ファッション
特集 Z & ミレニアル世代を直撃 広がるジェンダーニュートラルの波 第1回 / 全3回

Z & ミレニアル世代を直撃 ジェンダーに対する意識と消費動向を探る

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メンズジュエリーというと、以前は「ゴローズ(GORO'S)」や「クロムハーツ(CHROME HEARTS)」が主流だった。一方ジュエラーのターゲットは、長年女性だったが、ここ数年で双方の流れが変わった。男性モデルの起用やジェンダーレスなブランドが増え、ジュエリーを着用する男性が急増。かつては女性のものであったタイプのジュエリーさえ男性も楽しむようになった。この特集では、メンズジュエリーの今を取材し、Z & ミレニアル世代の男性のリアルな声を通して見えてきたジェンダーニュートラルの波について紹介する。(この記事は「WWDJAPAN」2024年4月8日号からの抜粋で、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)

ジュエリー中心にファッションへも広がる
ジェンダーニュートラル

ジュエリーに対する意識が劇的に変化したのは、2020年に登場した「ミキモト(MIKIMOTO)」と「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS 以下、ギャルソン)」がコラボレーションしたパールネックレスだ。パリコレブランドである「ギャルソン」が打ち出したパールネックレスを着用する男性像は、パールネックレス=女性のものという概念を崩した。同年、「ミキモト」のオウンドメディアでは、俳優の千葉雄大がパールネックレスを着用。ちまたでも、男性がパールネックレスを着用し始め、市民権を得た。ここ数年、さらに男性のジュエリー着用率がアップ。ふと若い男性に目を向けると、大なり小なりフープピアスを着用している人が多い。いわゆるファッショニスタという感度の高い人ばかりでない。この2〜3年で一般男性さえジュエリーを着用するのが当たり前になった背景には、ダイバーシティー&インクルージョンといった社会的な価値観の浸透によるところが大きい。企業やメディアといった組織のみならず、インフルエンサーや個人のSNSによる情報発信が急増し、欧米に比べると保守的な日本においても、“個性”が尊重される時代になった。またコロナ禍で、それぞれが個に向き合わざるを得ない状況になり、価値観の多様化が加速。従来の固定観念や枠組みが崩れ、個の時代といわれる今、もはや、“ステレオタイプ”という概念は通用しなくなった。ファッションにおいても同様だ。

ファッションは、身近な自己表現の1つ。“自分らしさ”に重きを置くZ & ミレニアル世代にしてみれば、ファッションは、日常で個性を表現する最たる手段だ。アメカジ、ストリート、トラッド、イタリアンクラシコなどといった男性ファッションにおけるカテゴライズは、もはや過去のもの。若い世代は、ラグジュアリー、ファストファッション、古着など、属性を意識せず、それぞれの価値観で好きなものを選び、自由にファッションを楽しんでいる。ジュエリーが、一般男性にも着用されるものとして広まりつつあるのは、その流れから。ファッションにおいても、メンズ、ウィメンズという区別にとらわれないジェンダーニュートラルの流れは顕著だ。Z & ミレニアル世代が今、何をどのように考え、どこで消費しているかを探る。

阪急うめだ本店・阪急メンズ大阪

アイコンジュエリーが人気、
20代男性の売り上げ3割増

阪急うめだ本店のジュエリー売り場の男性による売上高のシェアは3割程度だ。阪急阪神百貨店の前田薫 第1店舗グループ ラグジュアリー商品統括部 ジュエリー&ウオッチ・呉服・LUXライフスタイル商品部 マーチャンダイザー(取材時肩書)によると、2023年1〜12月の国内男性客によるジュエリーの売上高は、30〜50代は前年から微減だが、20代は3割増と絶好調だという。以前は40代前半の男性による購入が中心だったが、ここ数年で20代による購入増加が目立ってきた。

人気ブランドは、「ブシュロン(BOUCHERON)」や「カルティエ(CARTIER)」など。「ブシュロン」の“キャトル”や“セルパンボエム”が好調で、23年度に最も売上高が伸長したブランドの一つだ。素材や価格のバリエーションが豊かで、好みや予算に応じて選びやすいのが特徴。20〜30代男性が今、最も欲しいブランドだという。阪急うめだ本店でエキシビションを開催した「フレッド(FRED)」の“フォース10”のブレスレットや「ブルガリ(BVLGARI)」のアイコンの“セルペンティ”なども好調で、小さく控え目なものを若い男性が購入していく。阪急メンズ大阪では、昨年、世界初のメンズに特化した「カルティエ」のポップアップショップを開催。前田MDは、「時計の売り上げが主体だと予測したが、ジュエリーの売り上げが約半分を占めた」と話す。“ジュスト アン クル”や“ラブ”シリーズの新作が好評で、クワイエットラグジュアリーと同調する、マットゴールドのヘアライン仕上げの商品が動いた。20代の男性が購入するジュエリーの中心価格帯は30万〜50万円程度。「若い男性が、いろいろなコーディネートに合わせられるベーシックジュエリーを探す傾向にある。各ブランドのアイコン商材が好調」。

