ファッション

AMIAYAと考えるサステナビリティvol.2 「CFCL」代表兼クリエイティブディレクター高橋「いろんな答えがあるからこそ、軸が大事」

 双子モデルのAMIAYAは、原宿のストリートで誕生し、今や東京のファッションシーンと世界をつなぐ架け橋のような存在だ。2011年には、マークスタイラーから自身がクリエイティブ・ディレクターを務めるアパレルブランド「ジュエティ(JOUETIE)」を立ち上げ、10〜20代の層を中心に支持を集める。「ファッションを謳歌し、自由に表現する楽しさを届ける」ことをモットーに、ポジティブなパワーを発信してきた2人は、環境問題や人権問題など業界の負の側面への関心が高まる今、「私たちが発信すべき責任あるメッセージとは何か」を自問する。本連載では、AMIAYAがさまざまな角度からサステナビリティを学ぶ姿を追う。連載2回目は、無縫製のニットウエアを中心に、「現代生活のための衣服」を提案する「CFCL」の代表兼クリエイティブディレクター高橋悠介に話を聞いた。

AYA:サステナビリティを学ぶため、高橋さんにぜひお話を伺いたいと思っていました。そもそもなぜ起業しようと思ったんですか?

高橋悠介「CFCL」代表兼クリエイティブ・ディレクター(以下、高橋):娘が生まれて自分の生きがいについてもう一度考えたこともきっかけでしたが、産業の大量廃棄の問題や生産地の過酷な労働環境にまつわるニュースを見ていて、経営者として生産地や会社の福利厚生など服以外のことを全てデザインしたいと思うようになったことが大きかったです。加えて、グレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)さんみたいに、一般市民だった女の子でも芯が通っていればあれだけのインパクトを与えられる時代で、世界に届くスピードもどんどん加速している。であれば、自分も早く立ち上げた方がいいと思ったんです。

AMI:高橋さんが洋服を作る上で大切にしていることは?

高橋:ブランド名の「CFCL」は、Clothing for Contemporary Lifeの頭文字で、「現代生活のための衣服」という意味です。僕が目指したのは従来のファッションブランドの反対側の位置。ちょっと乱暴な言い方かもしれないけど、これだけ服が余っている時代、デザイナーの美意識を打ち出して、それに共感する人は買ってくださいというやり方がしっくりこなかった。例えば、デザイナーの感覚や経験に基づいて作られたコレクションではなくて、現代の生活を豊かにするための道具として服を捉え、どのようによい作用を生み出せるかを理念にしています。次に「現代生活のための衣服」の定義を考え、たどり着いたのが「ソフィスティケーション」「コンフォート&イージーケア」「コンシャスネス」の3要素です。都会に暮らす人がパジャマから「CFCL」に着替えて、家事を済ませて、オフィスに行く。スニーカーからヒールに履き替えれば、パーティーやディナーにも行けるぐらいの品格を兼ね備えています。そして、ほとんどのアイテムが家で洗え、速乾性のある「コンフォート&イージーケア」。最後の「コンシャスネス」がサステナビリティにもつながる部分で、人権や環境に配慮された素材の選択、ローカルで透明性のあるサプライチェーンを確保し、企業のスタンスとして示していく。この3つがそろって初めて「現代生活のための衣服」と定義します。

AYA:すごい。そこまでコンセプトを言語化しているんですね。「CFCL」はニットのドレスがアイコンです。ニット素材にこだわっている理由は?

高橋:僕が文化ファッション大学院大学に通っていたころに3Dコンピューター・ニッティングの技法に出会いました。実は大学院に入る前は、テキスタイルデザインと現代アートの批評論を勉強していて、服の縫製は得意分野ではありませんでした。

AMIAYA:そうなんですか。意外です。

高橋:好きなことはやり続けるけど、課題とか面倒くさいと思っちゃうタイプで(笑)。大学院では周りの学生の縫製のレベルが高く、僕は彼らと学んできたバックグラウンドが異なるので、そこで勝負していては勝てませんでした。僕はどうやったら合理的に時間を節約して良いものを作れるかを考えるのが好きなんです。プログラミングニットは、プログラミングを組んでボタンを押したら、3Dプリンターみたいに服が出力されます。学生時代、課題ではチェック項目だったパターンと縫製がスキップできるし、ほかの学生とも全然違った面白い物ができると可能性を感じていました。元々、横編みのニットはヨーロッパで庶民が日常的に着ていた歴史があるので、オートクチュールの時代からニットやジャージをドレスとしてメインで使うブランドはあまりなかったんです。その当時からニットをメインで使用しているブランドは、フォークロアやリラックスの印象が強く、いわゆるモードの雰囲気でニットを扱うブランドはマーケットにおいて希少性があると考えました。

AYA:素材の幅を広げることは考えていない?

