ファッション

Kroi長谷部悠生×Pigbankが仕掛ける“ライブグッズ”革命 「記念品からファッションへ」

PROFILE: 左:長谷部悠生/Kroi ギターリスト 右:Pigbank/グラフィックデザイナー兼アーティスト

PROFILE: (はせべ・ゆうき)1999年生まれ、東京都出身。Kroiのギター担当。FM FUJIで毎週木曜日21時から生放送のラジオ「長谷部悠生のロゼッタスペース」のパーソナリティーを担当している。Kroiの“グッズ担当大臣”として、スタッフィング、デザイン、ルック撮影のディレクションなどに至るまで、トータルプロデュースを行う。 PROFILE:(ピグ・バンク)自身のアート表現にとどまらず、バンドやミュージシャンのグッズ、CDジャケット、フライヤー等を手掛け、アパレルブランドへのデザイン提供も行うグラフィックデザイナー兼アーティスト。豊かな色彩感覚をベースに、ポップさやシュールさを加えた、強烈なメッセージ性を放つ作風が特徴だ PHOTO:NAOKI MURAMATSU

音楽フェスやツアー会場で欠かせないライブグッズが、今、おしゃれに進化を遂げている。単なる記念品ではなく、日常に溶け込むファッションアイテムとしてアップデートしている流れが加速中。ジャンルを横断して支持を集める日本の5人組バンド、Kroi(クロイ)はその先頭を走る一組だ。

Kroiのグッズは、リアルクローズにも取り入れられるデザインのアイテムが多い。例えば、2025年8月頃に発売した「Kroi Live Tour 2025 - HALL」のグッズではプレッピーなカーディガン(1万4000円)やネクタイ(3600円)を、6月頃に発売した「Kroi Acoustic Live 2025」のグッズではトレンドを意識したゲームシャツ(1万2000円)やカーゴショーツ(9800円)を用意。さらに、リラックスサンダルブランド「スブ(SUBU)」とのコラボモデルを販売するなど、“ライブグッズ”という枠を超え、ファッショナブルな製品を世に送り出してきた。

そんなアイテムを手掛けているのは、“グッズ担当大臣”を務めるメンバーの長谷部悠生と、グラフィックデザイナーのPigbank(ピグバンク)の2人。ライブグッズにかける思いや制作の裏側を聞いた。

“音楽”と“デザイン”、本業の違いが生む心地よい距離感

WWD:2人の出会いは?

長谷部悠生(以下、長谷部):もともと僕と怜央とPigbankは中高の同級生で、中学生のころに一緒にバンドをやっていたんです。僕がボーカルで、怜央がドラム、Pigbankがベースという編成でした。年に数回だけでしたけど、そのころからよく一緒に遊んでいました。

Pigbank:中学からの友人だったので、Kroiの活躍はずっと追いかけていました。もちろん、デビューライブも観に行きました。

WWD:Pigbankがグッズ制作に関わるようになったのはいつ?

Pigbank:21年11月に発売した“nerd”コレクションから担当しているので、もう5年目になります。

長谷部:19年に初のフィジカル盤「Polyester」をリリースして、そこで初めてメンバーで「グッズを作ろう」という話が挙がったんです。ちょうどその頃、Pigbankがデザインをやり始めたので、グラフィックの制作をお願いできないかと話を持ちかけていたのですが、そのときは頓挫してしまって。

Pigbank:「まだこのレベルだと厳しいよね」という話になって、一度白紙になりました。その2年後に改めて声を掛けてくれて、とてもうれしかったのを覚えています。

WWD:それぞれの役割分担は?

長谷部:僕がグッズのアイデアを出しつつ、それをPigbankが実際にデザインしています。勘違いされがちなんですけど、僕が手を動かすことはあまりなくて。僕はグッズの撮影現場でクリエイティブ・ディレクターとして動くことが多くて、「グッズ制作」という点では信頼しているPigbankが担当してくれています。

Pigbank:とりあえず僕が何パターンか作ってみて、長谷部に投げるということが多いです。それをベースに2人でディスカッションして、細かな修正やデザインの微調整を加え、最終ジャッジは長谷部に委ねています。

WWD:もめたりはしない?

長谷部&Pigbank:しないですね。

Pigbank:被った(笑)。性格的に相性が良いんだと思います。

長谷部:あとは、お互いグッズ作りを本業にしていないから、衝突することが少ないのかも。僕は音楽、Pigbankはグラフィックデザイナーをメインにしているから、気負わずに好きな商品を、好きなように作れている。

グッズという限られた領域で「いかにぶちかませるか」

WWD:グッズ制作において意識していることは?

