2024-25年秋冬パリ・ファッション・ウイークの現地リポートを担当するのは、コレクション取材20年超のベテラン向千鶴・編集統括兼サステナビリティ・ディレクターと、ドイツ在住でヨーロッパのファッション事情にも詳しい藪野淳・欧州通信員。朝から晩までパリの街を駆け巡り、新作解説からユニークな演出、セレブに沸く現場の臨場感までを総力でリポートします。今回は、「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」や「ノワール ケイ ニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)」「カルヴェン(CARVEN)」「アンドレアス・クロンターラー フォー ヴィヴィアン・ウエストウッド(ANDREAS KRONTHALER FOR VIVIENNE WESTWOOD)」のショー、そして新作アクセサリー満載の「ロエベ(LOEWE)」の展示会をお届け!
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3月2日 9:30「ジュンヤ ワタナベ」
本日は、通称「ギャルソンデー」です。まず朝一は、「ジュンヤ ワタナベ」のショーを取材しにモンマルトルにある劇場へ。今季は、「パブリックアートが日常にあるということ。造形物と服とのコントラストを美しく表現したいという思いでコレクションを制作した」そうです。半年前は「服ではなく、オブジェを作る」というキーワードでしたが、今季も造形の探求を続けています。
最近の「ジュンヤ」のショーは、見せ方が明快。まずシーズンを象徴するようなコンセプチュアルなピースが登場し、徐々にその要素が服に落とし込まれていきます。今回はエナメルで作った三角錐のフレーム、まさに現代的なアート作品のようなピースを身につけたスタイルからスタート。次第に構築的なシルエットのアウターへと移り変わります。厚手の合成皮革を部分的に用いることで一部を誇張したり、プロテクターのようなメッシュパッドとウール地を合わせたり。ケージ(鳥かご)のように中が覗くチェスターコートやライダースケープ、「ジュンヤ」らしいスタッズやベルトをあしらったロックなピースも登場しました。
“アート”なシルエットに目が行きがちですが、ベースにあるのは端正な仕立てのクラシックなテーラリングや黒のリブタートルネックセーター、レトロな花柄の柔らかなドレスといったリアルなアイテム。その対比が美しいコレクションでした。
11:00「カルヴェン」
「カルヴェン」は、新しいロゴのお披露目と合わせてルイーズ・トロッター(Louise Trotter)による2シーズン目のコレクションを発表しました。会場は構造が剥き出しになったリノベーション中の建物。続く雨に当たって冷えた身体には応える寒い会場ですが、椅子の上には暖かいブランケットが用意されていて幸せ。と、思う人が大多数なようで、一同深いフォレストグリーンのブランケットに包まりショー会場の演出に一役を買いました。
天然素材のブランケットに包まると誰でも丸いフォルムになりますよね?その優しい曲線は今の「カルヴェン」の持ち味です。丸みを帯びた肩の線、歩くと揺れるサーキュラースカートの裾などが女性らしさを引き出します。もう一つ、中間色の使い方が上手なのもルイーズらしさ。ピンクがわずかに含まれるグレー、グリーン味がほんのり入ったピンク、赤みを帯びたブラウンなど独特な色使いゆえ、テーラードジャケットやセーターといった定番アイテムが程よく個性を帯びます。
耳元には大ぶりのゴールドのジュエリーを合わせ、手にはカーフのクラッチバッグを持つなど、アクセサリーはレディライクで格を上げます。チラリと見せる背中の素肌もアクセサリーの一部ですね。「女性は自分のためにどうありたいかを選ぶことができるし、その視線を集めたいのなら、それもOK。私が表現したい女性は、自分自身のために服を着る女性だと思う」とルイーズ。
11:30「ロエベ」展示会
昨日の素晴らしいコレクションを見て、“もっと近くで見たい!触れたい!”という思いが湧いた「ロエベ」のリシー(ショー後の展示会)にやって来ました。パリコレも中盤になると、ショーやプレゼンテーションに加え、リシーのアポが入って来るので、大忙し。「ロエベ」は皆さん、このタイミングでしか来られないようで会場は大混雑でした。なので、写真に影が映り込んでいるのは、ご容赦ください。
