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「アットコスメ」を共同創業した山田メユミと業界有志らが化粧品を経済的困難下の女性に無償配布

 国内最大のコスメと美容の総合クチコミサイト「アットコスメ(@COSME)」を共同創業した山田メユミと有志はこのほど、「コスメバンクプロジェクト(COSME BANK PROJECT)」をスタートする。まずは12月、全国約2万2000のシングルマザーら経済的困難を抱える女性の世帯に、化粧品メーカーが抱える余剰在庫となったコスメを詰め合わせ、支援団体などを通じて無償提供する取り組みのパイロットテストを実施。今後も「女性と地球にスマイルを」を合言葉に、行き先が決まっていない化粧品を、必要とする人の元に届けることで、コスメの余剰品問題に向き合いながらコスメが消費者に提供できる自分への自信や高揚感を届けたい考えだ。山田共同創業者と、想いを共有しプロジェクトの事務局長を務める藤田恭子ISパートナーズ代表に話を聞いた。

WWDJAPAN:なぜ「コスメバンクプロジェクト」を立ち上げようと考えたのか?

山田メユミ「アットコスメ」共同創業者(以下、山田):一番の理由は女性支援団体を通じて聞いた、「子どもの入学式や卒業式のようなハレの日にさえ、口紅のひとつも手元になくて、マスクで顔を隠して行くしかなかった」というシングルマザーの存在でした。ショックでした。これまで「化粧品は、女性のQOL(Quality of Life. 生活の質のこと)を高め、幸せをもたらすもの」という自負を持ちながら業界に携わってきましたが、「化粧品がないことで、女性を悲しい気持ちにさせてしまう」とは全く気づけていなかった自分を恥ずかしく思いました。一方、化粧品業界は余剰品という問題を恒常的に抱えており、これを完全にゼロにするのは難しい状況です。欲しいのに入手できない人がいる一方で、誰の手にも渡らず廃棄される化粧品が存在するんです。化粧品は嗜好品ですが、一方で社会コミュニケーションにおいて不可欠な必需品だと私は思っています。そこで入手できない人と、余剰となった化粧品を1つでも多くマッチングさせて手渡すことができたら、女性はもちろん、企業にも地球にも貢献できるのでは?と考えました。

WWD:化粧品はどのように集めた?

山田:プロジェクトに共感してくださった、主にセルフ商材を扱う化粧品・日用品メーカー様から、現行品や旧仕様品を寄贈いただいたり、店頭から未開封の状態で返品された製品を預かったりなど、品質にはなんら問題がないものの残念ながら再販が難しくなった良品を、「コスメバンクプロジェクト」事務局が「コスメ詰め合わせギフト」にしました。12月の初回は17社に参画いただき、スキンケアからベース&カラーメイク、ヘアケアまで幅広い商材を集めることができました。1世帯につき6~8点、「気持ちはコフレ」な詰め合わせギフトにしてお送りします。配送はセイノーホールディングス傘下のココネットにご協力いただき、宅食支援に取り組むフードバンクや母子寮、シェルターなどの女性支援施設を通じて女性たちに届けていただきます。すでに15万を超える化粧品が集まり、今回は2万2000ほどの世帯にお届けできる予定です。今回のトライアルパイロットテスト運用を踏まえ、今後は春と秋、その時に必要な化粧品をお届けできればと考えています。

WWD:再販が難しいとは言え、製品を無償提供する企業側の反応は?

