ファッション

アレッサンドロ・ミケーレが初の自伝を出版、哲学者との共著 「ファッションが私を哲学へと導いた」

3月に「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のクリエイティブ・ディレクターに就任したアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)が、初の自伝「形の人生:再魅了の哲学(La Vita delle Forme: Filosofia del Reincanto)」を発売した。本書は、イタリアの哲学者エマヌエーレ・コッチャ(Emanuele Coccia)との共著で、 発行はアメリカの老舗出版社ハーパーコリンズ(HarperCollins)。5月7日(現地時間)にイタリアで先行発売しており、後に英語とフランス語、ドイツ語の翻訳版を発売する。

本書は、ミケーレとコッチャがコロナ禍の期間中の会話を記録していたところから自然と形になっていったが、完成までに3年半を費やしたという。ミケーレによれば、「誤解を招くメッセージとならないように」タイトルに“ファッション”という言葉を使うことを意図的に避け、装丁は“未定”を表現した曖昧な色調とシンプルなデザインに。ミケーレの色彩や装飾への愛が語られているにもかかわらず、写真やスケッチも一切収録されていない。

「グッチ」でのデビューショーを回想 「解雇されると思った」

コッチャとは、ミケーレの長年の恋人でもあるローマ・ラ・サピエンツァ大学のジョヴァンニ・アッティーリ(Giovanni Attili)教授による紹介で出会ったという。「初めは、哲学は難しく頭を混乱させるもので、限られた少数の啓蒙された人々のためのものだと思っていた。しかし、哲学は人生に密接に関係していることに気付き、自分の考えやファッションに対する見解をより明確に説明するのに役立つことを理解した」と振り返り、「ファッションが私を哲学へと導いた」と説明。実際、2015年にミケーレが「グッチ(GUCCI)」のクリエイティブ・ディレクターに就任して初めて発表したコレクションのプレスリリースには、アッティーリの哲学を引用している。「一部の人々は、スノビッシュだと感じたようだが、私は哲学が(ファッションを表現する)最も適切な“言語”だと思った」。

当時、ミケーレはこのショーで男性モデルの髪に花を飾りフリルのシャツを着せたことで、解雇されると思っていたと本書で回想している。「キャリアのことは考えていなかった。ありのままの自分で、ただ自然に美しいと思うことを表現した。すると、人々はジェンダーフルイドについて語りだし、私はその言葉を聞いたこともなかったから驚いた。私は子どもの頃、父親の髪を編んでいた。父親はそれを許し、60歳でも編んだ髪で自由でいることを教えてくれた。私は何も発明しない。ただ、観察はする。衣服を創造することは、人を想像することを意味し、多様な宇宙のキャラクターを構築することでもある」。

また、本のとある章でミケーレは、「本、像、スカート、椅子、ズボン、カップ、絵画───全てがその形、大きさ、目的、重要性に関係なく存在して生きている」とモノの収集家であることを明らかにし、アニミズム(精霊信仰)についても書いている。さらに、彼の母親と双子の叔母について触れ、彼女たちが68組のリアルな双子を起用した「グッチ」での最後のコレクション“ツインズバーグ”の着想源だったことを記しているほか、創設100周年を記念したアニバーサリー・コレクション“アリア”やロサンゼルスのハリウッドで披露した“ラブ・パレード”など、「グッチ」の他のコレクションについての詳細で本書は締めくくられている。

出版記念イベントにはファンが長蛇の列

発売にあたり、5月11日(現地時間)にはイタリア最大の本の見本市「トリノ国際ブックフェア(Salone Internazionale del Libro)」で出版記念パーティーが開催され、サイン会のためにミケーレ本人も出席。22年11月に「グッチ」のクリエイティブ・ディレクターを退任して以来の初の公の場だったこともあり、多くのファンが彼を出迎え、サイン会は1時間待ちの長蛇の列ができていた。ミケーレは、「まるでロックコンサートのような熱量だ。デジタルが主流の時代においても、若い世代が本を選んでくれると思わなかった」と、集まったファンの多くが若い世代だったことに感動した様子を見せていた。

サイン会後にWWDが行った単独インタビューでは、「ヴァレンティノ」のクリエイティブ・ディレクターについての詳細は避けるも、創設者ヴァレンティノ・ガラヴァーニ(Valentino Garavani)のアーカイブデザインと、クチュールハウスならではの縫製職人の技量と専門知識に感銘を受けたと話し、「今は振り返りと吸収の瞬間。学びと立案の期間」とコメント。また、現在の社会情勢に関する出来事について、「自由が危険にさらされている今、本が見張り役として私たちを守ってくれていると感じる。(為政者は)読書をする者を恐れるが、言葉に没頭することが自由なのだ」と主張し、小説よりも歴史書や新聞を好むことを明かした。

なお、5月31日にミラノの劇場、テアトロ・フランコ・パレンティ(Teatro Franco Parenti)で行われる出版記念イベントにも、ミケーレが登壇する予定。

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