ファッション

新生「ルイ・ヴィトン」メンズに放心し「アルマーニ」「ゼニア」の美学に酔う 2024年春夏メンズコレ取材24時Vol.4

2024年春夏コレクションサーキットが、各都市のメンズ・ファッション・ウイークから本格的に開幕しました。「WWDJAPAN」は今回も現地で連日ほぼ丸一日取材をするノンストップのコレクションリポートを敢行。担当は、メンズ担当の大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリの大阪出身コンビ。時には厳しい愛のツッコミを入れながら、現場のリアルな空気感をお届けします。

6/19(月)
10:00 「ドゥルーフ カプール」

「ドゥルーフ カプール(DHRUV KAPOOR)」は、昨シーズンのゴジラとのコラボレーションが衝撃的だったインド発のブランド。ブルーに染まった会場で、空席を残したまま約40分遅れでショーがスタートしました。今季は何のキャラクターが登場するか楽しみにしていましたが、特定のアニメではなく1970年代のSF映画から着想を得たといいます。コミカルなプリントをオーバーサイズのシャツやTシャツにプリントし、最終的にはストリートウエアに落とし込む。暖色と寒色のコントラストを利かせたカラーパレットは、「スイコック(SUICOKE)」とのコラボレーションによるサンダルにも反映していました。

目のさえるようなプリントもさることながら、魅力はやはり手刺しゅうによる装飾です。インドの職人技を讃え、デザイナーの地元の小規模な工場と提携し、手織りの生地の生産と装飾を施しています。さらに今季は、アップサイクルレザーを使用した2つのバッグも新たにリリース。ジュエリーはイギリス発のジュエリーブランド「ヴァン(VANN)」とのコラボレーションにより、3Dプリントと手仕事を融合させて有機的なフォームのイヤリングやネックレスを制作しました。クオリティーは高いものの、どこかあか抜けないのが課題です。シルエットや構造、パターンなど、洋服そのもののデザインにもう少し手を加えたアップデートを期待します。

11:00 「ジョルジオ アルマーニ」

さあ、ミラノ・メンズのビッグボス「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」の時間です。会場入りは、ミスター・アルマーニとちょうど同じタイミングでした。来年90歳を迎えるとは思えない足取りで、“モードの帝王”はエレガントに横切っていきます。見習いたい。

今シーズンは“物語を紡いで”というテーマに合わせて、ランウエイに巨大なペンを設置しました。インビテーションも、1ページ目に手書き風のメッセージをしたためたノートでした。何だかミスター・アルマーニが贈ってくれたギフトのようでうれしくなります。書く、という行為をテーマに据えて「ジョルジオ アルマーニ」の新しいストーリーを構成していきます。一目見て上質と分かる素材が、柔和なフォームと縦長のシルエットによって優美に動きます。序盤は、ライトグレーやオフホワイトといったナチュラルトーンが中心で、単色のカラーリングが素材感のメリハリをより一層引き立てます。同ブランドが大切にする“マイナスの美学”を象徴するスタイルが続くと、中盤からは徐々に色味が加わり、幾何学柄が物語にリズムを生み出していく。イージーフィットのトラウザーズに合わせるジャケットは、ドロップショルダーのソフトテーラードから、ノーカラーのソリッドなタイプ、巨大なピークドラベルのクラシックなものまで、バリエーション豊富に提案します。ラスト4ルックは、シャープなスーツスタイルが新鮮。肩やボディーラインはジャストフィットで、ネクタイやチーフの合わせで遊び心を効かせました。こんなエグゼクティブがいる企業に憧れます。

ラストはミスター・アルマーニが登場し、巨大なペンを抱えてポーズをとるサービス。ショーのラストのデザイナー登場時は、多くのゲストがスマートフォンを主役に向けるのですが、ミスター・アルマーニのショーは特にその姿を写真に納めたいというゲストが多い気がします。その気持ち、分かりますよ。

14:00 「ゼニア」

いつもは街の中心地から離れた場所でショーを開催する「ゼニア(ZEGNA)」ですが、今季はドゥオーモに程近いサン・フェデーレ広場(Piazza San Fedele)にゲストを招待しました。じっとしていても汗ばむ30度超えの炎天下で行う屋外のショーです。「ゼニア」は気を利かせて、会場入り口でキャップを配ってくれました。ありがたや。そしてその方法がなんともシュールで、壁に開けた小さな小窓から、人の手と共に帽子がニョキっと出てくる、世にも珍しい自動的手動の帽子配布システムです。壁の奥でスタッフが手に取った帽子を一つずつ出すアナログ式で、壁を隔てて人と人が目を合わすこともありません。まるでラーメン一蘭の味集中カウンターです。おかげで、日差しを防いでショーを鑑賞することができました。グラツィエ!

