ファッション

H&M財団が食品廃棄物活用の新素材や次世代染料などの技術革新を表彰 総額3億円贈呈

H&Mへネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ以下、H&M)の創業家一族による非営利財団、H&Mファウンデーション(H&M Foundation)はこのほど、第7回目を迎えたイノベーション・アワード「グローバル・チェンジ・アワード(Global Change Award以下、GCA)2023」の受賞者を発表した。例年5組だった受賞者数を今年は10組に拡大し、受賞者にはそれぞれ20万ユーロ(3000万円相当)、合計200万ユーロ(3億円相当)を贈呈した。

受賞者には、アイデアのスケール化に向けてH&M財団とアクセンチュア、KTH王立工科大学(KTH Royal Institute of Technology)、ミルズ・ファブリカ(The Mills Fabrica)による1年間のコーチングを提供するほか、ネットワーク構築などを支援する。

クリスティアン・ドルヴァ(Christiane Dolva)=H&M財団ストラテジー・リードは、「今年の受賞アイデアには多様なソリューションがある。これらをスケールできれば、包括的な変革が必要な業界に大きな影響を与えられると信じている。受賞者と協力しながら、これらのイノベーションを加速させていくのが楽しみだ」とコメントした。

受賞者は下記の通り。

銅鉄の200倍の強度で軽量な生分解性素材

イギリスのナノルーム(NANOLOOM)は、グラフェンを元にした高性能かつ生分解性のあるテキスタイルを開発し、海洋汚染の原因となっているマイクロプラスチック問題にアプローチする。グラフェンは、銅鉄の200倍の強度を持ちながら軽量で柔軟な特性がある。ナノルームのヴィクトリア・マタチンスキー(Victoria Mataczynski)最高経営責任者は、「来年には、生産体制を拡大して商品化を目指す。実現に向け、パートナー企業の協力を得て最も効率的な素材の選定を進めたい」と話す。

バイオベースのポリウレタン

イギリスを拠点とするアルグリーン(ALGREEN)は、天然素材由来のポリウレタンを開発した。石油由来のポリウレタンの代替え素材として、靴のフォームや接着剤、コーティング剤を生成できる。

食品廃棄物を活用した生分解性ポリエステル

カナダのオルトテックス(ALT TEX)は、世界のフードロス問題に着目し食品廃棄物を原料に活用した生分解性ポリエステルを開発した。食品廃棄物を3つのステップで発酵させてポリマー化したのちに、溶かして糸にする。

水汚染を防ぐ次世代の染料


インドのケー・ビー・コールズ・サイエンス(KBCOLS SCIENCES)は、生きた微生物を活用した新しい染料を開発した。従来の合成物由来の染色の代替として、水質汚染を軽減させることが期待できる。

海藻由来の繊維で地元の雇用機会も創出

ブラジルのサイコラボ(PHYCOLABS)は、海藻を繊維に加工する技術を開発した。海藻は大量の炭素を吸収する環境面でのメリットがある。加えて、使用する海藻はブラジルの海岸沿いに住む農家から仕入れることで、トレーサブルかつ地元の雇用機会創出にもつなげるスキームを提案した。

農業廃棄物をバイオベースの合成樹脂に


ケニアのリスレッド・アフリカ(RETHREAD AFRICA)は、砂糖キビやトウモロコシの生産過程から出る農業廃棄物をバイオベースの合成樹脂に変え、生分解性のある繊維を製造する。繊維は、石油由来の素材と同等の品質を維持できるという。

染料のリサイクルを可能に

イギリスのダイリサイクル(DYERECYCLE)は、これまで技術的に困難だった染料のリサイクルを可能にした。有害物質の使用と発生を最小限に抑える「グリーンケミストリー」と呼ばれる工程で、廃棄された布から色素を抽出し、新しい染料に再生する。

高速で衣類を分類 リサイクルの障壁を軽減

アメリカのリファイバード(REFIBERD)は、AIとロボット工学を利用して衣服の組成を検出し、高い精度で素早い素材分類ができる仕組みを開発した。これにより、衣類のリサイクル過程で障壁となっていた分類工程を簡素化できる。

ポリウレタンも分解 繊維循環に貢献


アメリカのテレフォーム(TEREFORM)は、ポリウレタンのようなリサイクルが難しい素材を含む繊維を完全に分解し、新たな素材に組み替える技術を開発。繊維を酸化させることで、ポリエステルをベースとした素材を完全に分解・再構築することができ、布地から布地へのリサイクルを実現する。

無駄のない効率的なデザインを可能に


アメリカのSXDは、衣服の製作の過程で発生する残布を軽減させるため、AI技術を活用し無駄のない効率的なデザインを可能にするプラットフォームを開発した。デザインデータと生地情報をもとに、生地をミリ単位で使用する最も効率的なデザインを生成する。

「グローバル・チェンジ・アワード」は2015年に始動。ファッション業界の変革を促すイノベーションを発掘し産業レベルへのスケール化を支援する。受賞アイデアは、地球環境にプラスの影響をもたらす「リジェネレート(再生)」、循環型につながる「リパーパス(再利用)」、誰も考えついたことのない「リイマジン(新たに想像する)」の3つのカテゴリーで評価する。

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