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香りで社会課題を解決する「コードミー」 音楽業界や医療現場など異色コラボで香りの可能性を広げる

 フレグランスベンチャーのコードミー(CODE MEEE)は、香りxテクノロジーでさまざまなソリューションを生み出している。BtoC向けには香りのパーソナライズサービスを、BtoB向けにはオフィスをはじめとした空間の香りプロデュースなどを提供している。これまでにないユニークなサービスを次々と生み出し、2020年度の売り上げは前年比400%増とコロナ禍でも飛躍的に事業を成長させている。最近は音楽業界や医療現場とのコラボも試み、日本のフレグランス市場の発展と拡大に挑戦している。

 コードミーを率いる太田賢司・代表は、日本最大の香料メーカー、高砂香料工業で長く研究員を務めてきた。「香りとITでワクワクする世界を創造する」をミッションに、17年に独立してコードミーを創業。以来、研究員としてのノウハウを生かしつつ、香りの可能性や価値を広げるべく日本のフレグランス市場に変革をもたらしてきた。そんな太田代表は、どのように日本のフレグランス市場を拡大しようとしているのかーー。新たな事業や日本のフレグランス市場について聞いた。

WWD:なぜコードミーを立ち上げたのか。

太田賢司・代表(以下、太田):もともと高砂香料工業でフレグランスの開発を10年行っていた。だが香水、柔軟剤、シャンプー、ルームフレグランスなど、製品が限られたフレグランスマーケットの中で製品開発するのが物足りなく感じるようになり、原料開発に特化した香料会社にいる限りは業界全体のマーケットを広げられないと感じた。そこで香りの新しい市場を創造し、香りの可能性を広げるべく、コードミーを立ち上げた。特に日本は欧米に比べると香りの後進国という印象があると思うが、もっと香りの価値を世の中に問いながら新しい香りの価値を訴求して、新しいマーケットを作っていく。それこそ、香料会社出身の人間ができるのではないか、と思った。世界トップレベルの香料会社での経験は宝であり心から感謝しているし、将来的に事業で恩返しできるように頑張りたい。

WWD:香りの可能性を広げるために独立したということだが、市場を拡大するためにまず着手したことは。

太田:まずは自分で興味あることから仮説を立てて実行しようと考え、パーソナライゼーションに着目した。会社を立ち上げる2017年の少し前から、個人のライフスタイルに合わせて個別最適化されたパーソナライゼーションがヘルスケア領域から盛り上がっていた。香りは人の記憶や感情に直接訴えかける面白いもので、本来香りこそパーソナライズされたら、マーケットが広がるんじゃないかと思った。なので、まずはtoC向けに香り×パーソナライゼーションに挑戦した。

WWD:17年の創業当時、香りのパーソナライゼーションは新しいコンセプトだったが最初から順調に推移したのか。

太田:まず始めたのが、ライフスタイルに合わせてパーソナライズされたアロマ。しかし香水とは違って、自分のアロマを持ち歩く習慣が今までなかった。なので、新しい行動変容を起こすのは一つの壁だった。今までにない暮らし方や香りの取り入れ方にチャレンジするのは、確かに難しかった。

 ただ地道に続けて、徐々に変化を感じるようになった。ヘルスケアとして、ストレス課題に対応して最適な香りを3000パターン以上から、自分に合ったものを作る「CODE Meee ONE」というサービスを提供している。これはいろいろと細かい仮説検証を進めていく上で、一番受け入れられる明確なポイントになったのが、タバコの代わりになっていること。喫煙者がストレス解消のために持ち歩くタバコを、アロマに変えるように訴求した。期待される機能性をうたうソリューション型のアロマとして、コミュニケーションし続けた結果、徐々に浸透したように感じる。

社員のモチベーションを上げるべくオフィスの“香りプロデュース”需要が急伸
オフィスを香りで彩ることで採用コストが削減できた企業も

WWD:BtoB向けではどのようなサービスが好調なのか。

太田:香りの空間演出事業が好調で、中でも働く場所の空間デザインが一番伸びている。「従業員満足度を上げたい」「生産性が上がるような仕組みをリアルの場で設計したい」といったニーズに応えるように、香りを使って空間をプロデュースしている。例えばデスクエリアには集中力がアップする香り、ラウンジにはリラックスできる香り、会議室には会話を促す香りなど、エリアごとに期待される機能性と紐付けた香りを開発して、空間を演出している。これをソリューション・フレグランスと呼んでいる。

WWD:導入した企業からの反響は。

太田:いろいろな意見をいただくが、特に興味深かったフィードバックが2つある。一つは、サービス業に携わっている企業の話。従業員の休憩室に快適度やリラックス度の向上が期待されるような香りを導入した。香りを導入した部屋とそうでない部屋を設置し、さらに他社の香りAと弊社が作った香りBを一定期間置き、そこで休憩した人が次の職場に行くときのモチベーション度をアンケートでとった。すると弊社の香りでデザインした部屋で休憩した人の方が、モチベーションが上がったという回答が圧倒的に多くあった。

 もう一つが、企業の採用コストや離職率が下がった、という声をいただいたこと。組織に一体感がなく悩まれていた企業から、その企業のミッションを香りで表現して提供したところ、社員のモチベーションが上がり、社員からポジティブなフィードバックがたくさんあったそう。別の会社では採用面接に来た人が、オフィスに入った瞬間の香りによって心地よい気分になったと面接官に伝えたそうで、会社の第一印象にまで影響を与えることができた。そういう意味でも、香りの可能性ってまだまだたくさんあるのだと思う。