ここで紹介するのは、新作のバッグやシューズ。服にも用いられたキャビアビーズの装飾はバッグの“スクイーズ”やバイカーブーツ、パンプスにも見られるのですが、商品化されてもお値段は相当なものになりそう……。メンズでもリチャード・ホーキンス (Richard Hawkins)の作品をビーズ刺しゅうで描いたものがありましたが、まさにアートピースですね。そして、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)らしいユーモアを感じるホワイトアスパラガスやカボチャ、カブなどをモチーフにしたバッグやチャームも。服のプリントにも見られましたが、これは1700年代中盤から約40年間ロンドンにあったチェルシー磁器工房で作られた、フランスのスタイルを模倣した調度品や食器から着想したもの。元となった作品は、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(Victoria & Albert Museum)などに所蔵されているようです。より手の届きやすい提案としては、犬や馬が絵画タッチで描かれたリングやバングルに注目です。
12:00「ノワール ケイ ニノミヤ」
「ノワール ケイ ニノミヤ」の「ノワール(Noir)」とは、フランス語で「黒」のこと。そのブランド名通り、これまでは黒を基調にしたコレクションを見せることが多かったですが、今季はいつになくカラフルで明るいムードです。というのも、今季は「さまざまな色や素材を使用して何か新しいものを作り、光の反射で遊ぶことにフォーカスした」そうです。
例えば、くるくると線を描くように色とりどりの工業資材の細いチューブをPVCの骨組みに通してランダムで立体的なシルエットを生み出したり、レジンで加工したポリエステルオーガンジーの羽根をレインボーカラーに染めてびっしりと飾ってドレスやスカートに仕上げたり、人気アイテムのハーネスをカラフルな樹脂のキューブをつないで作ったり。同ブランドらしい英国調やガーリーなスタイルと編んだり留めたりという縫わない技法を生かしながらも、色鮮やかな装飾的デザインを際立たせています。
特に印象的だったのは、終盤に登場したスピログラフ(幾何学模様を描くための定規)のような形のポリウレタンを重ねたピースをつなぎ合わせたステンドグラスのようなドレスや、見る角度によって色が変わるレンチキュラーシート(3Dポストカードに使われる素材といえば分かりやすいかもしれません)を花型にカットして全身を埋め尽くしたドレス。そこからは、子どもの工作のように純粋にモノづくりを楽しんでいるような雰囲気が伝わってきます。
半年前には「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」が「グルーミーな今の世界中の状況に対して明るく輝く未来を希望したい」という思いで色とりどりのコレクションを見せましたが、今季の「ノワール ケイ ニノミヤ」からもファッションを通して暗い世界を少しでも明るくしたいという思いを感じます。デザイナーの二宮さんは多くを語りません。でも、ショーからはそんなメッセージをしっかりと受け取り、ハッピーな気持ちで会場を後にしました。
13:00「アンドレアス・クロンターラー フォー ヴィヴィアン・ウエストウッド」
前シーズンは、 エレガント寄りで「これがヴィヴィアン新時代か!」と思ったのですが、一転、今シーズンは独特の世界観満載の「いつものヴィヴィアン」に戻りました。ウィーンを拠点とするフォークダンス・トリオのパフォーマンスに始まり、ショーの間もパフォーマンスをバックにモデルが歩くのですが、その内容が「その場で5分近くひたすら回り続ける」「切り株に斧を思いっきり打ちつける」といった、斬新で先が読めないパフォーマーのため目が奪われイマイチ服に目が行きません。
しかし!そこにモデルとして巨漢のサム・スミス(Sam Smith)が登場し今度は彼に釘付けです。とにかく、視界に入る全てがインパクト大で印象に残ります。冷静さを取り戻して服を丁寧に見ると、ルネッサンス後期に着想を得たという柄をふんだんに用いて布を捻りボリュームを作ったドラマチックな男女の服が続きます。
「服を作る目的とは何だろうか?それは心を豊かにすることに他なりません。その根底にあるのは欲望であり、それこそが私たちが創造したいもの、ファッションの本質なのです」とアンドレアス・クロンターラー(Andreas Kronthaler)。パフォーマンスは見るものの心の奥底の欲望を呼び覚ますためのものだったのかもしれません。
アンドレアスがヴィヴィアンと共に、ロココ調のドレスやコルセットの使い方など服飾史上のパターンを学んだ資料の一つはジャネット・アーノルド(Janet Arnold)著「パターンズ・オブ・ファッション」だそうです。また、アンドレアスはそれらのパターンと、近代のスポーツ用プロテクターに共通項を見出したそう。奇想天外に見える一着一着にそれらの学びが含まれていることを知ると、コレクションを見る視点が変わります。
今日は1日が長いので、午後の取材の模様はまた次回!