ファッション

「ニューバランス」とも協業 「ディストリクト ヴィジョン」がマインドフルなランナーへおくる、日本製アイウエア

PROFILE: トム・デイリー(左)、マックス・ヴァロット/「ディストリクト ビジョン」共同創業者

トム・デイリー(左)、マックス・ヴァロット/「ディストリクト ビジョン」共同創業者
PROFILE: トムは英アスコット出身、マックスは独ケルン出身。2016年、2人で米ロサンゼルスを拠点に「ディストリクト ビジョン」を設立。アイウエアを中心にマインドフルなアスリートのためのツールを研究・開発し、機能第一でパフォーマンスを向上させる製品を生み出している。アスリートに対する包括的なアプローチと精神的なウェルビーイングがあらゆる身体運動の基礎であるという考えを信条としている PHOTO:MARISA SUDA

昨今のランニング人気を背景に、インディペンデントなスポーツブランドの台頭に注目が集まっている。米ロサンゼルスが拠点の「ディストリクト ビジョン(DISTRICT VISION)」は、アスリートへ向けたアイウエアブランド。ブランドは昨年10周年を迎え、アパレルやランニングシューズも展開するほどに成長し、この度、5度目となる「ニューバランス(NEW BALANCE)」とのコラボレーションシューズ“エム ティ テン オー(MT10O)”をローンチした。それを記念し、東京でドーバー ストリート マーケット ギンザから皇居までを往復するランニングイベントを開催。来日したブランド創設者のトム・デイリー(Tom Daly)とマックス・ヴァロット(Max Vallot)に話を聞いた。

ーーランニングとの出合いを教えてください。

マックス・ヴァロット「ディストリクト ビジョン」共同創業者(以下、マックス):私たちふたりは15年以上前に、ロンドンで出会った友人同士です。ともに人生について好奇心が旺盛で、夢中になったことは何でも追求してきました。10代でロンドンからニューヨークに移り住んだころは、パーティー三昧で徹夜続きの毎日。そんな生活を続けて、25、6歳になったとき、私たちは自分自身を心身ともに健康だと思えなくなっていたんです。もっといい気分、いい健康状態になれる方法を考えなければならない。そうしてまずは、トムがランニングに夢中になり、ニューヨークのダウンタウンで仲間と一緒に走るように。決まって夜に走っていましたね。クラブキッズだった私たちにとって、ランニングはとても刺激的でした。

私自身は瞑想とヨガにのめり込み、神経系を落ち着かせ、より穏やかに内なる平和を見つけることを学びました。その流れで、ランナーたちに瞑想を教えるようになり、マインドフルなアスリートたちの小さなコミュニティーができました。マインドフルネスとランニング、パフォーマンス、スポーツの統合、橋渡し役になれたんです。そして私たちはいつもアイウエア、特に日本製の製品を愛用していました。本当に世界最高の技術ですよね。当時は既存のスポーツ用アイウエアで適切なレベルとデザイン性のものを見つけることができずにいました。機能的でラグジュアリー感があるものがなかったんです。

ーー「ディストリクト ビジョン」の立ち上げ経緯は。

マックス:最初の試みとして、2014年にダウンタウンのランナーたちとスポーツ用アイウエアの技術的なテストを始めました。そして、2年間かけて実生活で使用したフィードバックと日本のエンジニアリングを組み合わせ、最初のモデルの土台となる“ケイイチ(Keiichi)”ランニング・サングラス・システムが誕生しました。チタン製で軽量で着け心地がいい、さらに低アレルギー性の素材でできた、調整可能なノーズ、イアパッドが付属したスポーツフレームのサングラスです。

ーー日本のアイウエア工場や職人とはどのようにつながったのですか。

トム・デイリー「ディストリクト ビジョン」共同創業者(以下、トム):ロンドンで一緒に暮らしていた17歳のころ、よくワーダーストリート(Wardour Street)にある眼鏡屋へ行っていたんです。そこにはすばらしいメイド・イン・ジャパンの眼鏡が置いてあって、店員の男性はいつもその眼鏡を手に取って「これが最高だ」「これが傑作だ」と見せてくれました。そのときから日本製品の魅力は、私たちの心をつかんでいました。それから11年、私たちが会社を立ち上げようとしたとき、そのアイウエアを作っていた人たちとコンタクトを取ることができたんです。福井・鯖江に住む中西ファミリーは優れたアイウエア工場を所有しています。福井には何度も足を運び、さまざまな素材や先端技術などをテストしています。サングラスを専門にしている人と会うことは楽しく、日本の様子に心躍ります。私たちのやり方で、職人技を守り、モノ作りを健全に保ち、自分たちの役割を果たしたいと考えています。

