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末安弘明「キディル」デザイナーは「なんでも受け入れるが、柱は大事」 内田理央、本気でTシャツビジネスに挑むVol.5

 モデルや女優として活躍する内田理央の普段着は、Tシャツやパーカなどカジュアルな装い。そこで本人の感性と個性を存分に生かしながら、ファッション性やプロセス、ビジネスにまでこだわった「本気のTシャツビジネス」をスタート!「WWDJAPAN」が各界の先駆者を紹介することでTシャツ、イラスト、ビジネスについて学びながら、「名前貸し」とは全然違う、本気のタレントによるアパレルブランドを目指します。第5回は個性的なグラフィックも特徴の「キディル」を手掛ける末安弘明デザイナーに話を聞きました。

内田理央(以下、内田):そもそも末安さんは、どうしてデザイナーを志したんですか?

末安弘明「キディル」デザイナー(以下、末安):最初は美容師として6年くらい働きましたが、ファッションが大好きだったのでデザイナーになりました。高校生の頃からファッション業界で働きたかったのですが、親に反対されて泣く泣く美容学校に通ったんです。ヘアサロンで仕事をした後、ヘア&メイクアップアーティストを志しロンドンに留学しましたが、現地でファッションへの思いが募り、27、8くらいから洋服を作り始めたんです。

内田:私も今年30になったんですが、27、8の時は色々考えました。自分の仕事と向き合い、私の場合は「頑張ろう」って思い直したんです。ブランドビジネスは、どうやって学んだんですか?

末安:専門学校にも行かず会社にも属さなかったので、完全に我流です。おそらく他のブランドとは違うんだろうけれど、それすらわからないです。最初はパターンどころか、生地をどこで買うのか?やミシンの使い方さえわからなかったんです。Tシャツ作りから始めました。Tシャツしか作れなかったからです。

内田:最初のTシャツは?

末安:誰にも言ってなかったけれど、東急ハンズに駆け込んで、オリジナルTシャツ制作キットの“Tシャツくん”を買って作り始めました。

内田:どんなデザインだったんですか?

末安:ありもののTシャツを安く買って、イラストレーターの友人と一緒にテーマに基づいたグラフィックを作り、シルクスクリーンの版を作り、ひたすら刷りましたね。売り先もないのに(苦笑)。

内田:みんな、そこからなんですね。

末安:何十万円もかかったのに、売るところがないんですよ。できて嬉しくて、友達のモデルや美容師にタダでプレゼントしていました。友達のモデルがスナップにのってくれて、それが異様に嬉しかったのを覚えています。

内田:そこから「キディル」というパンクなブランドにどうつながるんですか?

末安:最初の2年くらいはテーラードなどの服作りにフォーカスしていたんですが、2016年くらいにフォトグラファーのデニス・モリス(Dennis Morris)と知り合い、彼が撮影していたパブリック・イメージ・リミテッド(PUBLIC IMAGE LTD.)というパンクバンドと一緒に仕事をする機会があったんです。自分が若い頃に好きだったカルチャーに寄せて服を作ってみようという気持ちになりました。デニスと会って、服作りが変わって、ユースカルチャーとリンクした服作りにシフトして現在に至ります。

内田:最新コレクションには緊縛のルックもありました。私も少し前、ドラマで緊縛師に縛っていただいたことがあって、「面白いなぁ」と思ったんですが、インスピレーションはどこで?

末安:22年春夏コレクションでは、トレヴァー・ブラウン(Trevor Brown)というイノセントで少女性を感じるアーティストとの仕事に取り組んだんです。トレヴァーと緊縛カルチャーには親和性があり、「じゃあ、ショーでも縛りますか?」っていう話になり、緊縛師のHajime Kinokoさんに相談したんです。

内田:カルチャーに入り込んでいて、面白いですね。緊縛って、見ちゃいけない禁断のイメージだったんですが、信頼関係の上に成り立っていると聞きました。私も縛られても全然痛くなくって、ハグされているような感覚で。一つのカルチャーとしてアツいですよね。

末安:ファッションの世界ではヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)とマルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)がボンテージジャケットやボンデージパンツなどを発表して以来、枝分かれして、フェティッシュなカルチャーと結びついていると思います。

内田:自分とは違うカルチャーには抵抗を感じないんですか?

末安:受け入れ体制は、結構万全です。ひらけています。なんでも一度受け入れるようにしています。いろんなものを一度、自分に入れてみるのは大事にしています。

内田:私もなんでも受け入れてみて、素敵だと思ったら深めていってということが多いです。私は完全にアニメやマンガにハマって、触手が出てくるようなグロテスクな漫画などを読んできました。

末安:触手って、アップで撮影してファブリックにのせたらラグジュアリーブランドで使えそうですよね。本当にインスピレーションソースにしているかもしれない。触手も、全然受け入れますよ(笑)。

内田:新たなものが生まれるには出会いが必要だな、っていうのは、お芝居でも思います。一方で、新しいものへの挑戦になるとなおさら、チームのみんなに伝え、理解してもらうのは大変だと思うんですが。

末安:新しいものについては、例えばTシャツなら加工や色など細部まで決め込むので、ブレないんです。新しい人に出会って影響を受けることは大事ですが、「あれも作りたい」「これも作りたい」ではなく、特にデザイナーズブランドには柱が必要。ブレ始めると、意味のわからないブランドになってしまいます。それで困るのは、お客さまです。だから僕は、「こんな人たちに着てほしい」を目指して作っているので、わかりやすいかもしれないですね。

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