ファッション

ギャルソン系3ブランド、「アレキサンダー・マックイーン」「ヴィヴィアン」「エルメス」、新生「アン」 個性が大渋滞の長い1日 【2024年春夏パリコレ取材24時 vol.5】

実に長く濃い1日でした。朝9時半の「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」に始まるギャルソン系3ブランドにパワーをもらい、サラ・バートン(Sarah Burton)による「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」のラストショーに涙し、新生「カルヴェン(CARVEN)」の変化に驚き、1時間10分押しの21時10分に始まった新デザイナー就任の「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」で締めくくる、文字通り12時間ファッションショー漬けです。「アンドレアス・クロンターラー フォー ヴィヴィアン・ウエストウッド(ANDREAS KRONTHALER FOR VIVIENNE WESTWOOD)」や「エルメス(HERMES)」も加わり、脳内はパリの街中と同じくらい情報と個性が大渋滞。みなさま、どうぞ一緒に駆け抜けてください。

9:30 「ジュンヤ ワタナベ」 

朝イチの「ジュンヤ ワタナベ」の会場には、オンタイム15分前には到着しました。ファッションショーは大抵オンタイムから30分は遅れるので余裕〜と思っていたら、ガラス張りの会場の前には人だかり。そして、中からは大ボリュームの音楽が聞こえてきます。「あ、ヤバい!ショーの時間、間違えたかも」と血の気が引きましたが、実は社内向けのリハーサルがガラス張りだったので見えちゃっていただけでした。朝から本当に焦りましたが、勘違いでよかったです……。

今季のキーワードは、ズバリ「服ではなく、オブジェを作る」です。序盤は、本当にアート作品を作ったかのような、角錐のようなトゲや角パイプのような棒が飛び出したオールブラックの幾何学的なルックが登場。コンセプトを明確に表現しています。その後は、これまで服に用いたことのないパターンを駆使し、序盤で見せたコンセプトを「ジュンヤ」らしい合成皮革のライダースジャケットをはじめ、コートやデニムジャケット、ドレスに落とし込んだシリーズ。最後にはクラシックな印象のファンシーツイードを使い、おそらくツイードジャケット史上最高に“攻めた”デザインを披露。オブジェという出発点が着られるアートになるまでを示しました。

10:30 「カルヴェン」

「カルヴェン」がパリコレに戻ってきました。2018年に経営破綻し中国のアイシクル・ファッション・グループ(ICICLE FASHION GROUP)に買収されて以降、中国内を中心にビジネスを続けてきた同ブランドですが、今季から「ジョゼフ(JOSEPH)」や「ラコステ(LACOSTE)」で実力を発揮したルイーズ・トロッター(Louise Trotter)をクリエイティブ・ディレクターに迎え、グローバルブランドとしての再生を目指します。

会場は、改装中の古いタウンハウス。最近は未完の空間をデビューの舞台に選ぶデザイナーが多いですが、それはやはり一からブランドを築き上げていくという思いの表れ。ルイーズは「店もロゴも全てを変える予定」で、「クリエイターとして、真っ白なページから手掛けられる機会はめったにない。少しずつ進化させ、このメゾンを多くの人に愛されるものに立て直したい」と話します。

そんな新たな章の幕開けに際し、彼女が目を向けたのは、1945年にブランドを立ち上げたマリー・ルイーズ・カルヴェン(Marie Louise Carven)。創業者はプレタポルテの先駆者でもあり、ルイーズは「自然への愛とオプティミスティックな精神こそが、特定のシルエットやアイコニックなデザインよりも『カルヴェン』を定義するもの」だと説明します。そして「日常に向けた美しく実用的な服を作ることへのこだわり」が2人に共通する価値観だといいます。

アクティブな現代の女性に向けたという今季の提案は、黒白やニュアンスカラーといった落ち着いたカラーパレットで彩る肩の広いテーラードジャケットやコート、シャツと、ウエストからヒップのラインにこだわったミモレ丈のシアースカートやランジェリーライクなスリップドレス、ビスチエが中心。マスキュリン×フェミニンを軸に、自由なスタイリングを楽しむ提案がポイントです。そこには、ギョーム・アンリ(Guilaume Henry)やセルジュ・ルフュー(Serge Ruffieux)らが手掛けていた2010年代の若々しくてカワイイ「カルヴェン」のイメージはなく、より大人っぽく洗練された女性像を感じさせます。

ウエアからアクセサリーまで、トレンド感とリアリティーを併せ持つ実際に売れそうなアイテムをそろえているのは、さすが創造性と商業性のバランス感覚に長けたルイーズ。ただ、今回のコレクションだけでは、飽和状態の市場において、数あるブランドの中から“このアイテムは「カルヴェン」じゃなきゃいけない”と思わせる決め手にやや欠ける印象でした。価格帯もこれまでより上がるそうなので、今後、ブランドの新たな世界観をしっかりと確立・浸透させていくことが再生のカギになりそうです。