「追求し続けることで、
結果として精神的な次元に達する」

ーー「ディストリクト ビジョン」のアイウエアのこだわりを聞かせてください。

マックス:サングラスの場合、フレームは主にナイロンとチタンを使うことが多く、その2つの相互作用にこだわっています。パフォーマンスやコンディションに対応するために、さまざまなレンズ技術も用意していて、度付きレンズもあります。 科学と東洋哲学を融合させ、眼筋を保護し、解放することで身体能力を向上させるための包括的なアプローチを研究しています。

トム:私たちはナイロンとベータチタンを組み合わせ、特殊な仕上げを施し、レンズ技術、調整機能などを駆使した軽量なアイウエアからブランドをスタートしました。同じモノ作りを続けて、ようやく11年目。フレームのために開発した小さな機能も、基本的な構造はずっと同じ。それを何度も何度も繰り返し改良することで、さらなる面白さが生まれ、ある種の精神的な次元に達することができるんです。

マックス:「何かにおいて好奇心とこだわりを持ち続けて追求していれば、結果的に精神的なものになる」ということは、日本人が私たちに教えてくれたことです。お寿司でもアイウエアでも、アートでもいい。常に探究心を持って自らに問い続け、一つ一つ発展させられれば、それはスピリチュアルな次元にまで昇華できる。だから、必ずしもスピリチュアルなテーマを製品に押し付けるのではなく、私たちのアプローチや姿勢、そしてプロセスの中にこそスピリチュアルな側面があると考えています。

ーーランニングもフィジカルな側面と精神性を追求する側面がありますね。

マックス:ランニングが興味深いのは反復練習だから。同じ動きを何度も何度も繰り返すことで、人生においてある種の技術を身につけられる。さらにその技に磨きをかけていく。だからランニングをしていると、走ることそのものを超えて、もっと大きな意味を見出した人にたくさん出会います。「ディストリクト ヴィジョン」は、そういったランニングの新しい解釈に興味を持っているランナーたちを対象にしたブランドだと言えるでしょう。

ーー最初の製品となった“ケイイチ”というモデルは、鯖江のアイウエア職人から名前を取っています。

トム:この仕事を始めたとき、私たちはデザインから開発まで、とても長いプロセスが必要だと理解しました。最初の開発には非常に長い時間をかけました。 幸運なことに、非常に優秀な工場と出合い、スポーツサングラスのアイデアを極限まで洗練させる機会を得ました。 11年前にサポートしてくれた(PRやセールスを手掛ける)エドストローム オフィスのヨシコ・エドストロームさんや鯖江のみなさんとの出会いが全ての始まりです。 それを形に残したいと思い、すべてのオリジナルフレームには関わってくれた人の名前をつけています。 中にはエンジニアの名前がついたフレームもある。今日、私たちが何かを購入するとき、誰の手によって作られているのかがわかりづらいですよね。そんな中、私たちなりに作り手への最大限のリスペクトを表しているんです。

「ランニングは、
誰もが自分なりに楽しめる」

ーーマックスは「サンローラン(SAINT LAURENT)」、トムは「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」で働いていた過去があります。ファッション業界での経験は、新たにブランドを作るにあたって役立ちましたか。

マックス:ファッションは、ある種の終わりのないクリエイティブ・プロセス。作り手の多様なアイデアや人々がどのような世界でどんな生き方をしたいのか、さまざまな側面を製品を通して表現することができます。 例えば、サブカルチャーから素材とのさまざまな相互作用などまで。それを知ることができました。

トム:いつも「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」からインスピレーションを受けています。 ファッションが教えてくれたことは、枠にとらわれずにスポーツウエアの基本的な考えや基本的なルール、あるべき姿に疑問を投げかけること。そう問い続ける自信も私たちに与えてくれたと思います。 新しいスポーツウエアの開発には、限りない自由なアプローチが必要なのです。