高橋:「現代生活のため」という軸は、応用が利くと思います。だから、むしろ服だけでなくてもいい。フードやワインを始めているブランドもいますよね。そういう発展の仕方もできるのではないかとチームで話しています。

AMI:再生ポリエステルでもたくさんの種類があります。環境に配慮したものづくりを目指すときに、まず何を選んだらいいのか分からなくて。

高橋:難しい問いですが、自分たちのフォーカスポイントをはっきりさせることがとても大事だと思います。僕が起業したときは、動物愛護の観点からファーの使用が問題視されていました。でも、石油由来の化学繊維から作られるイミテーションファーには、マイクロプラスチックの問題がある。こっちで良いことが、あっちではあんまり良くなかったりする矛盾はたくさんあります。結局何を選択するかは指針が必要で、突っ込まれた時に一貫性がないと信頼も得られません。「CFCL」では、LCA(ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment)の略。ある製品やサービスの資源採取から廃棄・リサイクルに至るまでの環境負荷を評価する手法)の測定と削減を進めていますが、そこにも矛盾が存在します。例えば、カーボンフットプリントを減らすために製品の重量を減らすと、軽量化しすぎて壊れやすい商品になりえます。従来の半分のCO2排出量で作ったとしても、商品寿命が半分では本末転倒です。素材に関してもさまざまな代替品が出ていますが、自然由来のバイオマスプラスチック原料の需要が増えると農地の奪い合いが起こり、食料品の価格高騰や森林破壊につながりかねません。「CFCL」は、クローズドループ(廃棄されていた製品や原材料などを新たな資源と捉えた循環のこと)を構築するべきだと考えて、基本的には全品番に再生素材を使用し、その比率を上げる努力をしています。 カーボンフットプリントが高いリサイクル素材もあり、ここにもリサイクル素材使用率向上と温室効果ガス削減の両立に矛盾が存在しますが、それでもLCA測定をすれば、どこにどのくらいの温室効果ガスが使われているか分かり、今後の技術革新で削減目標を立てられるので、クローズドループを押し進めたいと考えています。

AYA:お客さまとコミュニケーションを取るときに意識していることは?

高橋:われわれはメーカーであると同時に、メディアでもあると考えています。カスタマーのウェルネスや満足度、リテラシーを上げる役割を担っている。消費を促す物欲をあおるマーケティングもできるけど、影響力を使って生活者をいい方向に先導もできる。今、環境に対して意識が高い人が増えている中で、何を着ていいか分からないと迷う人も多い。確かな情報を定期的に発信して、「CFCL」を着れば間違いないという安心感をしっかりと伝えたい。そういう人たちの受け皿になることは、社会的な企業の存在意義につながります。

AYA:私たちもメディアとしての影響力をどう使うかを日々考えています。

高橋:繰り返しになりますが、サステナビリティは、さまざまな答えがあるからこそ自分たちの姿勢や軸を明確にする必要があります。

AYA:最後に、高橋さんがこれから目指す「CFCL」の形を教えてください。

高橋:ファッションが汚染産業の第2位と言われ、その現実にすごくショックを受けたという話は周りでもよく聞きますが、僕はファッションにとても可能性を感じています。身近だからこそ、良い方向にインパクトを与える力も同時に強いと思うから。ブランドとしては、売り上げ規模もまだまだ成長段階ですが、メディアのインタビューをはじめ、行政の人たちと協議する機会も頂いています。それは、ファッションがそれだけ注目されているからで、ファッションの中にはこれからの日本の経済全体の考え方を変えるヒントがたくさん眠っている気がします。世界にチャレンジすると同時に、日本の地域社会全体に良い影響を与えることも必要です。実現できるかどうか分からないことも現段階では多く、難しい挑戦ではありますが、それくらいの気持ちでやった方が面白いと思うんです。

AYA:なるほど。ファッションの可能性を信じ切る姿勢がすてきですね。私たちもファッションの持つパワーを信じているからこそ、発信できることがあるはず。デザインするのは服だけではないという視点は学びになりました。

AMI:サステナビリティの発信に関しては、何を指針にするかが鍵ですね。軸を決めるためにももっと広く学ばないといけないなと。でも、ファッションに対する信念は私たちも同じです。大切にしたいです。

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