ファッション

【三宅一生さんから受け取ったものVol.2】高橋悠介/CFCL代表兼クリエイティブ・ディレクター

 三宅一生氏の訃報を受け、多くの人がSNSなどに追悼メッセージを上げている。そのエピソードを通じて功績や人柄、「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」というブランドの哲学を改めて知る人は多いだろう。この連載では特にゆかりの深い人たちに同氏へのメッセージを綴ってもらう。今回は高橋悠介CFCL代表兼クリエイティブ・ディレクター。高橋は、2010年に三宅デザイン事務所に入社し、13年から「イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)」のデザイナーに就任。6年にわたって同ブランドを率いた。

 2010年、デザインする事の意義を十分に理解できていなかった新卒の私に、社会のために衣服をデザインするという精神哲学を、実践によって教えてくださったのは他の誰でもなく三宅一生さんでした。それは私の記憶に鮮明に残り、またCFCLの礎となっている事は疑いようもありません。思想を学び受け継ぐ者の一人として、次の世代にもそのバトンを渡していけるように、またそうした存在になれるように、今後も衣服と、そしてデザインする事そのものと、より一層懸命に向き合ってまいりたいと思います。ご生前のご厚情に深く感謝するとともに、謹んでご冥福をお祈り致します。

 私が在籍した10年間、あまりにも多くの貴重な経験をさせて頂きました。三宅一生さんと共にした全ての時間が私にとって財産で、その中から何か一つを抽出して、思い出として書き出す事は出来ません。また、その体験やその裏側にある思考の深さを伝えられるほど、私には語彙力はございません。ですので彼を尊敬するに至った経緯と、今思う事を書き留めたいと思います。

 幼い頃の夢が建築家だった私は、中学3年生の時にクラスメイトの影響でオシャレに目覚め、ファッションへ興味を拡大させました。裏原ブーム全盛期の当時、足繁く原宿に通っていた私に母が三宅一生さんの存在を教えてくれました。「『イッセイ ミヤケ』も知らずにファッションを語るんじゃない」と怒られたのを覚えています。

 高校2年生の進路相談で、建築の道かファッション道か相当悩み、一つに絞る事ができなかった私は、結果的にインテリアにもファッションにも関わるテキスタイルデザインを学ぶ選択をしました。「空間から服に至るまで領域を跨ぐ仕事をしたい」という漠然とした夢を抱いていた高校3年生だったある日、吉岡徳仁さんの作品に出会い強く惹かれました。経歴には三宅デザイン事務所から独立した事が記載されており、それを見た時に目指す道の一つとして認識しました。

 大学に入ると座学ではアフォーダンスやアノニマスという言葉にデザインの面白さを見出し、テキスタイル専攻では一から染織を学び布への興味を深めました。プロダクトデザイン、コンセプチュアルアート、民芸運動などについても知識を広げいった大学時代、好きな建築家やプロダクトデザイナー、芸術家が「イッセイ ミヤケ」の服を着ていたり、関係性があったり、興味の行き着く先々に三宅一生さんの存在を感じました。

 大学3年生の時に留学したロンドンで、徹底的に叩き込まれたアートにおけるコンセプト主義への違和感(言葉だけでは表現しきれない隙間の大切さ)と、日本人として世界に挑戦する時のアイデンティティの重要性に気付かされた私は、日本への帰国を決めました。そして三宅デザイン事務所に入社したいという明確な目標を持つに至りました。

 私は三宅デザイン事務所に在籍中、欧米での三宅一生さんの評価と敬意の大きさが、日本と比較にならないほど絶大である事を何度も体感致しました。「イッセイ ミヤケ」の服をスティーブ・ジョブス(Steven Jobs)氏が愛用していた事は有名ですが、もちろん彼だけではなく、世界中の著名なデザイナーや建築家、芸術家、写真家、音楽家、俳優、ダンサー、起業家など様々な領域のスペシャリストやイノベーターが愛用していた事は、日本であまり知られていないように感じます。本質的なモノに挑戦し続ける彼らから尊敬されるのは、衣服において同じく本質を捉えて、人間性と向き合っていたからだと私は思います。また衣服という存在が、あらゆる人にとって社会との接点であり、アイデンティティを形成する大きな役割であるが故に、強い影響力があったのではないでしょうか。

 もともと衣服は文明と共に各地域で発展を遂げてきた人類と切っても切れない尊い存在です。それぞれの地域が互いに影響を受け合い、今日のファッションや文化が成立している事は間違いありません。しかしながら昨今の日本において、しばしば現在の衣服の源泉が西欧の服飾であると語られるなど、近代以降の西欧コンプレックスの蓄積によって、衣服に対するヨーロッパ至上主義の節を今なお私は感じます。

 軽やかに領域を跨いで多くのモノを作り上げてきた三宅一生さんの思想を総括する事は非常に困難だと思います。しかし、その功績について改めて一つの領域に留まることなく日本のデザイン、文化における資産として、(断片的でなく)網羅的に継承される事を強く願っております。

 ここに書き留めた事は、三宅一生さんの思考に、ほんの少しだけ触れた私が受け取った視点の一つです。人それぞれ考え方は違えど、日本のファッションや文化が発展する事を望んでいるはずです。時には胸ぐらをつかみ合うくらい熱く議論する事があってもいいかもしれません。心底真面目に本質的なクリエーションに向き合い、次の世代の事を考え、世の中を良くしていく気概を、死ぬまで持ち続けたいと思うのです。

 視座を高めて下さった三宅一生さんに敬意を表すると共に、改めて心よりお悔やみを申し上げます。(高橋悠介/CFCL代表兼クリエイティブ・ディレクター)

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