ーーいま、世界中でランニングブームだと言われます。実感はありますか。

トム:スポーツの分野には常に何かしらのサイクルがあるものですが、ランニングは現在、ある種の成熟期にあると言えるのかもしれません。世界中の国や地域にランニングチームやコミュニティーができています。ランニングはどんな服装でも楽しめるし、それが人々のアイデンティティーの一部になってきています。街でコーヒーを飲んでいても、散歩していても、ランニンググッズを身につけている人が本当に増えました。ある意味、カテゴリーを超越した大きな流れだと思っています。

マックス:ブームになっている最も大きな理由は、誰もが自分なりにランニングを楽しめるからだと思います。人によってはレースに傾倒して競争に夢中になるかもしれないですが、ほとんどの人は、より健康に、より幸せになりたいと思ってランニングを始めます。きっかけは「流行っているからやってみよう」という無邪気なものでいいですし、それからどう自分のスタイルに合わせて進化させいくかはランニングを続ける楽しみの一つ。ランニングは民主的なものだと思うんです。 例えば、東京マラソンで優勝した人は当然プロのアスリートですが、一般ランナーも同じコースを走ることができますよね。F1のように、10人のドライバーのうちの1人になる必要はありません。

トム:かつてはパーティーをしたり、お酒を飲んだり、タバコを吸ったりすることこそがクールだという考え方もありました。でも今の時代は、人々がさまざまな生き方を選択できます。たとえばニューヨーカーも、以前より健康志向で若々しくなっていると感じます。アメリカでは、学校で走ることも流行っています。学生たちは大学を卒業してからも、そのまま移り住んだニューヨークの友人たちと趣味として走り続けている。 それもあの街にランナーが増えた理由だと思います。17時や18時にウェストサイド・ハイウェイに行くと、ランナーの多さに驚きます。ニューヨークはマンハッタンをぐるっと一周走れるので、交通量が多い東京よりも少し走りやすいかもしれないですね。

LAやNYに出店の考えも

ーー「ニューバランス」との第5弾となるコラボコレクションも先日発売しました。

マックス:ミニマムなベアフットランニングシューズです。 足を地面に近づけるように設計されています。最近のランニングシューズの多くは、エネルギー効率を重視し、衝撃から関節を保護するために、非常に厚いソールを採用している しかし、このシューズはシンプルさを追求しています。 もともとは2000年代初頭に開発され、大流行したシルエットをベースにしています。

トム:昨今のシューズと比較すると、クッション性は低く、ソールはかなり薄くなっています。クッション性が高くなればなるほど、地面から足が遠くなるため安定性が損なわれてしまいます。安定性を高め、地面に近い感覚を得られるように設計し、それを天然繊維で実現しました。

ーーワン・ダイレクションのハリー・スタイルズ(Harry Styles)が3月の東京マラソンで、「ディストリクト ヴィジョン」のアイウエアを着用しました。その影響を教えてもらえますか。

マックス:このニュースは日本で大きなインパクトがあったようですね。彼が出場することは、ちょっとした秘密でした。 彼らにとって、おそらく7回目か8回目のマラソン・レースだったと思います。彼はかなり多くのことを経験しているランナーで、「ディストリクト・ヴィジョン」を愛用してくれています。

ーー今後の展望を聞かせてください。

マックス:成長が最優先に考えられる昨今では、多くのブランドができるだけ大きな影響力を持とうとします。それに対し、私たちはできる限り本物でありたい。もちろん成長はしたいし、ビジネスをしてお金も稼ぐでしょう。しかし、常に問題に感じているのは、どうすれば自分自身に忠実でありながらビジネスで成功できるのかということ。表現者として正直であり続けながら、ブランドを新しい水準にまで引き上げ、製品を最高のものにしたい。そして次のステップとしてそれを世界に広めること、これが「ディストリクト ビジョン」の大きな次のステップになると感じています。そう、常に自分たちが持っているものすべてに疑問を持ち続けながら。

トム:あとは、ロサンゼルスやニューヨーク、そしていつか東京にも店舗をオープンする予定です。

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