「グッチ(GUCCI)」と親会社のケリング(KRING)は11月23日夜(中央ヨーロッパ時間)、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)=クリエイティブ・ディレクターの退任を発表した。後任は未定。声明によると、「新しいクリエイティブ組織が発表されるまで、デザインオフィスはメゾンの方向性を引き継いでいく」という。(この記事は「WWDJAPAN」2022年11月28日号からの抜粋です)
このニュースに対し、調査会社バーンスタインのルカ・ソルカ=グローバル・ラグジュアリーグッズ担当シニア・リサーチアナリストは、これは「とても良い」と評価。「再加速するために、『グッチ』はメーンストリームに移行する必要も、タイムレスになる必要もない。求められるのは、クリエイティブにおける新たな一章を開くことだ。それは、間違いなく新しいクリエイティブなエネルギーと才能がなければできないことだろう」と述べる。そして、「ミケーレが早く去った方が、いい結果をもたらす」と、正式な退任発表前の23日朝に言葉を濁すことなく指摘した。
彼の見解は、ミケーレが「7年間ほぼ同じことを繰り返してきたため、『グッチ』はブランドとして倦怠期を迎えている」というものだ。「(ミケーレの就任後、)早くから『グッチ』を大量に購入していた消費者(例えば、中国人)がまず飽きたが、これは驚くべきことではない」。ソルカは、ケリングが何度も繰り返しブランドを刷新する力があることを評価し、「グッチ」は「新しいことを提案すれば、すぐにその声を(消費者に)届けられる十分な規模を持っている」と結論づけた。また、「グッチ」の成長鈍化により、ケリングは同業他社より割安で株式が取引されているとも語った。
ミケーレによるジェンダーの既成概念を超越したロマンチックなコレクションは、多くのデザイナーにも影響を与えた。この間「グッチ」は若い世代を中心とする顧客層の拡大にも成功し、特に18年の第1四半期までは5四半期連続で売り上げを前年同期に比べて35%以上伸ばすという大成功を収め、マルコ・ビッザーリ社長兼CEOは100億ユーロ(約1兆4300億円)ブランドへの成長を遂げることを表明していた。21年の売上高は97億3000万ユーロ(約1兆3900億円)で、目標まであとわずかという状況だった。
しかし、成長の鈍化は否めない。ケリングは10月、22年第3四半期の決算報告で、現在の「グッチ」は成長しているものの、グループ内の他ブランドに比べてパフォーマンスが低いことを発表していた。22年第2四半期の前年同期比4%増に続き、第3四半期は同9%増にとどまっている。この数字はアナリストの業績予測をわずかに下回るものだった。これに対し、ライバルであるLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトンのファッション&レザーグッズ部門の22年第3四半期は前年同期比22%の成長を見せている。
また、同決算報告でフランソワ・ピノー=ケリング会長兼CEOは、「伝統と革新の融合」のために歴史的なメゾンコード、アイコニックなハンドバッグ、クラフツマンシップを強化する意向を示していた。
投資運用会社ジェフリーズのフラビオ・セレダ証券アナリストは同月、「私たちは、『グッチ』がブランドとして破滅の一途をたどっており、トレンドを逆転させるために完全なリセットが必要だという見方はしていない。(オンラインとオフライン両方の)キャパシティーやサプライチェーン、実績同様、ブランドがもつ資産価値は非常に強力だと考えている」と述べていた。
過去に「グッチ」のクリエイティブ・ディレクターを務めたトム・フォード(Tom Ford)と同じく映画撮影への情熱を表明しているミケーレの将来は明らかになっていないが、ある関係者は「ピノーの宿敵であるベルナール・アルノー(LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン会長兼CEO)からすぐにでも電話を受ける可能性がある」と推測する。