ビューティ

「セルヴォーク」の田上ディレクターが次世代に期待すること 「課題解決だけでなくいかに心を動かせるか」【ネクストリーダー 2021】

 マッシュビューティーラボ傘下のビューティブランド「セルヴォーク(CELVOKE)」や「エッフェオーガニック(F ORGANICS)」を手掛ける田上陽子ディレクターは、「ナチュラル・オーガニック」と「モード」と、これまでほど遠かった2つの世界を掛け合わせた製品を展開してきた。今ほどナチュラル化粧品が当たり前ではなかった2016年に「セルヴォーク」を立ち上げ、当時 “地味”“自然”というイメージが残っていたナチュラル・オーガニック業界に新風を吹かせた。モードな世界観のビジュアルやメッセージを展開し、若年層も多く引きつけた。テラコッタカラーのリップスティック“ディグニファイド リップス(09)”は「幻のリップ」と称され、テラコッタメイクブームをけん引する存在にもなった。大人の女性でも使える、肌馴染みの良いくすみカラーを多く生み出し、今もなお幅広い女性に愛されているブランドだ。そんな田上ディレクターに、業界の次世代リーダーをたたえる「WWD JAPAN NEXT LEADERS 2021」のアドバイザーとして参画してもらった。彼女が考えるリーダー像や、次世代に期待することを聞いた。

WWD:「セルヴォーク」を立ち上げて5年が経禍した。この5年でもビューティ業界は大きく変化したが、今の市場をどう見ているか。

田上陽子「セルヴォーク」「エッフェオーガニック」ディレクター(以下、田上):今は良い意味でも悪い意味でも、誰もが簡単にコスメを作れちゃう時代。私たちもOEMで化粧品を作っていますが、工場も増えていますし、個人でもブランドを立ち上げられます。D2Cブランドも多く台頭しビューティ市場が多様化しているという意味ではとても良いと思うのですが、必ずしもこういったブランドが長く愛されるものとも限りません。正直、一過性の“バズ”を作って衰退しそうなビジネスもある印象です。もちろん、それも一つのビジネスのあり方かもしれません。ますます競争が激化する市場を見ていると、「ブランドって、何だろう?」というような、ブランドの存在意義を考えさせられます。

WWD:確かに時流に即したブランドもあるが、途中でビジネスを立ち上げた目的を見失うブランドもある。

田上:トレンドやニーズを分析してモノを売るということはもちろんできると思うんです。でも今は“モノで課題解決”だけでは足りない気がして。もともと私が入ったオーガニック業界は、美容業界でもニッチでしたが、そこにあったのは思想や価値観を強く持っているブランドばかりでした。それに惚れて購入する人が多かったんですよね。ファッションもそうだと思うんです。特にラグジュアリー系はブランドのヒストリーや哲学に憧れや共感を抱いてファンは商品を買いますよね。あとはデザイナーやブランドのセンスこそ人を引きつけると思うのですが、ビューティはセンスや世界観よりも、悩みや課題解決が先に来てしまう。特にパーソナライズが今後さらに進化していくとますますモノで溢れる時代になりますし、需要を満たせても心を動かせないと、生き残れないのではないでしょうか。似た製品がものすごいスピードでどんどん生まれるので、やっぱり製品力だけではもう勝てないと思うんですよね。

 サステナビリティの観点からしても、一緒です。もともとオーガニックの先進国であるヨーロッパでは、古き良きものを大切にする文化で、長く同じものを愛用する精神が強い。だから新商品もほとんど出さないオーガニックブランドも多いんですよね。一方で市場で戦うために次々と新商品が誕生し、それに比例してだけ廃棄も生み出す現実があります。これからは物欲以外で人を満たすことがより重要視されていくのではないでしょうか。

WWD:「セルヴォーク」や「エッフェオーガニック」でも“心を動かす”ことを意識しているのか?

田上:ブランド立ち上げからずっと貫いてきたことですね。メイクのコレクション一つとっても、テーマには必ず社会的な背景や人の心情を反映させてきたつもりです。また昨年は私たちのビジネスも新型コロナウイルスの大きな影響を受けました。オンラインカウンセリングやECでいくらでも製品を買おうと思えば買えますが、やっぱり販売員と会話しながら選ぶ・選んでもらうのとは全然違いますよね。これも、結局は人の心やマインドに訴えられるかに尽きると思うんですよね。うまくデジタルやテクノロジーを活用しながら、人の心に訴求できるか、私も毎日考えていることです。

WWD:田上さんはこれまで業界をけん引してきたリーダーの一人。次世代のリーダーはどのような人だと考えるか?

田上:少し古い言い方かもしれないですが、熱量を持って新たなカルチャーを作れる人。ある意味、ヤンキー根性がある人かもしれません(笑)。そういう熱意に人は動かされて、社会はそこに付いていくんだと思います。驚きや感動を届けられる人こそ歴史に残るし、私たちも昔の人に感動して彼らから学び、後世に残すわけですし。グッと心に響くものを生み出せるか。それこそリーダーの条件だと思います。そんな熱いスピリットを若い世代に期待しています!

WWD:「セルヴォーク」の次なる一章は?

田上:「セルヴォーク」は「ナチュラル×モード」というコンセプトを、ナチュラルやクリーンビューティがここまで広がる前からずっと掲げてきましたが、今や同じコンセプトのブランドは山ほどあります。ナチュラル・オーガニック市場を広げることに貢献できたのであれば、それはそれで良いのですが、この業界をリードし続けるためにはパワフルでありながら変化もしなければいけませんない。

 最近、長く愛されるブランドであり続けるために、ブランドの哲学を見直しています。“「セルヴォーク」といえば”というブランドイメージをもっと分かりやすく伝えるためにもどうしたらいいのか、日々考えています。スタッフには「セルヴォーク」の裏にある女性像について「奥行きのある女性」と伝えてきましたが、その言葉も時代に合わせて変える必要があると思ったり。このようなブラッシュアップの積み重ねで、ブランドの哲学が出来上がるのでしょうね。これまで十分には伝えられなかった哲学や思想をいかに発信しいくかが当面の課題ですね。

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