ファッション

圧倒的世界観の「LV」や緊急参加の「バーバリー」などパリメンズ前半を先輩後輩がプレイバック 「イッセイ」「ヨウジ」ら日本勢も健闘

 2022年春夏メンズコレクションは、ロンドンとミラノが終了し、舞台はパリへ。海外からの現地リポートも随時更新中ですが、ここでは日本でリモート取材中の先輩&後輩コンビがダイジェスト対談をお届けします。今回は前半(6月23〜25日)に登場した9ブランドをプレイバック!日本勢の活躍も要チェックです。

【対談メンバー】
先輩・大塚:海外コレクション取材歴5年目。「WWDJAPAN」副編集長。昨年からランニングにハマって2ケタ減量に成功。サイズダウンによりファッション欲がさらに上昇。

後輩・美濃島:昨年から海外コレクション取材をスタート。「WWDJAPAN」記者としてデザイナーズやスポーツを取材するも、最近みるみる巨大化。サイズアウトする服が続出。

“本能のままに”を突き詰めた地獄

大塚:まずはパリメンズ公式参加2回目となる「キディル(KIDILL)」。いやー、過去最高にこじらせとったねえ(笑)。ショー前に末安弘明デザイナーから「地獄を見せます」と宣言されて、「いやいやそんな大げさな」と軽く受け止めていたら、思ったより地獄だった。会場が東京・赤坂の草月会館にあるホール“天国”だっただけに、さらに異質さが際立っていたわ。

美濃島:僕はバックステージから取材したのですが、リハからぶっ飛ばしてました(笑)。イギリス人のグラフィックアーティスト、トレヴァー・ブラウン(Trevor Brown)とのコラボレーション。口紅をいびつに塗りたくった少女や首が落ちたラブドールなど、おどろおどろしいモチーフをキャッチーに描いたグラフィックを、オーバーサイズのシャツやブルゾンなどに落とし込んでました。

大塚:プリントや加工を個々に見るとかわいくて楽しいんだけど、純真無垢に足し算されていくと、徐々に狂気じみて「おいおいおい」となっていくというね。何ごとにもピュアすぎてちょっと怖い人ってたまにいるじゃない?そんな感じ。世界でいろいろなコレクションをいろいろ見てきたけれど、地獄レベルはトップクラスでした。

美濃島:Tシャツや素肌をロープで縛ったスタイルは、ロープアーティストのハジメ・キノコによるもの。グラフィック表現の自由さと、緊縛による身体の不自由さが混在し、コレクションの狂気をさらに加速させます。

大塚:これまでも末安デザイナーは内面にある狂気や偏愛に向き合っていたのだけど、今思えば、それらをスタイルに落とし込んでいたのかなと。今シーズンはまず感情から湧き出るクリエイションを先行させて、最終的にスタイルに仕上げていた印象。だから過剰なディテールがいつも以上に際立って見えた。

美濃島:きわめつけは、ノイズバンド非常階段のボーカルJUNKOさんのパフォーマンス。ショーの途中から聞こえる「キィイアアア」という叫びからは、“本能のままに表現しよう”というメッセージを感じました。

生地の発明をスタイルへ “怒り”を込めたクリエイション

大塚:「ターク(TAAKK)」は映像公開前にリアルショーを見てきました。“地球”から着想を得たコレクションで、ブランドの転機になった20年春夏の“WEAR THE EARTH”を拡張させた印象です。

美濃島:おっしゃる通り、生地のグラデーションに合わせて儚い桜を刺しゅうしたり、色をベージュからカーキへ大胆に変化させたりと、過去に開発した「これだ!」という生地をスタイルに落とし込むひと工夫が光っていました。

大塚:そうそう。「キディル」とは逆で、スタイリングもイメージしながらデザインを組み立てていったのかなと思うほど洗練されていた。プリントを生かす生地の加工、または生地の加工をいっそう際立たせるプリントなど、スタイルとしての完成度が目を引いたよね。これまでは新開発した生地をぐいぐい前に出していくクリエイションで、それはそれで強さはあったのだけど、今回は組み立て方が秀逸だった。生地が上から下に徐々にグラデーションし、ジャケットがシャツやMA-1に変化する加工はさらに進化。ショートトレンチが外側に向けてMA-1の袖に変化していく発想は見ていて笑っちゃうほどすごかったわ。