会場には巨大なリネンの俵を積み、曲がりくねったランウエイをリネンで構成されたコレクションが風に乗って軽快に舞いました。春夏に提案するのは、“オアジカシミヤコレクション(Oasi Cashmere Collection)”の対となる、イタリア生産のリネンを使用した”オアジリノ(Oasi Lino)”です。カシミヤとリネンは全く異なる素材であるものの、共通するのはとにかく軽量であること。ジャケットもコートもシャツのような軽さで、エクリュやミントグリーン、アースカラーの色彩も相まって、どこまでも爽やかな印象を受けました。また、アレッサンドロ・サルトリ(Alessandro Sartori)=アーティスティック ディレクターによれば、リネンはカシミヤに最も近い天然繊維で、自由に変幻するといいます。その証となるのが、リネンを加工したジャージーやニットウエアです。これも、素材の開発から縫製までを一貫して自社のファクトリーで手がける「ゼニア」だからこそ生み出せる素材。

ショーに来場した俳優の磯村勇斗さんも大興奮した様子で、コレクションに負けないくらい爽やかな笑顔と共にコメントしてくれました。そうそう、「ゼニア」のショーは演出が細部に到るまでとびっきりかっこいいので、観た後にテンションが上がるのは分かります。とはいえショー後は汗を垂れ流す状態になり、涼むために「プラダ(PRADA)」傘下の老舗パティスリー「マルケージ(Marchesi)」でジェラートをいただきました。大好物でエナジーチャージしたところで、コレクションサーキットはミラノからパリへと移ります。

6/20(火)
15:30 「ランバン」

今季のパリコレは「ランバン」の展示会からスタート。ブルーノ・シアレッリ(Bruno Sialelli)=クリエイティブ・ディレクターが今年4月に退任し、2024年春夏プレ・コレクションはデザインチームによる、創業者へオマージュを捧げたコレクションです。注目なのは、ウィメンズで販売するバレエシューズです。アルベール・エルバス(Alber Elbaz)が手掛けていた、2010年頃に大ヒットを飛ばしたバレエシューズを今秋に復刻します。幅広いカラーバリエーションをそろえ、価格は11万8000円〜。ウィメンズでバレエシューズは昨今のトレンドアイテムの一つなので、この潮流に乗って新体制は好調な滑り出しになるでしょうか。

16:30 「キディル」

さあ、日本人デザイナーのトップバッターは「キディル(KIDILL)」のプレゼンテーションです。会場はルーブル美術館地下の薄暗いスペース。タイトルに掲げた“異端児たち(HERESIE CHIRDREN)”というテーマや会場の雰囲気から、今回もバッキバキのパンクなショーになるのは間違いない、という確信を持ちながらショー開演を待ちます。しかし、ショーが開演してエビータ・マンジ(Evita Manji)の演奏が始まると、なんとずっと静かだったのです。安直なイメージを抱いてしまっていた自分が恥ずかしい。

このアンビエントな空間だからこそ、末安弘明デザイナーの作る服はより一層鋭く映ります。ニットやデニムを激しく切り裂いたり、トム・トッセイン(Tom Tosseyn)による激しいグラフィックを全面にあしらったり、帽子ブランド「ヒズメ(HIZUME)」との不気味なヘッドピースだったりと、今シーズンもDIY精神はフルスロットル。これらは16〜18世紀に存在した“魔女”たちの、世間からの抑圧に反抗する生命力を反映しているのだとか。確かに、フィナーレでモデルがマンジを囲む演出は儀式のようでした。ただ決してシリアスではなく、和装のムードをキャッチーな表現で取り入れており、服に刻んだ“フォーマルアナキスト”“ネクロマンサー”“異端狂気生死”といったストロングワードもどこかかわいらしく映ります。胸に“釈迦”の文字をあしらった、Aラインの巨大スカジャンが特に印象的でした。点で見るとかなりクセが強いのですが、引きで見ると、見た目は激しいけど愛らしい“かわイカつい”「キディル」の無二の世界観がしっかり確立されているのが改めて分かりました。パリコレ初日の切り込み隊長も役もそろそろ板についてきたので、次のステップが楽しみです。

