ファッション

「サカイ」のショーで覚えた違和感の正体 エディターズレター(2020年9月15日配信分)

※この記事は2020年9月15日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

「サカイ」のショーで覚えた違和感の正体

 8月にデジタルで発表された「サカイ」の2021年春夏メンズコレクションとプレ・スプリング・コレクションを見ていて、“何か引っかかる”と15回くらい思いました。ムービーは、ファッションショーのバックステージを再現したものでその場にいるような没入感を体験できます。それはそうなのですが、流れるように進む映像を観ながら10秒に一回くらい頭に?が浮かび、何かヘンだと思うのです。

 よろしければまずはムービーを見てください。

 例えば0:43のフィッティングを終えたモデルがナンバープレートを手に持っているシーン。時間にして1秒以下と、初見では数字を認知できるかできないかくらいの短い時間ですが、私は引っかかりました。なぜならナンバープレートの数字が「261」だから。「261」という数字はルック番号にしては大きすぎます。ヘンですよね。こんな感じで2分27秒の間、数秒に1回、違和感を覚え続けました。

 この“?”の正体は、デザイナーの阿部千登勢さんにインタビューしたことで明らかになりました。実は阿部さん、ショーの中にいくつもギミックを仕掛けていたのです。全て今季のテーマである「Love Over Rules(愛はルールを超える)」に関連し、人種・文化・セクシュアリティーなどの多様性と団結のメッセージに関連した映画や物語の中から抽出しています。「サカイ」から正式に「あれはあの映画からだよ」といった正解は提示されず自分で探す必要があるのですがそれが楽しい。

 例えば「261」はどうやら1967年に女性として初めてボストン・マラソンに出場したキャサリン・スウィッツァー選手のゼッケン番号。そのレース中、主催者の一人が彼女のゼッケンを無理やり外そうとしたのを振り切って完走したそうです。当時の報道写真を見るとスポーツ界における性差別の激しさを知り、衝撃を受けます。彼女の勇気を讃える数字が「261」なのです。

 おもしろいですね〜。探究心をそそられ、ショーを通じてデザイナーと対話をするうちに新しい価値観を知り、知識を得られることに興奮します。

 コレクション関連のセミナーに登壇すると、質問タイムでよく受ける質問が 「ファッションショーの何を見ているのですか?」です。私の場合は、答えはまさに「違和感を探している」です。「サカイ」のように、意図的にギミックを仕込むショーは多くありませんが、デザイナーが伝えようとしている新しい「何か」は、それが自分はまだ知らない価値観やまだ見ぬ新しい世界だった場合違和感として心に引っかかります。その場では違和感の正体は分からずとも取りあえず受け止め、後でその違和感について考えを巡らせたり調べたります。良いショーというのは、こうやって新しい価値観について考えるきっかけをくれるものです。

 そういった意味でもこの「サカイ」の映像は、違和感に満ち、記憶に残るものとなりました。 昨日から2021年春夏のファションウィークが始まりました。デジタルを通じてこんな風に好奇心をそそられる違和感がたくさん見つかるといいな、と思います。

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