み、リメイクプロジェクトをもスタート。同年6月にはピッティ・イマージネ・ウオモにケリング(KERING)の支援プロジェクト“Sスタイル(S|STYLE)“の一員として出展し、25年7月にはベルリン・ファッション・ウイークで初のランウエイショーを開催した。また、世界各地のサミットやシンポジウムで講演や対談を行うなど、社会的なメッセージの発信も続けている。
1:出身は?どんな幼少期や学生時代を過ごしましたか?
ラゴスとカンパラで育ちましたが、ほとんどをカンパラで過ごしました。国立劇場や学校の舞台に立つことが多く、とても忙しい子ども時代でしたね。カンパラの「ティーンズ・クラブ(Teens Club)」というテレビ番組で司会をしていたこともあります。また、10代の頃はダニエル・スティール(Danielle Steel)やシドニィ・シェルダン(Sidney Sheldon)の著書をたくさん読み、学校ではウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)やブロンテ姉妹(Bronte Sisters)の作品についても学びました。
2:ファッションに関心をもった原体験やデザイナーを志したきっかけは?
司会をしていた番組にはスタイリストがいなくて、衣装もなかったんです。14歳の頃に同じ服を着続けるのに飽きてしまい、カーゴパンツやシャツをカットして、黒のマーカーや修正液で柄を加えるようになりました。と言っても、私が実際やっていたのは切ったり、ピンで留めたりだけ。再デザインした服を、近所の仕立て屋さんが縫い直してくれていました。彼女は私が持って行く服を馬鹿げているけれど面白がっていましたね。今振り返ると、それがファッションに興味を抱いたきっかけでしたが、当時は本格的に夢として意識してはいませんでした。
3:自分のブランドを立ち上げようと決めた理由は?
2018年にベルリンからカンパラへ戻り、当初はウガンダ産コットンを使ったブランドを立ち上げるつもりでしたが、実現はしませんでした。というのも、ウガンダのコットンや縫製産業は衰退していて、古着の流入がその大きな理由の一つになっているから。数年をかけて産業について調べた結果、22年4月に「ブジガヒル」を立ち上げました。「RETURN TO SENDER」コレクションをはじめ、ブランドの全ての活動は、古着が衣料・繊維産業に与える影響への対応策です。
4:学生時代から過去に働いたブランドまで、これまでの経験で一番心に残っている教えや今に生かされている学びは?
とにかく継続すること、そして何も消してしまわないことでしょう。たとえ悪いアイデアだって、一旦置いておき、後から見直すことができます。なので、私はどんなアイデアもキープするようにしています。
5:デザイナーとしての自分の強みや、クリエイションにおいて大切にしていることは?
チームとのフィッティングのときに、私は最も力を発揮します。また、毎朝ボダボダ(バイクタクシー)で通勤しながら人々を観察するのが大好きで、コレクションのデザインはこうした日々の観察から生まれています。私たちの服は本当に良い気分をもたらしてくれるものだと思いますし、「ブジガヒル」は良いエネルギーと愛に満ちています。
6:活動拠点として、今暮らしている街は?その中でお気に入りのスポットは?
今はカンパラに住んでいます。特にお気に入りは、中華料理のイエロー・リバー・レストラン(Yellow River Restaurant)。そして、32°イースト(32°East)はアートとコミュニティーのための特別な空間です。オウィノ市場(Owino Market)はカルチャーとクリエイティビティーの中心地。そこで私たちが使う素材となる古着を全て調達していますし、スパイスやローカルフードも買います。スタジオの近くにある国立劇場周辺を散歩するのも好きで、私にとっては懐かしいエリアですね。土曜の午後は、ユウジョウ イザカヤ(Yujo Izakaya)でパッションフルーツのマルガリータを飲んだり、マーチソン湾(Murchison Bay)でボートに乗ったりして楽しんでいます。
7:ファッション以外で興味のあることや趣味は?
古い建物の再生すること。それは、まるで古着をアップサイクルするような感覚なんです。
8:理想の休日の過ごし方は?
日曜日は家で料理をして、庭で過ごします。外出はせず、電話も取らないようにしています。
9:自分にとっての1番の宝物は?
母の写真ですね。
10:これから叶えたい夢は?
(ウガンダ南東部の)ジンジャにある古い工場を再生して、「ブジガヒル」のアップサイクル拠点を作りたいです。ジンジャはナイル川の源流に面したビクトリア湖畔にあり、かつて工業都市として栄えました。1930年代に建てられた古い家屋や工場が眠っていて、とてもノスタルジックで夢のような場所です。そこに新たな命を吹き込みたいと考えています。