ファッション

トランスジェンダー当事者のサリー楓が多様性を謳歌する業界に伝えたいこと

 「“自分らしく自由に生きよう”といったメッセージの発信だけでは、皆が自分らしく生きられる世の中が実現しないという事実に真剣に向き合わないといけない」。トランスジェンダー当事者で、建築デザイナー、モデル・タレントとして活動するサリー楓(28)は、多様性を謳歌するファッションやビューティ企業に向けて問題提起する。

 同氏は男性として生まれたが、24歳の時に女性として生きることを決意した。その後、話題を集めた「パンテーン(PANTENE)」の“#PrideHair”プロジェクトの広告ビジュアルをはじめ、テレビ出演やビューティコンテストへの出場など、積極的に表舞台に立ち発信を続けている。同氏にファッション・ビューティ企業に伝えたいことを聞いた。

WWD:これまでのキャリアについて教えてほしい。

サリー楓(以下、楓):大学在学中は、LGBTQ+に関する講演を行ったり、メディアのインタビューを受けたりといった活動が中心でした。モデルとして活動するようになったきっかけは、2018年にレスリー・キーさんが撮影を手掛けるセクシュアルマイノリティーを可視化することを目的としたプロジェクト「OUT IN JAPAN」に参加したことでした。以降、ジェンダーフリーファッションを提案する「ブローレンヂ(BLURORANGE)」のランウエイショーを歩いたり、「パンテーン(PANTENE)」や美容室「TAYA」などの広告に出演したりしました。文化人してテレビやラジオ番組にも出演しています。

WWD:D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進に取り組む企業が増えている。こうした社会の流れについて思うことは?

楓:自分がカミングアウトした当時から“自分らしさ”というものが、ある意味バズワード的にポジティブなものとして使われていました。でも人は、「自分らしくしていいよ」「自由にしていいよ」では、自由に振る舞えないんです。自分の場合もそうでした。

WWD:というと?

楓:自分がファッションやメイクを楽しめるようになったのは、人前に出て発信するようになり、たくさんの人に「きれいだね」「おしゃれだね」と肯定されるようになってからです。それまでは周りの目を気にして洋服を選んでいたので、ファッションは自分のために楽しむものではなく、他人に気を使って取り組むものでした。日々さまざまな場面で、“自分らしく自由に生きよう”といったメッセージに触れますが、それだけでは皆が自分らしく生きられる世の中は実現しないという事実に真剣に向き合わないといけない。「自分らしく生きていいよ」から、「自分らしく生きるのがかっこいい」という段階に持っていくことが必要だと思います。自分はボーダーを飛び越えている姿をカッコいいと思ってもらえるように、発信を続けています。

ジェンダーを乗り越えていく強さや勇気を感じさせてくれるファッションに出合いたい

WWD:多様性を推進するファッション業界に伝えたいことは?

楓:自分の思い描いているジェンダーフリーの風景は、まだ出てきていない気がします。男女で同じ装いをするユニセックスや外見上の性別が曖昧なジェンダーレスモデルの起用などのアプローチは、男女の境界を曖昧にすることで逆にジェンダーに起因する問題を抽象化しているように感じます。自分の考えるジェンダーレスは、ジェンダーを感じさせないことではなくて、意識的にジェンダーを乗り越えていく強さや勇気を感じさせてくれるもの。その先には、自分らしさの延長で「男らしさ」や「女らしさ」も楽しめる時代が来てほしい。そうしたことに挑むファッションブランドや企業が出てきたら、ぜひ何か一緒に取り組みたいです。

WWD:19年にはトランスジェンダーのビューティコンテスト「ミス インターナショナル クイーン(Miss International Queen)2019」に出場している。画一的な基準で美を判断するコンテストへの参加は意外だった。

楓:正直コンテストの存在自体には、あまり前向きではありませんでした。1つの基準であなたはきれいだ、そうではないと格付けをすることや、それが極めて男性的な目線であることへの違和感はありました。あのときコンテストに参加したのはあくまで個人的な理由からでした。自分が24歳でカミングアウトしたときに、両親には就職活動や学生生活についてとても心配されたんです。トランスジェンダーというと、特に芸能や夜の世界のイメージが強く、大学に通ったり、会社で働いたりすることを諦めるのだと思われました。悪意や偏見があるのではなく、社会生活を送るトランスジェンダーへのイメージが不足していたからだと思いました。現役の大学生で、就活中の自分が挑戦することで、今までなかったトランスジェンダーのロールモデルを当事者を抱える家庭や間一般に供給できると考えて出場しました。

 現在もシングルマザーが出場するコンテストやボディコンプレックスを抱える人のコンテストに審査員として関わっています。これらは、一つの物差しの中で高みを目指すものではなく、これからの美の基準作ってくれるもの、物差し自体を発明して提示してくれる人たちを評価し、汲み取るためのコンテストです。世の中の規範的な美ではないけど、芯や強度がある美が今までの本流の美に合流することで生まれる化学反応を楽しみにしています。常識を変化させたり、偏見をなくしたりするためには、やはり美やファッションが必要で、新しい物差しをつくり、広めていく作業の繰り返しでしかないと思うんです。ファッションやビューティ企業とともに、そんな多様な物差しを広めていければと思います。

WWD:今後特に注力したい活動は?

楓:これまでは特に当事者がサバイブしていくための情報提供に力を入れてきました。それはそれで大切ですが、本人たちがさまざまな理不尽な場面でうまくやり過ごしてしまうことで、当事者が抱える問題が逆に見えにくくなってしまうことも懸念しています。例えば、LGBTQ+の職場環境を改善するためには、人事や経営者、「興味がない」「知る必要がない」と思っている多くの人々に勇気を持って語りかけなければいけません。そのために現在は、求人検索エンジンのIndeed Japanとライフスタイルマガジン「BE」を制作しています。LGBTQ+当事者が職場や仕事探しで抱える課題を顕在化させ、理解しようとする機会をつくることができる内容になっているのでぜひ皆さんに読んでもらいたい。日本にはまだまだ、自由に自分らしさを追求することが社会活動においてポジティブに働かない場面が多いと思いますが、これまでボーダーを超えてきた経験を活かして活動を続けます。

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

2022年版繊維商社特集 有力企業8社の「今とこれから」を写真と記事で読み解く

「WWDJAPAN」7月4日号は、10年以上に渡って続くロングラン企画の「2022年版 繊維商社特集」です。海外出張と重たいキャリーバック、トラブルシューティングなど体力と精神力が必要で、かつては男性が多かった商社ですが、今では女性も増えています。また、SDGsやサステナビリティなどの社会貢献や働く意義がより問われる中で、会社側の考え方や評価のKPIも徐々に変わりつつあります。

詳細/購入はこちら