ファッション

ラグジュアリーの世界で失いかけた熱量を再び 「マックイーン」の元ジャパン社社長が服作りスタート

 「グッチ(GUCCI)」や「フェンディ(FENDI)」「サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)」のジャパン社で要職を務め、「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」ではジャパン社の社長を務めた蜂谷雅彦はこのほど、書籍の出版などを手掛ける夜間飛行とアパレルブランド「ハチヤ(HACHIYA)」を立ち上げた。第一弾は、こだわりのプルオーバーフーディー(税込5万9400円)と、ドローストリングのナップサック(同7万5900円)の2アイテム。春に向けてはシャツなど、3カ月に1、2アイテムのペースで商品を拡充するが、いずれも定番として常時販売する。「アレキサンダー・マックイーン」のジャパン社トップを離れて5年。「完全にファッションから離れ、アーリー・リタイアメントしていた」という蜂谷デザイナーは、なぜ洋服を作るのか?話を聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):なぜ、「ハチヤ」を立ち上げ、ファッション業界に戻ってきたのか?

蜂谷雅彦デザイナー(以下、蜂谷):「マックイーン」を辞めてから5年間は完全にファッションから離れ、アーリー・リタイアメント状態。時々、単発の仕事を引き受けた程度だった。多くの企業やブランドから経営やコンサルティングのオファーを頂いたが、業界にいた頃から感じていた「消費者が求めていないことを勝手に設定し、その上でビジネスをしている」感覚にわだかまりがあった。そんな中で出版社から、アパレルのセオリーを知らないからこそ縛られないビジネスができそうなオファーをいただいた。夜間飛行が既に手がけている「マダムH クローゼット(MADAMEH CLOSET)」(1947年生まれの人気ブロガーでもある佐藤治子デザイナーが「価値あるベーシックアイテム」を提案するブランド)は、ニッチなマーケットの中で成功している。時間をかけて納得できるものが作れたら、携わる人がみんなハッピーになれるのでは?と考えた。

WWD:“わだかまり”は、ラグジュアリー・ブランドに携わっていた頃から感じていた?

蜂谷:投資会社の資本がラグジュアリーの世界に注入されるようになって以降は、そんな思いが募っていた。フルラインを作ることのムダ、シーズンごとの提案の意味など、すべては仕組まれていて、それを望んでいないお客様がいることもわかっていた。感情は、薄れていたと思う。管理職のプロとして、市場にマッチする洋服を渡し続けるだけの仕事になっていた。「ハチヤ」では、僕が望むことを望んでくれるお客様に洋服を届けたい。

WWD:どんな洋服を作りたかった?

蜂谷:色々経験したが、それでも「昔から着ているもの」がある。それは、すべて良いものだった。クオリティはもちろん、作り手には信条があって、明確なコンセプトがあって、僕はそれを感じ取って購入し、愛用し続けているもの。そういうものなら、自分やデザインが声高に叫ばなくても、ときめくブランドになると思う。世界を回り、本当に優れた技術は日本とイタリアにしか存在しないことは分かっていた。イタリアの技術は中国に流出してしまったが、日本にはまだ技術と職人が存在する。でも経済が鈍化する中で、ビジネスが回らないと続かない。微力ながら貢献したい。

WWD:「昔から着ているもの」には、どんな洋服がある?

蜂谷:学生時代は、ブリトラ(ブリティッシュ・トラッド)少年だった。ジェントルマン志向で、ウイングチップに関する雑誌や書籍を読み込み、スーツで登校していた(笑)。最初に務めたのは、トゥモローランド。自分が好きな洋服を着たかったから、務める会社やブランドの洋服しか着られないと思っていたアパレルで働くつもりはなかったけれど、当時のトゥモローランドはウィメンズだけの会社。だから自分の洋服は自由で、営業の仕事から始まった。25歳くらいの時に買ったのは、「インバーティア(INVERTERE)」の真っ白なダッフルコート。清水の舞台から飛び降りる気持ちで買った洋服は、今でも着ている。生地が“くたらない”し、ボックスシルエットで今っぽい。トラッドテイストのミニマルな商品が好きだった。作りたいのは、そういう洋服。自分が好きなものしか表現できない。そして表現できる最高のものを提案することは、責任だと思っている。

WWD:最初のアイテムをプルオーバーとバックパックにした理由は?

蜂谷:プルオーバーは、オーバーサイズでいまの気分。バックパックと共に、誰が着ても似合うと思う。ニットで作ったパーカはボリューム感の表現が難しい。カシミヤコットンの糸にストレッチ糸を絡めることで生地自体で膨らみを表現した。前から見るとラグランスリーブ、横から見るとセットインの袖も、ボリュームの表現に繋がっている。形がしっかりしているから、その中の体がどんなでも、男性でも女性でも美しく見える。フードは中心からキレイに立ち上がるようにリブテープを貼った。これまで、いろんなものを着倒し、見てきたからこそ考えられる。いろんな人に会ってきたからこそ、すべての工程に携わる人の気持ちが考えられる。皆がハッピーになれるモノづくりにこだわりたかった。90年代の後半から2000年代の初頭にかけては、イタリアでブランドを立ち上げ、コレクションを発表していた。でもあの時はアシスタントに任せて最終チェックだけするような場面も多く、今のモノづくりとは全然違う。ただ、その時に川上から川下を、帰国してラグジュアリー・ブランドで働くようになってからはお客様のことを見てきた。見てきた人たち、みんなに寄り添える洋服を作りたい。

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