美濃島:映像はランウエイをメインとするのかと思いきや、生地や商品にフォーカスし、森川拓野デザイナー自らクリエイションの着想源とデザイン哲学を語る内容。意外なアプローチでしたが、ブランドの武器を余すことなく発信していたし、解説も心地良くて気づいたら映像を見終えていました。

大塚:実は今シーズンは、森川デザイナーの怒りの感情が込められてたらしい。というのも、「ターク」の服は実物を見てすごさが分かる部分が大きいから、新作を海外の人に直接見てもらえないフラストレーションが溜まっていたんだって。だから映像では森川デザイナーが終始語り、物作りやショーの裏側を見せる演出だったんだと思う。今回の完成度が高かっただけに、次は同じ手を使えないかなという懸念もあるけど、今回はその感情がプラスに作用してました。

問題はコロナだけじゃない

大塚:「ファセッタズム(FACETASM)」は"a sight with a kiss”と題した映像で、長谷井宏紀監督が手掛けたもの。再開発が進む渋谷の街を舞台に、自由と監視社会について考えさせられる内容で引き込まれちゃった。

美濃島:カメラから逃げ回った男女が公園で落ち合うものの、その様子さえ撮られているディストピア感のあるオチが好みでした。監視社会のほかにも、大気汚染や大量廃棄、森林破壊、干ばつなど、行き過ぎた文明を警鐘するメッセージがにじんでいて、「問題はコロナだけじゃないよね」と落合宏理デザイナーに投げかけられた気がします。

大塚:ストリートウエアやテーラード、スポーツ、ドレスなどを縦横無尽に行き来するクリエイションは変わらず。ホワイトやパステルカラーのレイヤードが、爽快感と重厚感が共存していて面白かった。

美濃島:洋服の軸はストリートですが、オーガンジーやレース、腰から垂らしたリボンなど、軽やかさを添えるディテールも際立っていました。

パリ参戦!砂漠とレイブに映える強いクリエイション

大塚:「バーバリー(BURBERRY)」がなんとパリメンズで発表。自分で「『バーバリー』2022年春夏パリ・メンズ・コレクション」って原稿を書いてて不思議な感じがしたよ。舞台はマッドマックスのような砂漠。モデルが屋内へと歩みを進めると屋内はレイブ空間が広がり、そのコントラストが何だか強烈に刺さった。音楽によってマインドが異空間にエスケープする感覚をクリエイションで表現したみたいなんだけど、まさにそんな感じ。

美濃島:海や山などの野外映像は鉄板ですが、砂漠はありそうでなかった。砂の上をザッザと歩くモデルがレイブ空間に入ると同時に、テクノがガンガン流れ初める演出にテンションMAX。クラブに入る瞬間を追体験してるみたいでした。

大塚:ウエアは、トレンチコートやテーラリングというヘリテージを軸に、スリーブレスや変形カラーなどディテールでアレンジ。モチーフや色使いは最小限でミニマルなのだけど、モデルが袖を通すことによって2倍も3倍も強くなる。鍛えねば!という気持ちになりました。

美濃島:途中の肩車ルック三連発は正直戸惑いましたが、「筋肉ってすげえ」と安直&ポジティブに捉えることにします。ウシやシカっぽい模様、あばら骨を連想させるジャケットのテープ使いなども目立ちました。昨シーズン、チーフ・クリエイティブ・オフィサーのリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)は、屋外への欲求を込めたアニマルモチーフを多用していたので、そのムードが継続していたのでしょう。

意外性と哲学満載のリアルクローズ

大塚:「フミト ガンリュウ(FUMITO GANRYU)」はリアルクローズ路線に勝機を見出したみたいだね。もともと奇抜なクリエイションではなかったけれど、ここ数シーズンはいろいろな部分が以前にも増してそぎ落とされてる。

美濃島:さらっとした服に見えますが、コーチジャケットは脇下のジップでシルエットを変えられたり、パーカーは袖に手を通さずに着られたりと、着方を変えられるギミックがあるんです。この意外性が「フミト ガンリュウ」の持ち味ですね。

大塚:カラーリングや快活さでクリーンに見えるのだけど、実は細部にまでデザイナーの哲学が浸透しているのもこのブランドの面白いところだね。服での主張は控えめな分、映像の強烈さが際立ってた。

