展示、ワークショップ、トークセッションなどの多様なコンテンツからなるデザインイベント「DESIGNEAST(デザインイースト)」が9月19~21日に大阪・北加賀屋のクリエイティブセンター大阪で9年振りに開催される。主催は建築家でdot architects共同主宰の家成俊勝、デザイナーでUMA/design farm代表の原田祐馬、編集者でMUESUM代表兼どく社共同代表の多田智美、デザイン研究者で京都工芸繊維大学教授の水野大二郎、デザイナーでTeruhiro Yanagihara Studio代表の柳原照弘の5人。2009年の始動以来、「デザインする状況をデザインする」をコンセプトに「デザインと都市」「social sustainability」「周縁と中心」「状況との対話」「場への愛」「CAMP」「XO(eXtra-Ordinary)」「MOBILITIES=移動」をテーマに自由に論じる機会をつくってきた。
今回のテーマは相反するものがともに息づき、往来する豊かな状態を表す「IKIKIIKIIKI(いきき・いきいき)」。対話の場、展示、食のプログラム、今日における/これからの建築やデザインについて、そして、生きること・居ることそのものをめぐる多様で豊かな応答が交差する対話の場を生み出すという。
「マメ」はものづくりの背景をアーカイブ生地を通じて紹介
「マメ クロゴウチ」は「Mame Kurogouchi: Notes on Fabric」と題して、これまで日本全国の産地と協力して開発した約200点の生地を展示する。展示ではデザイナーと生産者、加工機械と素材の対話によって編まれた互恵的(相互に利益を与え合うさま。協力関係を築き、それぞれ相手に見返りを与えること)なストーリーを視覚化する。展示はコレクション制作の始まりの記録である⿊河内のノートの抜粋に始まり、2014年春夏コレクションから2025年秋冬コレクションまでに開発したオリジナル生地が並ぶ。インスピレーションの起源と織り上げられた⽣地を展示することで、「マメ クロゴウチ」のデザインを前進させる記憶、⽂化、ものづくりの円環の⼀端を紹介する。黒河内は21日、DESIGNEASTの実⾏委員である柳原照弘と⽔野⼤⼆郎と鼎談を行う。柳原は東京・羽根木の「マメ」直営店や表参道の旗艦店の設計を手掛けている。
「種と旅と」がコーディネートするマーケット
食分野では「種と旅と」がコーディネートするエリアが登場する。ナチュラルワインにあわせて各地の料理人が腕をふるう立ち呑みエリアのほか、在来種野菜や天然酵母の味噌、天日干しの昆布、クラフトアイスやタコス、お弁当を販売するマーケットエリアを設ける。また、インスタレーション「いのちのやさい」も実施する。
「種と旅と」は長崎県雲仙市のオーガニック直売所タネトの店主・奥津爾と青果ミコト屋の鈴木鉄平が主宰するプロジェクト。全国各地で料理人と農家、八百屋がつながりその土地の在来種、伝統食を味わうイベントを行っている。
サンダー・ワッシンクと廃材を利用した家具をつくる
日本とオランダを拠点に活動するデザイナーでアーティストのワンダー・ワッシンク(Sander Wassink)はワークショップ(事前予約可)と展示を開催する。今回は家屋解体時の資材を活用した、オリジナルデザインの家具「V.5.0」を制作する。参加費は1万8000円で、デザイナーも常駐しており共同で制作が可能。制作した家具は、もちろん持ち帰ることができる。ワッシンクは「作品は、固定された完成形を求めるのではなく、変化し続けることや文脈の移り変わりを価値として捉える」と語る。
ワッシンクはこれまでオブジェクト、インテリア、建築、大規模インスタレーションと、国内外での幅広い実践を展開し、見過ごされがちなものから新たな価値を見出してきた。2024年には建築家の長坂常を含む多様なプロフェッショナルに自身がデザインした椅子の構造パーツを提供し、デザインしてもらう展覧会を開催している。
タイルやダンボールの可能性を広げる展示やインスタレーション
「タジミカスタムタイルズ(TAJIMI CUSTOM TILES)」はマックス・ラム、 イ・カンホ、ロナン・ブルレックと取り組んだ作品を展示する。「タジミカスタムタイルズ」はタイルの日本最大産地である岐阜県多治見市の技術の高さや多様性、タイルの可能性を伝えるために、産地のメーカーと連携し、オーダーメイドタイルを制作する。伝統的な成形や焼成技術、豊かな釉薬表現が強みで、多治見の本社にはリサイクルタイルの研究開発などを行うラボやギャラリーを併設する。
