向千鶴「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクターが取材を通じて出会った人、見つけた面白いことなどを日記形式でお届けします。読者から「人の感情を軸にサステナビリティを語っている」という評価をいただき、確かにそうかも、と納得しました。「人との出会い」やその後ろにあるストーリーを今回もお届けします。
容器を見て、心がスッとした。潔い美しさ
サキュレアクト「530」キャラバン(3/11)
私のビューティ×サステナビリティの先生(本質を教えてくれる方)のひとりが、サキュレアクトの塩原社長です。この記事の下部にリンクを載せているインタビュー記事のタイトル、インパクトがありますよね。「新商品を出すたびごみを作っている気になる」化粧品業界の闇から抜け、“未来の原料”と出合いサキュレアクトを起業――です。大量生産・廃棄に嫌気がさし、「25年携わった化粧品業界を卒業しよう」と考えた最中に、地球環境を改善する可能性を秘めた微細藻類に出合い、プラスチック製品を使わずごみを出さない工夫をするライフスタイルブランド『530(ファイブサーティ)』を立ち上げたそうです。
そんな塩原さんが、天然由来成分100%・ビーガン認証を取得した新製品“ナイトケア クリーム”をもって来社してくれました。見てください、この潔い容器を。ガラスとアルミだけを採用しているため、リサイクルしやすい。半顔ずつ使って試してみようと思います。
サステナぶらないサステナブルを楽しむ
繊維商社ヤギ展示会(3/12)
TBSでSDGs関連の番組を手がけている方の講演で、印象的だった言葉が「人は、喜怒哀楽のどれかに触れたときに心が動く」でした。どうしたらより多くの人にSDGs関連の番組に関心をもってもらえるか?という議題の中で出てきた言葉です。確かに、SDGs関連の情報は「正しい、けど伝わらない」という悩みが常について回ります。
展示会もまったく同じだと思います。そういった意味で、繊維商社ヤギの見せ方はとても上手でした。原料や生地の展示会なのに、まるでアパレルの展示会かと思うようなディスプレーや、テーマごとに設けられたブースの構成が、心に届くものになっていました。そして何より、お土産コーナーが可愛い!展示会のテーマである「サステナぶらないサステナブル」を、キャップや靴下、Tシャツにポップに落とし込んでいて、思わず「可愛い〜」と近寄ってしまいます。喜怒哀楽の「楽」が動いた瞬間ですね。デザインが得意なファッション業界には、この感覚をもっと発信してほしい!
世界へ飛び出せ!日本のイノベーション
ケリング・ジェネレーション・アワード(3/13)
ケリングによるスタートアップ支援につながるアワードがこちら。上海などで先行していたこのアワードですが、ジャパン社の担当者が「日本でも実現したい」と、数年前から準備を重ねてきたそうです。私自身もアドバイザリーボードとして参加したので、とても感慨深い。
ローラの本気度。リジェネラティブへ向かう
「ステュディオ アール スリーサーティー」展示会(3/13)
輝け!意識高い系若者
10代のクリエーションの学び舎「GAKU」合同展示会(3/23)
学び舎「GAKU」が三菱地所と協働し、10代がクリエイターや専門家とともに食・ファッション・建築の分野で「これからのサステナブル社会を構想する」ことを趣旨に、昨年10月から約半年間にわたってクラスを開講してきました。私は講師のひとりとして、成果発表の場で2人の高校生と3人の大人とともにトークイベントに参加しました。
テーマは「ファッションと地球のより良い関係の土台を考える」。難易度が高そうに聞こえますが、副題が「サステナビリティと向き合う中で感じたジレンマと、それらと向き合うことで見えてきた良い兆し」だったため、実際は非常に話しやすい内容でした。それは10代も同じだったようで、環境や人権の問題に関心を持つ高校生たちは、自分の思いを周囲に伝える中で葛藤を抱えていました。その葛藤は、ファッションを愛し、大切な人を思うからこそ生まれるもの。感極まって涙を流す学生の純粋さに触れ、抱きしめたくなるような瞬間がありました。
でも、その必要はありませんでした。彼らはすでに葛藤を越えて、友人や家族とより良い関係を築いていたからです。“意識高い系”。ともすれば揶揄に使われがちなこの言葉を、彼らには勲章のように掲げて進んでほしい。そして、彼らが堂々と自分の意見を言える環境を作るのは、私たち大人の役割だとも思います。
高橋さんが受賞した装苑賞作品が必見
「CFCL: KnitwearからKnit-wareへ」内覧会(3/24)
「CFCL」が5周年を記念して表参道・GYRE GALLERYで開催した展覧会では、代表兼クリエイティブディレクターの高橋悠介さんが自ら来場者に展示解説を行っていました。
わずか5年ながら、ニットへの深いこだわりと独自のクリエーションで存在感を確立してきた「CFCL」。この展示は単なる過去の振り返りではなく、ブランドの“哲学”を言語化し、次の5年を見据える再出発のような場になっていました。会場の入り口には、2009年に大学院生として装苑賞を受賞した作品が展示されています。まさにブランドの原点ともいえるニット作品であり、それだけでも足を運ぶ価値があると感じました。
「社員が60人を超え、私自身が面接に入ることもなくなりました。だからこそ、理念や哲学を改めて社内外に伝えたかった」と語る高橋さん。「ニットだからできることは、まだまだある。ようやくその入口に立ったばかりです」とも。
展覧会に“サステナ”の文字はひとつも登場しませんでしたが、映像で見せる生産工程の開示など、やっていることはまさに“サステナ中のサステナ”でした。
廃棄501と言えば山澤さん。その覚悟とは?
ヤマサワプレス(3/26)
展示会案内にあった「ヤマサワプレスの覚悟を見に来てください」の一文に誘われて、行ってきました。写真は「リーバイス501」が好きすぎて、アメリカで廃棄されると聞いたそれらを大量に買い付け、日本に運んだ山澤さん。「リーバイス」のお墨付きでアップサイクルに取り組み、たくさんの人を巻き込んできた情熱の持ち主です。日本の多くのデザイナーが、足立区にあるヤマサワプレスの町工場を訪れたことがあるのではないでしょうか。
今回新たに提案していたのは、リサイクルデニムを使ったジャケットなど。リメイク工程で出る端材を裁断し、バージンコットンを混ぜて紡績し直した生地を使用しているそうです。アメリカでジーンズを捨てた人は、まさかそれが日本でこんなに美しいブルーのジャケットになっているとは想像もしないでしょう。面白い時代です。
そして、ここで感動の再会がありました。大阪文化服装学院出身で、現在ヤマサワプレスで働いている松浪希峰さん。コロナ禍に私が同校で行ったセミナーを覚えていて、声をかけてくれました。「向さんの講義が、今の道に進む大きなきっかけでした」という言葉に思わず涙。後日も「今後も循環型のファッションを探求し、モノづくりに励んでいきたい」とメールをもらい、2度目の嬉し泣きです。がんばれ!