長谷部:あくまでも“グッズ”でありたいんです。価格を上げることができたり、自由が効くからという理由で「アパレルブランドに発展させた方がいい」とアドバイスをいただくこともありますが、それは考えていなくて。僕らは服作りのプロじゃないし、すごいブランドはほかにもたくさんあるので、“グッズ”というカテゴリーの中でいかにぶちかませるか、そこに挑戦したい。

Pigbank:打ち合わせでも「これはグッズじゃない」「尖りすぎている」みたいな話をよくします。だからこそ、グッズという枠の中で、僕らが本当に着たいと思えるものを作ることが軸になっています。

WWD:ほかのアーティストのグッズと差別化を図るためのこだわりは?

Pigbank:Tシャツに関しては、オリジナルのボディーを作ったんです。少しシャープに見えるシルエットにして、男女問わず、どんな体にもフィットするような形を目指しました。ほかのアーティストは、スピーディーかつ手頃な価格でできる“ありもののボディー”で作ることが多いと思いますが、KroiはTシャツのシルエットにまでこだわっています。

サイズの売れ行きをチェックしていると、シルエットに流行があることが分かります。少し前はオーバーサイズがはやっていたので、Lサイズが売れていたのですが、昨今はSやMサイズが売れる時代に。そんなファンのニーズを瞬時に察知して、グッズに反映するようにしています。

長谷部:手っ取り早くたくさんの人に買ってもらうために、ありもののアイテムにロゴを載せただけのものを販売するとか、そんな手段もあると思うんです。でも、僕らはやらない。1つの作品を作る意識で、グッズ制作には向き合っています。

WWD:話を聞けば聞くほど、グッズ制作への「本気度」が伝わってくる。

長谷部:いやぁ、自分でもどこまでやるんだろうって引きますもん(笑)。予算が許すなら、もっと良い生地を使用したり、プリントにお金をかけたいんですけど、「お金をかけずにどこまでできるか」というのが逆にグッズの良さであり、面白いところなんですよ。

WWD:Tシャツ、タオル、ステッカー、缶バッジなどのさまざまなアイテムを展開しているが、グラフィックの被りがほぼない。

Pigbank:バリエーション豊かにするために、いろいろなグラフィックを考えています。長谷部の要望で、一度どこかで使ったグラフィックは極力転用しないというルールを設けています。例えば、缶バッジで使ったグラフィックはタオルで使わないとか。ファンを飽きさせない工夫を凝らしています。

グラフィックはファーストインプレッションがとても大切なので、一瞬でいかにインパクトを与えられるか、「かっこいい」「すてき」と思ってくれるかが勝負。僕はほかのアーティストのグラフィックも手掛けているのですが、Kroiのグッズはグラフィックを提案する量が圧倒的に多い。

WWD:となると、PigbankのKroiへの理解度が重要になってくる。

長谷部:インディーズのころから僕らの活動を見てくれているし、メンバーとも仲が良いので、かなり理解してくれている。「Pigbankの中でのKroiっぽさ」というのは非常に的を得ていて、ほかの人には務まらないと思います。

Pigbank:あ、ありがとうございます(笑)。細かな話ですが、Kroiのロゴにはこだわりがあります。基本的に力強いタイポグラフィーを採用していて。線の細いスタイリッシュな書体はKroiにあまりふさわしくない気がするので、ファンクさとか、パワフルな印象を与える書体でKroiらしさを表現しています。

WWD:メンバーにグッズを初披露すると、どんな反応があるのか。

長谷部:みんな“グッズ担当大臣”に全幅の信頼を寄せてくれているので、「ええやん」って反応をくれる。でも、メンバーが全ラインアップを知るのは、ファンの皆さんと同じタイミングなんですよ(笑)。インスタの公式アカウントに投稿して初めて知るみたいな。僕が細かく共有しなきゃいけないんですけど、もはやメンバーもこの状況を楽しんでくれています。

予算がない中での工夫 ルック撮影を支えるのは友人のクリエイター

WWD:7月、「Kroi Live Tour 2025 - HALL」コレクションのグッズ撮影にも密着させてもらった。長谷部さんがプロップの設置から写真の画角チェック、細かなスタイリングまで自分で手を動かしていた。

長谷部:自分でもやりすぎだな〜って思います(笑)。撮影の知識は全くなかったんですけど、アーティストとして撮ってもらう機会はたくさんあったので、その現場からインプットしていましたね。グッズを担当するようになってからは、ブランドのコレクションルックも見るようになりました。

Pigbank:僕から見ても長谷部は「ようやるわ〜」って感じです。ほかのアーティストと比べて、グッズに対しての熱量が違いますね。物撮りだけじゃなくて、モデルを入れたルック撮影をするアーティストも珍しいと思います。

WWD:「Kroi Free Live "Departure" at 横浜赤レンガ倉庫」はサッカー、「Kroi Acoustic Live 2025」はビリヤードと、コレクションによってテーマを設けており、ファッションブランドに負けないくらい本格的な仕上がりだ。

