ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)が9月4日、ミラノで死去した。91歳だった。世界的なデザイナーであるアルマーニ氏の訃報に、日本における「アルマーニ」ブランドを広めた立役者の一人である伊藤忠商事の岡藤正広会長CEOが追悼文を寄せた。
巨星墜つ ジョルジオ・アルマーニ氏の訃報によせて
ジョルジオ・アルマーニ氏のご逝去の報に接し、謹んで哀悼の意を表します。
ファッション界の一時代を作り、大革命を起こしたアルマーニ氏は、類まれな才能を持つ偉大なデザイナーであると同時に有能な実業家でもありました。ファッションの領域を超えた多くの事業の隅々にまで彼の哲学を浸透させた、まさに天から二物を与えられた人でした。
伊藤忠商事は、およそ20年にわたって「アルマーニ」の日本におけるパートナーでした。1987年に、激しい争奪戦のすえ日本展開の権利を勝ち取ったのです。今だから言えることですが、その契約には伊藤忠側にリスクのある内容が多く含まれ、一方的と言わざるを得ない厳しい条件が課されたものでした。経営会議では幹部の猛反対にあい、社内を説得するのに大変苦労しました。また当時、アルマーニ氏の公私にわたるパートナーであったセルジオ・ガレオッティ氏がエイズにより亡くなり、それがアルマーニ氏の心身に深刻な影響を及ぼしビジネスの継続にも差し障るのではと、とても心配したことを思い出します。
しかしバブルの時代背景とともに、狙い通りアルマーニは大ブームとなりました。上品で柔らかな色使い、エレガントなシルエットかつ快適な着心地の服は、他と一線を画するものでした。アルマーニを日本に導入することでイタリアブームを先駆けて巻き起こし、イタリアの伝統・文化を日本に根付かせることに貢献できたことはとても嬉しく、私のキャリアにおいても生涯忘れられないブランドのひとつです。
創業デザイナーを失った今、ブランドがどうなっていくのか、今後の行く末に注目しています。私の経験上、創業者がいなくなるとブランド力はどうしても落ちる。数多くの高級ブランドが巨大グループの傘下に集約される中、一貫して独立経営を貫いてきたことは素晴らしいことですが、それはジョルジオ・アルマーニ氏の非凡な才能があってこそ。ブランドを後世に残していくためには、組織としての変革が不可避です。
世界を魅了した創造への情熱は、これからも多くの人々の心を動かし続けることでしょう。「ファッション界の巨人」の名にふさわしい、偉大なご功績に深甚なる敬意を表し、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
伊藤忠商事 代表取締役会長CEO 岡藤正広