これら若い男性によるジュエリーへの関心の高まりは、ここ数年のジュエラーによる男性モデルのビジュアル発信やアジア人男性スターのアンバサダー起用によるところが大きい。「カルティエ」は、アンバサダーにBTSのVやジャクソン・ワンなどを起用。「ブシュロン」も、アンバサダーの中国人俳優シャオ・ジャンをはじめ、男性モデルによるジュエリー着用ビジュアルで男性に向けて積極的にアピールしている。このようにブランド側が、新たな可能性を秘めた男性市場を攻めるのは自然な流れだ。

とは言え、若年層の誰もが高額なファインジュエリーを購入できるわけではない。そのような層の選択肢の1つとして好調なのがファッション・ブランドのコスチュームジュエリーだ。前田MDは、「『ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)』や『セリーヌ(CELINE)』などによるコスチュームジュエリーの需要も高まっている」とコメント。多くのファッションブランドが、エントリー価格の商材として、コスチュームジュエリーを強化する傾向にある。数十万円もするバッグはハードルが高いが、5万円程度から購入できるコスチュームジュエリーであれば手が届く。これらブランドのコスチュームジュエリーは、装いにワンポイント、ラグジュアリー感を添えるのには、もってこいだ。

「若い世代は、メンズ、ウィメンズ関係なく、気に入れば購入する傾向にある。今後、ジュエリーでもメンズ向けのポップアップなどを開催していく」。百貨店でも、若い男性を取り込む施策が増えそうだ。

VCM COLLECTION STORE

「エルメス」は高級時計に代わる
ニュースタンダード

ジュエリーの新たな選択肢としてブームになっているのが「エルメス(HERMES)」のシルバージュエリーだ。ここ数年、同ブランドのアイコン“シェーヌダンクル”(仏語でいかりの意味)を中心に、じわじわ人気が出始めた。芸能人たちが着け始め、一般へ広まりつつある。昨年から「エルメス」では予約を受け付けなくなり、それらビンテージジュエリーの人気が沸騰している。

多くの「エルメス」のビンテージジュエリーを販売する渋谷パルコ4階の「VCM COLLECTION STORE」を運営する十倍直昭GRIMOIRE代表は、「“シェーヌダンクル”は製造された年代によりディテールが違い、男性の探究心に刺さるアイコンジュエリー。高級時計と同じ感覚で着用する男性が多い」と話す。ファッションがシンプルになり、「エルメス」のジュエリーを主役にビンテージやシンプルなファッションを楽しむ人が増えている。購入層は20〜50代と幅広く、30代が5割、20代が2割、その他が3割程度。男女の比率は、7対3だ。ボーナスの使い道やファーストジュエリーとして選ぶ20代もいれば、数本まとめ買いする富裕層もいる。売れ筋はブレスレットやリングで、価格はリングが5万〜50万円、ブレスレットが30万〜300万円。なかには、1000万円以上するレアな商品もある。幅広い層から支持される理由は、「エルメス」というブランドのステイタスおよび、“シェーヌダンクル”の歴史、それに基づく商品と価格のバリエーションの広さにある。「長い歴史と誰にでも合う洗練されたデザインは『エルメス』ならでは」と十倍代表。また、コロナによる消費者の意識や若年層の価値観の変化によるところも大きい。一般的にコロナにより「長く使えるものを」という価値観が広まり、ビンテージへの関心が高まった。また、「メルカリ(mercari)」などの普及により、若年層の消費理由の一つに“リセールできる”という点が浮上。「コロナで価値観が変わり、消費者の間でジュエリーを筆頭にもの投資への意識が高まった。『エルメス』のジュエリーが選ばれる理由の1つは投資価値だ」。昨年からの「エルメス」のジュエリーの希少性の高まりにより、リセール価格は右肩上がりだという。

シルバージュエリーであれば、日常的に着用して楽しめるだけでなく、磨き直せば購入時よりも高額で販売できるかもしれない。そのため、購入者のデメリットは少ない。ステイタス、一生もの、合わせやすさ、そして、投資価値により、今後も「エルメス」のビンテージジュエリーの需要はさらに高まるだろう。

COURTESY OF CELINE ©BVLGARI ©BOUCHERON ©CARTIER ©FRED ©LOUIS VUITTON

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