ビューティ
連載 ファッション業界人も知るべき今週のビューティ展望 第96回

古くて新しいRFID技術はブランドの透明性にも寄与

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 ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN.com」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週は、最新テクノロジーではないRFIDが再び脚光を浴びる話。(この記事はWWDジャパン2022年12月5日号からの抜粋です)

【賢者が選んだ注目ニュース】
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 技術そのものはそれほど新しくはないが、その技術を「どう応用し使うか」で新しい事業や顧客体験が可能になる事例が増えている。たとえばコーセーが銀座の旗艦店に設置して大きな話題になったメイクシミュレーター「カラーマシーン」は、プロジェクションマッピングの技術だ。マシンを小型化して色補正技術なども加えることで、顔の上での極めて自然なメイクシミュレーションを可能にした。「自分のなりたい姿」をビューティコンサルタントと試して、終了後は実際の製品で一緒に再現するという一連の体験が消費者からも支持され、即日で1カ月後の予約が埋まってしまうほどの人気という。

 1980年ごろからすでに実用化がスタートしているRFIDも改めて注目を集めている技術の一つだ。アパレル業界ではすでにユニクロをはじめとする多くの企業が導入している。「ユニクロ」のセルフレジに商品を置くだけで何を、いくつ買ったかすぐわかるのは、RFIDのおかげだ。

 これまでRFIDは、主に在庫管理を含むサプライチェーン・マネジメントに強みを発揮してきた。RFIDの仕組みは、埋め込んだタグが発する無線周波を使用して識別情報を読み取る技術で、商品が箱に入っていても瞬時にそれぞれの情報を取得できる。

 これがバーコードやQRコードとなると、一つずつ情報を読み取る必要があるが、仮に棚や段ボール箱に商品が100個あった場合、RFIDなら瞬時に100個分の情報を取得できる。また、生産された段階で製品にRFIDタグを貼り付ければ、その後、その製品が売れただけ生産を追加するといったサプライチェーン・マネジメントのリアルタイムな可視化・効率化も図れる。

 RFID技術で先行しグローバルで最大シェアをもつエイブリィ・デニソン・スマートラック(Avery Dennison Smartrac)によれば、最近は美容業界からの問い合わせが増えているという。その理由の一つがオムニチャネル化だ。パンデミック後に店舗とオンラインのシームレスな行き来を望むようになった消費者に対し、「どこの店舗で試せるのか?」といった情報を発信しながら、オンライン注文を店頭ピックアップしたり、セフルチェックアウトできたりの環境をRFIDを使って整える。化粧品はSKUも多く消費期限もあり、かつ店頭での盗難や紛失によるゴーストストック(システム上には在庫が残るが実際には商品が存在しない状態)、非正規(偽造)品対策も必要となる。RFIDは、こういった課題を一気に解決する手段として期待がかかる。

 もう一つ、RFIDとその関連技術の大きな強みは商品に固有のIDを与えられ、製品の来歴情報を記録し活用できることだ。化粧品であれば、その原材料がどこで生産され、どこで原料化されて、どの工場で加工・充填されたのか、消費期限はいつなのかといった情報を都度記録すればトレーサビリティーを確保できる。エイブリィ・デニソン・スマートラックは読み取ったデータを収集・解析するプラットフォーム「アトマアイオー(atma.io)」も提供し、ここでは製品・原材料がサプライチェーンを行き来する間に、どれほどのCO2を排出しているかを企業に情報提供する「リアルタイム・カーボンインパクト・アナリティクス」などの機能も備えている。その商品が倫理的に問題ない環境でつくられているのか?環境への配慮は?といった消費者が知りたい情報を一つ一つの商品に付いた固有のタグから読み取れる世界が実現する。

 美容事例ではないがさらに踏み込んだ使い方も出てきた。米アディダスは商品情報や購買情報をRFIDで正確に把握することで、製品購入者から使用済み商品をクーポンで買い取り、クリーニング後に再販したり、パーツ分解後にリユース・リメイクしたりすることで、サーキュラーエコノミーに貢献する施策を打ち出している。消費者は、自分の購入した商品の履歴を知ることで、RFIDは在庫やサプライチェーン・マネジメントだけでなく、顧客体験を通してブランド・アイデンティティーの確立にも貢献しているわけだ。

 今後の課題としては、商品の来歴やCO2の排出量といった情報をどうデータベース化していくかというIT側面と、また膨大なデータの中からどういった情報を消費者に届ければさらなる信頼性を得られるのかといったマーケティング視点になるだろう。RFIDタグ自体がさらに安価に活用できることも望まれているが、それは遠からず実現しそうだ。

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