12:00 「ノワール ケイニノミヤ」

黒に鮮やかな色彩を交えてコレクションを制作してきた数シーズンを経て、「ノワール ケイ ニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)」は今季、黒と白にフォーカスしました。バックステージで二宮さんが語ったテーマは、「黒を表現する上での白という言葉に含まれる要素を、黒と白で表現すること」。黒の世界に奥行きを生み出すには、白の存在が重要だということのようです。

それは、もちろん色を意味するだけではありません。ボンデージライクな編み上げのトップスとヘッドピースにふんわりと広がるチュールスカートのスタイルで幕を開けたショーは、相反するもののコントラストがポイント。タキシードや制服を想起させるテーラリングのかっちりした要素とチュールやラッフルの甘さが一つのルックに共存し、それぞれを際立たせています。また、今季は男性モデルが2人登場したのも印象的でした。

「ノワール ケイ ニノミヤ」では、ずっと縫う以外の手法を生かした服作りを探求していますが、新鮮だったのはサスペンダー。そのままスカートやトップスのストラップとして用いたり、パーツをつなぎ合わせてドレスにしたり。クリップ部分を並べて装飾として用いたジャケットもあります。そして後半は、農業などに使う資材の粗いネットを丸めたパーツなどで生み出すドレス。奇想天外な素材で作り上げる異世界的な神秘性は今季も健在です。

13:00 「アンドレアス・クロンターラー フォー ヴィヴィアン・ウエストウッド」

アンドレアス・クロンターラー(Andreas Kronthaler)は、昨年末に亡くなったヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)へのトリビュートを面白い形で披露しました。制作にあたり彼はまず、ヴィヴィアンの個人的なワードローブを整理しそれぞれに番号をつけ、順番をつけたそうです。そしてそれらにインパイアされたルックを制作し、必要だと思う足し・引き算をしてコレクションを完成させました。

結果、ファーストルックは、2004-05秋冬コレクションのジャケット、次は1998年春夏のジャケットのように80年代から2020年代までの年代の服が登場することに。年代がバラバラである分、ヴィヴィアンのスタイルがいかに一貫していたかを知ります。「彼女の着こなし方が大好きでした。いつだって他の誰とも違っていた。そして物がバラバラになるまで着続けました。彼女のコーデュロイのスーツは、20年以上も常に着ていました。素晴らしい修繕者であり、作業はベッドの中で行われました。何も無駄にしませんでした」とアンドレアス。ポリシーが明確な服は、年を経ても古びることなく受け継がれてゆく力を備えているのでしょう。

彼が「これは回顧ではない」というように、いずれのルックも2023年に見て新鮮です。言葉を選ばすに書くと、過剰な「衣装っぽさ」が薄まり、リアルクローズとしての魅力が増しています。膨大なアーカイブとカルチャーを有するこのブランドは、このように“ビンテージ・ドリブン”を武器に2020年代を進んで行くのでしょう。

14:30 「エルメス」

「エルメス」の会場はパリ4区のフランス共和国親衛隊官舎。扉を開けると官舎一杯に春の野草や花が植えられており、別世界へ瞬間移動したかのよう!パリのひどい交通渋滞のストレスが溶けてゆきます。草原の散歩道のようなランウエイでは、エンジ色の“ルージュ”、グレージュ色“エトゥープ”、ホワイト、濃紺の“ノワール”など、レザーに使用している色を、順にフォーカスして展開しました。

新しいのは、アスレチックの要素を加えたスーツスタイルです。しなやかなシルクやラム・カーフスキンのジャケットに、スポーツウエアのようなカッティングで大胆に肌見せをするタンクトップやブラトップを合わせます。タンクトップとスカートが、ボタンの留め方でタンクドレスに変化するなど“モジュール”もキーワード。スカーフの柄を刺しゅうに、馬のブランケットに施されたチェックをプリントにと、メゾンのコードが随所に取り入れられています。

15:00「シャルロット シェネ」

スケジュールの合間を縫って、個人的にも大好きな「シャルロット シェネ(CHARLOTTE CHESNAIS)」のプレスデーがあると聞いて、初めてショールームへ。大きなテーブルを麦で覆ったアーティストのエマ・ブルスキ(Emma Bruschi)によるセットの上に、有機的なシェイプのジュエリーがズラリと並んでいます。今季の新作は“ラッソ”。投げ縄から着想を得たデザインが良く分かるダブルリングやバングルが特に目を引きました。

