「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は、メンズ クリエイティブ・ディレクターのファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)が手掛けた最新スニーカー“LV バターソフト”を発売した。米「WWD」の姉妹紙である「フットウエアニュース(Footwear News)」は、この新作スニーカー製作の裏側を探るため、イタリアにある同メゾンの工場を訪れた。また、プレタポルテの靴とアクセサリーを担当するデザイン・ディレクターのティボー・デニス(Thibo Denis)にも話を聞いた。
工場は、ヴェネチアから車で40分程のフィエッソ・ダルティコにある。この地域は、ゴンドラ漕ぎ専用の靴職人のギルド(同業者組合)がヴェネチア共和国によって初めて認められた中世の頃から高級靴作りの中心地だった。
2008年に開業した工場は約1万3935平方メートルの広さで、500人の従業員が勤めている。うち半数以上が職人だ。設計は建築家のジャン・マルク・サンドロリーニ(Jean-Marc Sandrolini)が手掛け、芝生の中庭を囲むように配置されている。アーティストのジョアナ・ヴァスコンセロス(Joana Vasconcelo)の高さ15フィートの小剣の彫刻“プリシラ”などのアート作品も展示されている。
選定が難航した“バターのように”なめらかなレザー
ファレル・ウィリアムスはこの工場で、デニスを含む彼のチームと共に試作品を完成させていく。
工房は4つのセクションに分かれており、うち2つがスニーカーで、合わせて95人の職人がいる。裁断から縫製、組み立て、仕上げに至るまで、1足の靴を作るのに250以上の工程があり、19万2500円〜23万1000円で販売される“バターソフト”の価格の理由を裏付けていた。
デニスは、「ウィリアムスはシンプルで無駄がなく、ノスタルジックで、クッションのように柔らかいスニーカーを作ろうとしていた」と最初のアイデアについて明かした。
“バターソフト”という名前からして、ぴったりのレザーを選ぶことは最初の課題だったという。チームは、ラムスキンの滑らかさとスニーカーに必要な強さ、しなやかさと弾力性を備えた、通常よりも少し厚めのナッパレザーを使用することにした。
デニスは製作を振り返り、「私は長くこの仕事をしているが、今回の革選びには最も長い時間がかかった。染色も大切で、革の種類によっては、淡い色には染まっても、濃い色には染まらないものがあるから」と話した。
カラーバリエーションについて、ウィリアムスは「アディダス(ADIDAS)」の“スーパースター”と彼がコラボレーションした“スーパーカラー”コレクションと同様に50色を展開しようとしたが、最終的には24色に絞ったという。
“バターソフト”は新たな定番スニーカーの予感
50年の経験を持つ靴職人のカティア(Katia)は、ベージュレザーのアッパーに厚いフォームの層を接着し、サイドに貼った天然カーフレザーの“LV”ロゴの縁にペイントを施した。ディテールは、同メゾンのレザー製品に着想を得ている。デニスは、「モノグラムを使わなくても『ルイ・ヴィトン』の製品だと分かるように、こうしたコードをフットウエアに入れている」と話す。
スリムなソールは、軽さを出すEVAとグリップ力のためのTPUを組み合わせており、「まるで足が枕で包まれているような感覚になる」とデニスは言う。 靴の裏側には、シーズンごとに変わる小さなエンブレムを控えめにエンボス加工で施した。第1弾はロブスター、2026年春夏はカエルをデザインする。緩く紐を結んでウィリアムスの顔をモチーフにしたシュータンを見せて履いたり、きつく締めてより合理的なシルエットにして履いたりもできる。
“バターソフト”は当初、ウィリアムスのシグネチャーであるフレアパンツと合わせて開発されたが、最近日本を訪れたデニスは、「リーバイス(LEVI'S)」の“501”ジーンズと合わせたり、女性の場合はロングドレスやトラッカージャケット、「ルイ・ヴィトン」のクロスボディーバッグ“ダヌーブ”と合わせたりしているのを見たという。
ウィリアムスが完全にオリジナルで「ルイ・ヴィトン」のためにデザインしたこのスニーカーは、業界関係者の間で“LV トレーナー”に続くヒット作品になる可能性があると見られている。「ルイ・ヴィトン」は、“バターソフト”で再び金字塔を打ち立てようとしているのだ。
クリーンなラインとずっしりとしたボリュームは、ウィリアムスの1970〜80年代のニューヨークのヒップホップシーンへの畏敬の念を体現している。また、「ディオール(DIOR)」のフットウエアデザイナーを7年間務めたデニスが「ルイ・ヴィトン」に参加してから初めて発表した作品で、ウィリアムスにとってもデニスにとっても重要な1足になった。