WWD:サービスの提供以外にも、研究開発にも力を入れている。

太田:先ほどから話に出ている脳波分析もそうだが、現在医療施設と連携して共同研究をしている。医療施設には薬剤や患者の生活臭など、独特な匂いで悩まれている現場が結構ある。最近ではコロナ渦の過酷な環境下で少しでも医療従事者のストレス緩和に役立てるように、弊社で作ったマスクスプレーを配布した。ビフォーアフターでどういう効果が得られるのか、モニタリングしながら研究を進めている。実際使っていただいた医者や看護師から「もうスプレーが手放せなくなった」と言っていただけるぐらい、香りの価値を感じていただけた。香りはこういう風にも作用するのだと、新しい発見につながった。

アイドルの“推しグッズ”にも活用する香り
香りで一生忘れられないライブもプロデュース

WWD:最近は音楽とのコラボレーションも行う。

太田:継続的にアーティストとの連携は進めたいと思っていて、いわゆる共感覚を追求したい。例えば、「音楽x香り」「映像x香り」「触覚×香り」といったクロスモーダルを突き詰めたい。そうすることで体験型コンテンツをより面白くできるんじゃないか、と。今一番興味あるのが音楽で、音楽の世界でより“エモい”体験を作るために香りを用いている。具体的にはアーティストのライブの香りを開発したり、フレグランスのグッズを作ったりしていて、それが今好評だ。

 初めて取り組んだのはシンガー・ソングライターの吉澤嘉代子さんで、セカンドシングル「残ってる」を発売したときに、曲の世界観をアロマで再現した。それはSNSでかなりの反響を得た。アーティストにとってはブランディングの一環になるし、レーベルにとっても新しいグッズ販売の一助にもなっている。19年の年末にはソニーとコラボして、アイドルのフレグランスもプロデュースした。

 コロナ禍において、人って孤独を感じ始めたと思うが、孤独を感じるときに、誰かを感じたり、自分の好きな人を身近に感じていたいというニーズが高まったと感じる。香りは、その人のアイデンティティーに結び付く、パーソナルなもの。だからこういったブランディング・フレグランスは、アーティストとつながる新たな方法、つまり“推しグッズ”の新たな形にもなっている。

WWD:日本は“香水砂漠”といわれたり、フレグランス市場がなかなか伸びないとされてきた。そんな中で日本の香り市場の未来は。

太田:個人的には、そもそも香りの嗜好性が欧米と日本人で違うのが1つの要因だと思う。香水のランキングを見ても、欧米と日本で全然違うので。香り自体が欧米の好みに合わせられてるものが多いため、日本で香水が受けないのだろう。また、日本人にとって香水は優先順位が低いというのもある。例えば外に出掛けるときに、どちらかというと髪型や洋服、メイクを優先する。だからこそ、ヘアケアやメイク、スキンケア市場は日本は大きい。

「香水市場を無理に伸ばそうと思わない」
香水以外の香りの可能性を拡大したい

WWD:それでも可能性はある市場だと感じているのか。

太田:個人的には香水は好きだが、香水のマーケットを無理に伸ばそうとはあまり思わない。それよりも、香りの本質的な価値を広げていきたい。香りのマーケット全体を広げていくのは、別に香水でなくてもいいわけで。香水としてまとわなくても、空間デザインやマスク用のスプレー、ルームフレグランスなど、可能性はいくらでもある。今まで興味なかったけど「香りってこんな価値があるんだ」と認識してもらえるような、新しいマーケットを作ることのほうが、より興味がある。

 最近では、横浜市と連携してオープンイノベーションを加速させる環境設計を目的に、スタートアップ成長支援拠点であるYOXO BOXから「イノベーションを誘発する香り」を発信したり、東京都港区との連携では、官・民・学の連携プロジェクトとして「街の香りブランディング」も始めている。

WWD:今後の展望は。

太田:フレグランス市場の可能性を広げること。香水や入浴剤といった既存のマーケットを伸ばすというより、今までにない香りの市場を作り、もっと香りに新しい価値を感じてもらう可能性を追求していきたい。自分たちの作る香りで新しいマーケットを作ることで、世の中の役に立つことを目標にしている。

 中でもブランディング・フレグランスとソリューション・フレグランスを主軸として事業を展開する。ソリューション・フレグランスに関しては、今後はより深い課題の解決に取り組みたい。大きいのは、医療・介護業界。どうしても香りは香水に代表されるように“Nice to Have(あったらいいな)”の領域だったので、これからは“Must Have(なくてはならない)”存在になるようにしたい。それはただの消臭ではなく、心地よさといったプラスアルファの効果をもたらすように、香りの可能性を探求していく。「これがあって本当に助かった」という領域で、医療・介護現場で活用できるようなソリューション型のフレグランスを作り、医療従事者や患者、患者の家族のQOLを向上させたい。

 一方でブランディング・フレグランスは、理屈を超え、人の本能を動かすような、記憶や感情に直接訴えかける香りを作りたい。それによって人に幸せを送れるような、心を動かすような香りの活用の仕方をしたい。今までと変わらず、音楽アーティストやインフルエンサーと一緒に、世の中にハッピーを届け、エモい体験を提供する。

 ブランディングはアートで、ソリューションはサイエンスだと考えると、アートとサイエンスの2軸で新しい香りのマーケットを作ることで、世の中に彩りを与えていきたい。

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