美濃島:3Dスキャンしたようなメイクや荒いグラフィックなど、あえてチープに仕上げたバーチャル演出が独創的でした。ダッフルコートやトレンチコートなど、毎シーズンの目玉アイテムがありますが、今回は羽織風のフードコートに人気が集中する予感です。

モデルは半分素人 個性を強さに変える

大塚:「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE)」は、“HUMAN ENSEMBLE”がテーマでした。

美濃島:いつもはハッピーな映像で気分を盛り上げてくれるのだけど、今シーズンはモデルのキャラクターが際立つ静かな演出でしたね。

大塚:多様性が浸透してきているからこそ、個人に焦点を当てようという意図なんだって。カメラマンの田島一成さんが監督を務めていて、モデルも半分は素人。教師やモデルのマネジャーら、登場する人物がみんな個性的なんだよ。服は、「オム プリッセ」らしさをよりストイックに伝えたいという思いから、
人間の体やロボットの型を研究し、さまざまな人種の肌色を思わせるカラーや、体の動きをイメージしたディテールや柄を盛り込んでました。

美濃島:右から左へ光を移動させることで、プリーツの凹凸やざらついた素材感などを際立たせていました。人種はもちろん、体型もほんとに幅広くて、着る人を選ばない服だなと改めて実感。ハワイアンなBGMにも癒されました。

大塚:フロントはセットイン、バックはラグランスリーブになったジャケットや、縞を織りで表現するなど、映像だけではなかなか伝わりづらいディテールも見どころ。服にこれまでと大きな変化はないのだけど、背景を知れば知るほど、ファッションで世の中とつながる姿勢が分かって面白かった。

美濃島:シューズをはじめアクセサリーのラインアップも増えていて、このブランドだけでワードローブを完成できちゃいそう。前シーズンから取り組んでいる、再生ポリエステル100%のプロダクトも増えているんでしょうか?

大塚:徐々に型数を増やしていて、近いうちに全商品に使用することを目指してるらしい。再生ポリを使った服を実際に着てみたけれど、今までとほとんど同じ素材感でびっくりしたわ。

美濃島:技術もどんどん進歩しているんですね。僕らも置いてかれないように取材を続けなくては。

浜辺に際立つ実験的テーラード

大塚:「リック・オウエンス(RICK OWENS)」は映像の見せ方が一気に進化したね!これまで生っぽい演出にこだわっていて、それはそれで世界観と合ってはいたのだけど、やっぱりこうやってちゃんと作り込んでくれた方が服は映えるなと。砂浜というロケーションもあって、いつもよりもぐっとリアルで快活な印象を受けた。

美濃島:あそこはブランドのアトリエから車ですぐの場所にあるヴェネチアのビーチだそうですよ。ランウエイを真横や俯瞰など複数の画角から捉える構成は昨シーズンと変わりませんでしたが、ロケーションのおかげで全然違うムードでした。

大塚:途中でリック先生がスマホ片手に踊っている姿が映ったり、砂浜で超厚底ヒールのブーツだったり、肩をボンと張り出したモンスターショルダーのアイテムだったりという通常運転も挟みつつ、とっても丁寧にテーラリングと向き合ったコレクションだったね。

美濃島:ジャケットやコートは、袖や見頃を切り落としたり、オーガンジーやシフォンなどのシースルー素材を使ったりして、複雑な内部構造を主張していました。技術力があるからこそできるアプローチですね。PVCのようなスケスケ素材のトップスやファスナーを開けてブーツカットシルエットにしたパンツなど、1点1点がインパクト大なアイテムばかりなのに、スタイルとしてまとまって見えるのも本当にすごい。途中で見切れたリックは誰よりもノリノリでかわいかったです(笑)。

リモートでも没入不可避の圧倒的世界観

大塚:日常業務をこなしながら、プラスオンでデジタルコレクション取材をしてはや1年。どうしても何か作業をしながら“ながら見”してしまうこともあるのだけど、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」だけはマジでそれができない。だって映像の完成度がすごすぎて、PCは絶対に全画面モードにしたいし、1秒も見逃したくないから。