17:30 「ブルク アクヨル」

フランス系トルコ人デザイナー、ブルク・アクヨル(Burc Akyol)が公式スケジュールで初のショーを行いました。現在34歳のアクヨルは、2019年に自身の名を冠したブランドを設立し、23年度「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」のファイナリストに選出された注目株。ブランドの根底にあるのは、フランス人でありながらトルコで生まれ育った自身のアイデンティンティーで、西洋の厳格なオートクチュールと東洋の快楽主義の感性を融合させたスタイルを生み出します。

会場は、彼の自宅兼アトリエである建物の中庭。パリジャンにとって日常的な空間のランウエイに登場したのは、オーガンジーのドレープで装飾した縦長シルエットの非日常的なウエアです。トルコの民族衣装であるケプネクのような、肩に垂直のラインを描くシルエットがジャケットやコートを特徴づけ、彼のシグネチャーのようでした。ケプネクとは、「不思議の国のアリス」のトランプの兵隊のような民族衣装のこと。優れたドレープ技術がドラマチックに体を演出し、デミクチュールのようにエレガントでした。感極まり頬を赤らめ、満面の笑みでフィナーレに登場したデザイナーの姿がとてもかわいらしかったです。エンタメ化されていない、純真無垢なファッションへの愛を感じられた瞬間でした。

19:00 「エチュード」

その次は雰囲気がごろっと変わり、ワークウエアとストリートウエアを融合させたリアルクローズを提案する「エチュード(ETUDE)」のショーに参加しました。ショー会場は立体駐車場の屋上で、パリの景色を一望できる場所。コレクションはワークウエアジャケットやフィッシャーマンベスト、トラックスーツといつもと変わらない内容。よく言えば安定感がありますが、変化がないのは少し退屈でもあります。パリのスカイラインを眺める開放的なショー会場は最高でした。

20:30 「ルイ・ヴィトン」

今シーズンのメンズ・ファッション・ウイーク最大のニュースは、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)=「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」メンズ・クリエイティブ・ディレクターによるデビューコレクションで間違いないでしょう。どのようなショーになるのか、現地にいる人もそうでない人も期待感が膨らみます。会場はパリのセーヌ川に架かる橋ポンヌフで、会場まではボートで移動。目の前にルイ・ヴィトン本社を構える橋上が、ゴールドに輝く巨大なランウエイへと姿を変えました。

1500人にも及んだゲストの人数もさることながら、5メートル歩けばセレブが1人いるといっても過言ではないぐらい、来場者も今まで見たことがないほど豪華です。日本からも歌手のNissy(西島隆弘)さんやNCTのYUTAさんが会場を訪れ、他国のセレブに負けない堂々とした存在感で夢の空間を楽しんでいるようでした。俳優のジャレッド・レト(Jared Leto)なんて、突然目の前の人混みが開けて、運命の人の登場シーンかのように目の前に現れるし。そんな異空間の中で夜10時過ぎにショーが始まると、メゾンの代表的なモチーフであるダミエパターンをさまざまに解釈したコレクションが登場しました。詳しくはショーのレビューやアイテムの詳細をリポートした記事をご覧ください。

ショーは一大スペクタクルだったものの、ミラノからパリに移動してきたバイヤーやメディア関係者にとっては、ストの関係で航空ダイヤが乱れたため、かなりハードな日程でした。だから「アフターパーティーですごいゲストがライブをするらしい」と聞いても、「明日も取材があるし5分だけ見よう」という気持ちだったのです。長丁場のコレクションサーキット取材は、切り替えが大事ですから。

しかし人混みにどんどん流されているうちに、気がつけばライブを行うステージのほぼ真ん前にいるではないですか。夜11時に過ぎに登場した“すごいゲスト”は、なんとジェイ・Z(JAY Z)でした。そして途中でファレルもステージに上がり「I Just Wanna Love U (Give It 2 Me)」を披露します。デザイナーポジションの人がショー後にライブパフォーマンスするなんて、前代未聞です。しかも世界的ロックフェスでヘッドライナーを務めるジェイ・Zが手を伸ばせば触れそうな距離にいて、1、2曲とかではなく、30分間しっかりライブをしてるなんて。「明日も取材があるし5分だけ見よう」と言っていた自分はどこへやら。フルセットをしっかりと見届けて、日付が変わる頃にホテルへと向かいました。ファレルの新生「ルイ・ヴィトン」は、クリエイションという点ではまだまだ未知数ではあるものの、世間からの期待に十分答えた内容だったのではないでしょうか。SNS上で饒舌なファッション評論家のような方たちがさまざまな分析をしていて興味深く見ているのですが、あの現場のパワーを作り出せる個人というのはやっぱり強い。まさに“JOY”な一夜でした。

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