そして、ショールームでふる舞われていたのは、茶葉専門店コンセルバトワール デ ゼミスフェール(CONSERVATOIRE DES HEMISPHERES)のハーブティー。左岸に内装も素敵なショップがあるらしいので、今回のお土産を買いに行こうと思います。

17:00 「コム デ ギャルソン」

パリの街を歩けば、移民問題を肌で知り、多くの国で起きている紛争や貧困といった暗いニュースが立ち上がって見えます。「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」の川久保怜は、「グルーミーな今の世界中の状況に対して明るい輝く未来を希望したい」との思いを込めて、「無難」とは真逆の、奇抜で明るく、迫力があり不可思議で、子供心やユーモアを感じる、そして圧倒的に存在感と高揚感のあるコレクションを見せました。

身頃も袖も極端に大きく、ピンクと赤を基調とした花や幾何学などの柄はぶつかり合い、壊れて混沌とし、新しい顔を見せます。ブーツもスニーカーもキラキラとしたおもちゃの宝石やボタンで埋め尽くし、これ以上にないくらい「派手」。BGMに採用したメレディス・モンクの声は、聴く者の胸をざわつかせ、人間の本質をむき出しにするかのようで川久保玲のクリエイションと呼応します。

フィナーレにはただでさえインパクトがあるルックがランウエイ上に集合し、ポジティブなエネルギーを放ちます。いつものように、もしかしたらいつも以上に大きな喝采が上がったのは、そこに集まった人の多くが今の社会に何かしらの「闇」を見ており、同時に「希望」を見出したいと思っているからでしょう。

18:30 「アレキサンダー・マックイーン」

夜も更け、姿勢を正して、サラ・バートンによる最後の「アレキサンダー・マックイーン」に臨みます。

会場には、画家マグダレーナ・アバカノヴィッチの作品が展示され、さながら美術館です。「このショーは、女性に力を与えることを常に願い続けたリー・アレキサンダー・マックイーンとの思い出と、チームの情熱と誠実さ、才能に捧げます」というサラからのメッセージの下、届けられたコレクションは、とは言え回顧ではなく、今のチームの持てる力を全て注いだような力作です。特にアトリエの刺しゅう職人たちによる魂のこもった刺しゅうがすごい。端正なテーラードにはマグダレーナの作品からインスパイされた真っ赤な糸の刺しゅうが施されています。

突然渡されたバトンを受け取り、女性らしい視点を注ぎ、職人を育て、英国を代表するラグジュアリーブランドとして育ててきたサラには、家族と関係者から惜しみない拍手が送られました。このラストコレクションは、単なるデザイナー交代ではない。リー・マックイーンからの時代が本当に一区切りする、そんな特別なショーだったのだと実感したフィナーレです。

ショー後の10月3日、新クリエイティブ・ディレクターにショーン・マクギアー(Sean McGirr)が就任することが発表されました。若いショーンがこのブランドをどう変えてゆくのか、新時代の幕開けです。

19:30 「ワイズ」

「ワイズ(Y’S)」は、英国人写真家マックス・ヴァドクル(Max Vadukul)がパリで撮影した2023-24年秋冬ビジュアルの展覧会オープニングイベントをルーブル店で開催しました。マックスは耀司さんと1980年代から交流を深め、99年春夏から2001-02年秋冬まではブランドのビジュアルを撮り下ろしていたそう。そして、今回再びタッグを組み、ビジュアルを撮影したほか、写真をプリントしたカプセルコレクションも制作しました。彼の力強い白黒写真は「ワイズ」の世界観の相性抜群です。パリのお店ではインスタレーションのために作られた映像作品にフォーカスしていましたが、表参道店では写真作品に焦点を当てた展覧会を10月31日まで開催しているので、日本でも彼の作品を堪能できます。気になる方はぜひお店へ!

20:00 「アン ドゥムルメステール」

退任あれば新任あり。「アン ドゥムルメステール」は、今季からメンズウエアデザイナーとして経験を積んだ26歳のステファノ・ガリーチ(Stefano Gallici)がクリエイティブ・ディレクターに就任しました。会場に選んだのは線路の跡が残る細長い倉庫。真っ暗な会場に一筋の光でランウエイを作りました。

前任者のルドヴィック・デ・サン・サーナン(Ludovic de Saint Sernin)はわずか半年で退任しただけに、ここは安定感が欲しいところ。その意味でデビューコレクションは、黒と白、ロングジレのレイヤード、袖の長い白シャツ、流れるようなロングパンツやドレス、透ける素材を対照的な硬質なレザーのベルトやストラップなどブランドのコードをしっかり踏襲し、バイヤー的には「安心」なデビューだったでしょう。願わくば、創業デザイナーの、ロマンチシズムをもっと濃厚に引き継いで欲しい。と思うのはベテラン記者の郷愁でしょうか。

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