美濃島:(す、すみません。僕アーカイブでチェックしました)タイトルは、ザ・ウィンストンズ(The Winstons)の「Amen Brother」という楽曲のドラムソロから取ったもの。たった6秒のソロなのですが、数多の曲にサンプリングされ、ヒップホップやジャングルミュージックの礎となっているそうです。

大塚:へえ、詳しいね。今回は世代を超えて人から人へと継承されていく波動が互いに作用し合うというメッセージを込めているみたい。つまり、映像に登場するのは父と息子で、例え引き裂かれても、親子の絆はしっかり引き継がれてますよということなのか?いやーそんな展開だとしたら胸アツやで。序盤に再登場したシンガーソングライターのソール・ウィリアムズ(Saul Williams)が刀を手に登場し、和のムードを醸し出してきたときは正直ちょっと構えたんだけど、その後が音楽や演出、モデルなど何から何までずーっとかっこよかった。真っ白の空間で白い木が生い茂るシーンでは、レッドやブルーのパキッとしたカラーリングが映え……って、ちょっと待って。何だか「ナイキ(NIKE)」のシューズらしいものが見切れてますけど!!

美濃島:「ナイキ」とコラボした“エア フォース ワン(AIR FORCE 1)“ですね!モノグラムやダミエ柄が配された超スペシャルな1足で、SNSでもかなり話題になってます。争奪戦必至でしょう。ていうか、大塚さんが饒舌すぎて僕の出る幕がない!(笑)

大塚:ごめん!だっていろいろ情報が渋滞しているんだもん。フォーマルの再解釈は継続していて、イージーフィットのスーツにスニーカーを合わせるスタイルがめちゃくちゃかっこいい。スーツと共地のベルトは道着の帯を連想させるものだったり、剣道の防具をイメージしたピースやニットキャップだったり、鯉のぼりバッグ(!!)だったり、和の要素もふんだんに盛り込まれていたね。

美濃島:胴っぽいベストや小手っぽいグローブなど、防具の要素が満載。ジャケット自体にブルーやグリーンなどの鮮やかなカラーやタイダイなどのパターンを使うだけでなく、中にトラックジャケットやフーディーを着込んだり、上からベストを着ちゃったり、スカートやショーツを合わせちゃったり。テーラード離れが進む中、このジャンルでこんなにワクワクさせるクリエイションを見せてくれるなんて、やっぱりヴァージルはすごいです。

大塚:チェスのシーンでバチバチにキメていたお兄さんは誰だったんだろう?

美濃島:ラップしていたイケオジはヒップホップアーティストのジザ(GZA)、その隣の白いスーツのイケメンはナイジェリアの写真家ケイレブ・フェミ(Caleb Femi) でした。ほかにも著名人がたくさん出演しているみたいなので、それを探すのも面白いですね。

ブレないテーラードが春夏らしい軽やかさをまとう

大塚:「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」はやっぱりブレないねー。暗がりのフロアショーが淡々と15分以上続く、硬派な映像。スタイルに大きな変化はないのだけど、今シーズンはクラフトっぽい遊び心が随所に感じられた。花の絵画をコラージュしたり、目が描かれたパーツをウエアにペタペタくっつけたり、絵画から飛び出してきたようなモデルのラフなメイクだったり。

美濃島:新聞をそのまま使った柄や、クラシカルなグレンチェックを随所に散りばめるなど、キャッチーさもありましたね。生成色を多用し、パンツはアンクル丈かショーツで肌見せしてるから、軽やかでしたね。

大塚:最後に山本耀司デザイナーが出てくるのだけど、服という黒いキャンバスに無邪気に感性をぶつけてる姿が潔かった。

前半戦を終えて

美濃島:デジタルコレクションがメインとなり早3シーズン。無数の可能性がある映像表現からはさまざまな発見があって面白いですが、そろそろリアルのファッションサーキットも見たくなってきました。

大塚:映像の引き出しやクオリティーが上がっている一方で、リアルショーを再開するブランドもあり、両者を比較するとどうしてもショーの強さが際立ってしまうんだよね。「ルイ・ヴィトン」のように莫大な予算をかけられるならいいけれど、若手にはちょっと限界がある。だって、苦労して作っているはずのに、そんなに見られてないから。映像での発表は今シーズンで最後と決めている日本人デザイナーも少なくないみたいだし、ある意味で貴重なシーズンかもよ。後半も映像中心だけど、しっかり見届けましょう!

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