Pigbank:毎回2人でテーマを決めて撮影していますが、スタジオから撮影イメージのリファレンス収集、プロップの選定まで全て僕らで決めています。

よく驚かれるのが、クリエイターをほぼ友だちで構成していること。モデル、カメラマンだけでなく、撮影場所や小道具の提供まで、ほとんど友だちに頼ってルックを完成させているんです。友だちの両親の別荘や白ホリのスタジオ風に撮影できる駐車場を借りたり、プロップもみんなで持ち寄ったり。DIY的に作り込む方がむしろ“味”が出るんです。

長谷部:友だち最高っす、まじで(笑)。

WWD:2025年8月には渋谷で「Kroi Live Tour 2025 - HALL」のツアーグッズを販売するポップアップも開催していた。反響は?

長谷部:3日間で約1600人が来場し、大盛況でした。毎日ポップアップに顔を出して、ファンの方と直接コミュニケーションを取ることも心掛けていました。毎週配信しているラジオ「Kroi 長谷部悠生のロゼッタスペース」もやっているので、ラジオネームで応募してくれたリスナーさんが来てくれたり、韓国や台湾など海外からの来場者もいて、驚きました。次は大阪や福岡などの地方でも開催したいです。

「グッズはファンが身に付けて完成する」

WWD:今後やってみたい、まだ挑戦していないグッズのカテゴリーは?

長谷部:スニーカーと雨具ですね。「バブアー(BARBOUR)」や「ハンター(HUNTER)」とコラボレーションして、レインブーツとか作りたい!プライベートで「フジロックフェスティバル2025(FUJI ROCK FESTIVAL 2025)」に行ったんですけど、ポンチョとか作ったらみんな着てくれそう。背中に「961(クロイ)」って文字を入れたりして、雨降ったら最強じゃないですか。

WWD:アイデアはたくさんありそう。

長谷部:いや、実はネタ切れで……あとは「ゴミ箱」しか残ってない。スマートフォンのメモ機能にパッと浮かんだアイデアを書き留めているんですけど、「Kroiオリジナルゲーム」とか、「Kroiマトリョーシカ」とか書いてある。ライブチケット1枚分が貯まる貯金箱もいいな。

Pigbank:「Kroiマトリョーシカ」いいじゃん!背の順で出てくる仕組みで、最後は関さんで(笑)。

長谷部:「Kroiマトリョーシカ」面白いよね。ツアーのアイテムを考えるときに、1つちょけたグッズがほしくて。今回のラインアップでいうとニットネクタイとかハンガーとか、ほかのアーティストがまだ出したことのないアイテムを出したいんですよ。

WWD:そんなユニークな製品もグッズとして見かけるようになったが、ひと昔前と今のグッズ文化で変わったなと思う部分は?

長谷部:みんなよく写真を撮るようになったなと感じます。昔はどのアーティストも物撮りだけで、着用画像を載せているイメージがなかったんですけど、最近はメンバーが着ている写真をSNSに載せたり、モデルに着せたりと、アイテムの魅せ方を工夫するアーティストが増えてきたなと感じます。SNSが発達したことも関係してそう。

WWD:ほかのアーティストのグッズをリサーチすることもあるだろう。「グッズがおしゃれだな」と思うアーティストは?

pigbank:王道ですが、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(RED HOT CHILI PEPPERS)のグッズはやっぱりかっこいい。総柄のアパレルアイテムは本格的でクオリティーが高いと思います。予算が許すなら、僕らも挑戦したい。

長谷部:国内だとChilli Beans.(チリビーンズ)さんやVaundy(バウンディ)さんのグッズは、ユニークなアイテムが多いので毎回チェックしています。あとは、K-POPグループのグッズはファッションとして成立するアイテムが多く、とても上手だなと思います。

WWD:近年、ライブグッズはどんどんおしゃれになってきている印象。ファンは、グッズにどんな価値を求めていると感じる?

長谷部:リアルクローズとして日常に取り入れられるデザインが重要視されていると感じます。ライブグッズはどうしても「記念品」のイメージが強く、特にTシャツはツアーが終了すればパジャマになってしまったり、タンスの奥にしまわれてしまったり。そうならないように、日常でも着たいと思わせるおしゃれなデザインは欠かせません。

一方で、メモリアル感も求められていると感じます。やはりライブグッズですから、「ライブに行った」という証はほしいと思うんです。だから、この2つのバランスは意識しています。

結局、グッズはファンの皆さんが身に付けて完成するもの。日常で使ってもらうことで、僕たちの音楽と同じように“生活に溶け込む”存在になると思います。グッズという枠の中で、僕らなりに可能性を最大限広げていきたい。

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