ビューティ

世界最大級の香料メーカーに聞く“エモーショナルな香り”の需要

 近年、香りが心や感情に与える影響の研究が進み、商品に落とし込む企業も増えている。「気分を高める」「リラックスする」といった特定の機能性を香りに結びつけることによって、心や感情へのアプローチを図り、「機能性フレグランス」「ソリューションフレグランス」など呼び方はさまざまだ。以前から研究は進んでいたが、特に新型コロナウイルスが蔓延してから化粧品各社により“心へのアプローチ”が加速し、香りを用いる傾向が強まっている。2021年5月にそんな香りとエモーション(感情)の関係性を研究し、商品化をサポートするプロジェクト「EmotiOn」を立ち上げた世界最大級の香料メーカー、フィルメニッヒ(FIRMENICH)に“エモーショナルな香り”のニーズや今後の可能性について聞いた。

WWD:「EmotiOn」とは。

レベンツァ・トー(Levenza Toh)=フィルメニッヒ 東南アジア・日本・韓国 バイス・プレジデント(以下、トー):ウエルネスアプローチが重要視される今の時代、“エモーショナルな香り”を作るためのツールやソリューションをそろえたプログラムだ。世界中の消費者調査や脳科学研究、弊社の調香師のノウハウを掛け合わせている。われわれは「ポジティブ・パリューマリー(Positive Perfumery)」を掲げており、香りを通して顧客のウエルビーイングの向上を目指している。フレグランス研究の先駆者として、人は香りと感情を結びつけることを発見し、香りは脳に直接さまざまな働きかけをしていることに着目した。

具体的にさまざまなソリューションやツールを展開しており、「EmotiClaim™」は特定の国の人々に刺さるように香りを設計、「Emoti360™」は原料や色料を感情と結びつけてフレグランスのエモーショナルな訴求を実現する。「EmotiCode™」は感情と香りを結びつける独自のコード(方式)で、「EmotiBoost™」はポジティブなムードに導くとされるアコードのコレクション、「EmotiWaves™」はfMRIを用いて香りを嗅いだときの脳波を測定する技術だ。

これらのツールを用いることにより、エモーショナルな効果が期待できる香りを作ることが可能だ。5月のローンチ以来、クライアントからは多くの反響があった。ホリスティックなアプローチで、心に訴求できる新たな香りとして好評を得ている。

WWD:機能性フレグランスの需要は高まっていると感じるか。

トー:現代の消費者は製品の中身に一層気をつけており、製品の効果効能にもシビアだ。オグリビー(OGLIVY)が20年に行った調査によると、消費者の80%はウエルネスを向上したいものの、現在使用しているブランドのたった46%しか信頼していないという。このデータから読み取れるのは、消費者に機能性をもっと分かりやすく伝える必要があること。香りの世界でもそうだ。

 香水はもちろん、日用品においても、今後香りはウエルビーイングを発信する強力なツールになる。コロナになってから香りを遠隔でも伝えるストーリーテリングがより重要になっている。そういう意味でも、分かりやすく伝えられる機能的な香りは必要されている。香りから期待できる機能性やメリットを求めるニーズは高まる一方だろう。

 香りと心身の関係性を誰よりも理解しているのは調香師だろう。われわれは独自で持つ研究力と調香師の力、AIといった最新技術を融合し、今の消費者が求める機能性フレグランスを提供していく。

WWD:「EmotiOn」プログラムではどんな香りが人気なのか。

トー:世界11カ国で実施した調査によると、63%の人がロックダウン中に感じた不安やストレスを和らげるために香りを用いたという。今の消費者は香りから安全性や清潔さ、心の落ち着きを求めている。これらを表現するために「Sereni-Clean™」という香りを開発した。この香りは今後も伸びると感じている。

WWD:コロナはどのように機能性フレグランス市場を動かしたか。

トー:コロナ前から香りのエモーショナルな機能性に着目してきたが、この1年でそのニーズや傾向は加速した。心身ともに影響をもたらしたパンデミックにより、香りの新たな可能性に光が当たったといえる。日本では女性の32%の香りへの興味関心が高まり、33%は清潔感を感じる香りを求めていることが分かった。コロナによってよりヘルシーなライフスタイルを求める人も増え、ウエルネス商材やマルチ機能な商品、自然由来の成分を生かした商品の需要が高まっている。

 香りでいうと、安らぎやストレス解消をかなえ、気分が向上するような健康的な香りのニーズが高まっている。消費者の39%が商品を選ぶ際、こういった健康に訴えかける効果効能を重視するという。外出制限が緩和されつつ今は、「いい気分」「魅惑的」な香りのニーズが戻っているが、安全性や衛生面に気を遣う傾向は依然として高い。少子高齢化が進む日本では、ウエルビーイングだけでなく、衛生や消臭といったニーズも高い。

WWD:機能性フレグランスの未来はどう見ているのか。

トー:商品の機能性は今まで以上に重要になっている。同時に中身も同様に大切だ。ウエルネスを求める消費者は、自身にとってだけでなく、環境のウエルネスにも気を使うだろう。今後の機能性フレグランスは、消費者の心にアプローチするだけでなく、よりサステナブルで地球のウエルビーイングもかなえるものが支持されそうだ。

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