ダンボールに向き合ったものづくりや、その加工のための道具開発など、独自の視点で探求を続けてきたインターデザイン・アーティストでダンボール社会学者の織咲誠は最新作「Hug Box♡ーー分断のない世界のつくりかた」を展示する。これは従来のダンボール箱に存在する切れ目や接着を“分断”と捉え、それを無くすことで誕生した世界初の構造をつくったもので、分断のない一枚構造から、シートから箱へまたその逆にとワンアクションで変形。接着剤もホッチキスも使わず自立する革新的な「箱」だという。分断や対立が煽られる時代に、日常的な素材を通して「調和」を提示する試みで、織咲の思想と造形が一体となった空間体験を提供する。
コンセプト「IKIKIIKIIKI」に込めたおもい
DESIGNEAST実行委員会のコンセプトを紹介する。
どこでも、なんでも、“デザイン”と呼ばれる今日。その広がりのなか、私たちは新たな希望の萌芽を感じています。
それは、ささやかな存在で目立たずとも、戦術的で、また、長期的・包括的・再生的・利他的・自律的な営みであり、これまでとは異なる生存・居住のあり方(Habitability)への希望です。この希望が示す“Habitability”は、あらかじめ計画された近代的な生活の空間ではありません。むしろ、「テリトリーに住まう」という感覚ーーつまり、土地や環境に根差し、自らを含むさまざまな人や生き物、制度、時間との関係のなかで、暮らしの場をともに育んでいく、「関係的なデザイン」です。
ロビン・ウォール・キマラーの著書「植物と叡智の守り人」のなかに、「プポウィー」という言葉があります。これは、あるアメリカ先住民が、キノコが一夜にして地面から顔を出す力を表す言葉です。「関係的なデザイン」は、この「プポウィー」のような、言語化される以前の表現力に近いものだと私たちは考えています。しかし、近代的で分析的な、分別智的な見方に慣れ親しむにつれ、私たちは、こうした力を失いつつあるのではないでしょうか。
それらは、アーティストや人類学者、生態学者により、言語化以前にある「宙吊り状態の価値」として表現されてきました。また、さまざまなデザイナーや建築家が、そうした表現を感知し、制度・法律・産業といった枠組みに橋渡ししてきた歴史があります。しかし今、都市的な職能としての建築家やデザイナーに、「プポウィー」のような力を取り戻すことはできるでしょうか。「関係的なデザイン」を実践することは、この問いに対する応答のひとつになりうるのではないかと考えています。
それは、近代と土着、都市と地域、利己と利他、西洋と東洋といった、二項を対立させることなく、矛盾をまるごと呑み込みながら存在させる「一即夛(いっしょくた)」の状況をデザインすることでもあります。今年のDESIGNEASTのテーマ「IKIKIIKIIKI(いきき・いきいき)」は、相反するものがともに息づき、往来する豊かな状態を表しています。
・予測可能で短期的・片利的なデザインの代替として、長期的で関係的なデザインは、既存の価値構造を撹乱しうるか?
・今ここの「圏内」と、周縁化された「圏外」の世界観をつなぎとめ、往来する豊かな回路をデザインすることは可能か?
9年ぶりに開催するDESIGNEASTでは、こうした問いに対する多様で豊かな応答が交差する場をつくりたいと考えています。今日における/これからの建築やデザインについてはもちろん、生きること・居ることそのものをめぐる対話の場となるはずです。
イベント詳細
◼️:DESIGNEAST IKIKIIKIIKI
日程:9月19~21日
時間:9月19日 前夜祭 18:00~21:00
9月20~21日 11:00~21:00
場所:クリエイティブセンター大阪
住所:大阪府大阪市住之江区北加賀屋4-1-55
入場料:19日 一般・学生 2000円(コース料理は別途申込みが必要)
20~21日 当日チケット 一般 3000円、学生 2000円
PIY(Price it Yourself)チケット 1万円~
前売チケットはPeatixで販売中