ファッション

手仕事を大事にする若きデザイナー 東京・下高井戸発「レットルース」

 1994年生まれの安田光作デザイナーが手掛ける「レットルース(LET LOOSE)」は、ロゴやグラフィックを載せたTシャツやポロシャツ、フーディーから、クッションやキャンドルなどのグッズまでを扱うファッションブランドだ。販路は公式ECと年に数回の受注会のみだが、3月には伊勢丹新宿本店メンズ館でポップアップを実施するなど、知名度を着実に上げている。

 同ブランド最大の特徴は、手仕事へのこだわりだ。ファッションブランドの大半は商品の量産を工場に依頼するが、安田デザイナーは生地・資材の購入から裁断、縫製まで、量産も一人で行っている。1シーズンの生産量は400着前後で、「朝起きて、裁断して、縫っての繰り返しです」。

 そんな安田デザイナーに、自宅兼アトリエのある下高井戸で話を聞いた。誰もが手軽に物が作れる時代に、手間と時間をかける裏には、どのような思いがあるのか。

はじまりは、一枚のCD

WWD:服が好きになったきっかけは?

安田光作デザイナー(以下、安田):小学生のころ、10歳上の姉にRHYMESTER(ライムスター)のCDを渡されて、ヒップホップに傾倒しました。周りにヒップホップ好きがいなくて、自分でミックスした音源を1枚500円とかで売ってたくらいです。父もジャズが大好きで、音楽にどっぷり浸かりました。その流れでファッションにも興味を持って、いろんな服に袖を通しました。おばあちゃんが呉服店を営んでいたから、さまざま生地が身近にありました。

WWD:高校卒業後、服飾学校に入った?

安田:最初は4年制の大学に入りました。父がフリーランスのライターだったこともあり、母親から「あなたは定職に就きなさい」と口すっぱく言われていて。でも、すごく退屈でした。そんな中、原宿に買い物に行ったとき、友達から「光作、服好きだし、作ってほしいな」と言われて。妙に納得して、数日後には退学届を出して、文化(文化服装学院)への入学手続きをしました。

WWD:文化での生活はどうだった?

安田:3年制に入学し、2年目からデザイン科に入りました。でも、「デザインってその人の感性だから、勉強するものなんだろうか」と感じ、3年目にアパレル技術科に転科しました。パターンを引いたり、縫製したり、“手に職”って感じで、デザインを学ぶよりずっと面白かったです。

「誰かが自分の洋服に
価値を見出してくれる。
それがすごくうれしかった」

WWD:「レットルース」立ち上げはいつ?

安田:文化の1年のときに始めました。Tシャツにシルクスクリーンで刷って、ECの「BASE」で販売していました。1枚5000円くらいだったかな?量は作っていなかったけれど、誰かが自分の洋服に価値を見出してくれて、お金を払ってくれるのはすごくうれしかった。今もそれが根底にあります。

WWD:他ブランドでの経験は?

安田:文化を卒業して「ヒステリックグラマー(HYSTERIC GLAMOUR)」で働きました。布帛やニット、カットソー、グッズと部門が分かれていて、僕はカットソーの企画担当。ブランド運営を学ぶ大事な機会になった一方で、「自分のものづくりがしたい」という気持ちが強くなり、1年で独立しました。

WWD:安田デザイナーの目指すものづくりとは?

安田:手仕事を大事にしたものづくりです。例えば陶芸家だったら、どんなものを作るか考えて、粘土を成型して、焼いて、自分で完成させる。料理家も、自分で材料を買って、下ごしらえして、調理して、提供する。外部に任せる方がもちろん効率はいいし、ビジネスとしては正解かもしれない。でも、ものづくりが好きだから、全ての工程に自分の手を加えたいんです。

WWD:ブランド規模が大きくなると、自分で量産するのは難しいのでは?

安田:正直、すでにギリギリです(笑)。でも、そもそもブランドを大きくしたいとか、バズりたいとは思ってないから、できるだけ今のスタンスは貫きたい。仮に大きくなっても、ロゴTのシルクスクリーンだけは絶対に自分で刷り続けたいです。

WWD:クッションやキャンドルなどのグッズも手掛けている。

安田:こういう雰囲気のブランドでグッズまで作るところってあんまりないので、意図的にアイテムの幅を広げています。ほかと同じことをやっても仕方ないですからね。実はクッションってTシャツよりも手間が掛かって、工場に頼むと発注数のミニマムも増える。でも僕は自分で縫うから、ミニマムとか関係なく提案できる。クリエイションに自由が効くのは、「レットルース」の強みかもしれません。

WWD:伊勢丹のポップアップも大きな反響だった。出店の経緯は?

安田:伊勢丹の担当者から「ポップアップやらない?」と声をかけられました。これまで受注会は、自分が好きなエリアでしかやったことがなかったので、思い切って挑戦しました。11月には、日本橋のヒューマンネイチャーというワイン屋で受注型のポップアップをやりました。地方から来てくれる人もいて、すごくうれしかったです。ポップアップで交流できるのはとても楽しいし、励みになりますね。

「身近な人に
『いいもの作ってるね』と
言われ続けたい」

WWD:卸売りは考えている?

安田:悩んでます。卸をやるなら、むしろ自分でお店をやりたいかな、とか。自分がコントロールできる範囲で、地に足つけて発信したいんです。それと、ネットがあればどこでも買える時代だからこそ、特別感を大事にしたくて。直営のECと受注会でしか買えず、そもそも数に限りがあることがブランドの価値につながっているから、当分はこのやり方を続けると思います。

WWD:今後の展望は?

安田:世田線沿いにアトリエ兼事務所を構えたいです。自宅が手狭になってきたから、もう少しゆったりした空間が欲しい。知り合いはもちろん、予約制でお客さんも入れるスタイルで、来年にでも実現したいですね。あとは、実直にアイテムを作るだけです。小さい規模でもいいから、周りの人に「いいもの作ってるね」と言われ続けたいです。