山田:皆さん「女性たちのために何かできたら」という想いを強く持っていらっしゃいましたし、「コスメバンクプロジェクト」の理念に深く共感してくださっています。各社それぞれ環境問題に取り組み、環境に優しいエコシステムを考案・構築中でいらっしゃいますが、化粧品はリサイクルやアップサイクルが難しい商材。しかも流通の構造上、余剰品が生まれやすいのに有効活用の手段は多くありません。女性と社会、そして企業の「三方良し」な取り組みと捉えてくださいました。この取り組みが軌道にのったら、未出荷在庫が何割か削減できる企業もあるそうです。ご説明に伺った際、一番多くいただいた質問は「販売できなくなったものを提供してしまって良いのだろうか?」でした。企業側が言う通り、「廃棄するなら届けます」ではなく、私たちも多くのみなさんが喜び、日常生活で使っていただけそうな商品を、ご提示頂いたリストから選別しています。今回のテスト運用で、商品を受け取ってくださった女性たちからもたくさんのお声を頂くと思います。そうした声を企業側にフィードバックすることで、活動に賛同くださる企業が増えればと思います。一番嬉しかったのは、参画を決めてくださった企業の社長さんが、他の企業の社長さんに話を広げてくださったことです。事前に概要を説明してくださっていたので、私たちの説明は最低限で済みました(笑)。まだスタートラインに立ったばかりですが、こうした支援の輪が企業間で連鎖的に広がっていったら、とても嬉しいです。

WWD:取り組みを担うのは?

山田:11月に一般社団法人「バンク・フォー・スマイルズ」を立ち上げ、複数の化粧品メーカーや運輸会社の役員、長年女性支援を続けていらっしゃる元国会議員ら、性別も年齢も多様な有志のプロフェッショナルと理事会を構成しました。NPO法人代表やメディア編集長など、さまざまな有識者のみなさまにもアドバイザーとしてご助言いただいています。また事務局をはじめとする運営チームには、「アットコスメ」を手掛けるアイスタイルのメンバーを含む、多くの有志の皆さんがプロボノ(職業上の知識やスキルを無償提供して社会貢献するボランディア活動のこと)で参画してくれています。

WWD:藤田さんは、なぜこの活動に参画したのか?

藤田恭子「コスメバンクプロジェクト」事務局長:私は、山田とは20年来の付き合い。「アットコスメ」を立ち上げ、ブレずに化粧品とユーザーを繋げる姿勢を貫き、そして、ここまで成長させてきた彼女の歴史を見てきました。さらに新しいことにチャレンジする山田のバイタリティと志に感銘を受け、サポートしたいと思い、このプロジェクトに参画しました。私は今、「アットコスメ」を中心としたウェブの運用やライティング、商品情報の登録を担うアイスタイルのグループ会社で代表を務め、千葉県流山市のサテライトオフィスを運営しています。朝5時~夜10時のうち、毎週20時間以上働くことができれば正社員として雇用している会社です。この会社も、山田が中心になって誕生しました。働くママは都心の本社では働きにくいけれど、自宅の近くなら働けるのでは?という発想です。私には子どもがいませんが、働くお母さんと一緒に仕事をして、改めて子育ての苦労を知りました。そして、困難な状況にあるお母さんの支援に繋がる企画に強く共感しています。

山田:私もワンオペで子どもを育てる母親として、「装うことへの罪悪感」を感じていた時期がありました。「子どもたちは、自分がしっかり育てなくちゃ」と肩に力が入ってしまうと、“自分に手をかける”ことを罪悪と思ってしまいがちで。そんな折、サブスクリプションで購入しているコスメのトライアルボックスが届いたら、とても嬉しかったんです。香りの良い入浴剤が入っていたときは、その日の夜のバスタイムが本当に充実して。シングルマザーには経済的な事情だけでなく、精神的な余裕のなさやプレッシャーから、「自分のケアなんてしてる場合じゃない」と思ってしまっている方も存在すると思います。そんな女性に思いがけずコスメが届いたら、きっと喜んでいただけるのでは?と思っています。振り返れば「アットコスメ」は、世の中にあるべきものを、その時代にたまたま自分たちが作っただけのようにも感じています。「コスメバンクプロジェクト」も同じです。「アットコスメ」が今日まで成長したように、業界内外の多くの皆さんとの共創によって、「コスメバンクプロジェクト」という支援プラットフォームを育てていきたい。女性、そして企業がエンパワーメントできれば、業界はより自信を持ってビューティの存在意義を社会に伝えられると思っています。

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