ビューティ

吉川康雄が次にやろうとしているビューティとは? 「キッカ」終了の思いにも迫る

 2019年3月、「キッカ(CHICCA)」から吉川康雄ブランドクリエイターの退任が発表され、業界内外に衝撃を与えた。その後7月1日には、同年内のブランドの終了も発表され、今もなお多くのファンから惜しむ声が絶えない。素肌のような艶肌を作り出すソリッドファンデーションや、素の唇の色が透けるような“5分の2”発色のリップスティックなど数々の人気製品を吉川氏は生み出してきた。そしてナチュラルさの中にも色や輝きで遊び心を添え、メイクすることの楽しさや、使う人自身の美しさに気づかせてくれるプロダクトの数々には、吉川氏のこだわりと思いが詰まっている。

 現在、吉川氏はニューヨークを拠点に日本と行き来しながら多忙な日々を送っているという。同氏が運営するウェブメディア「アンミックスラブ(UNMIXLOVE)」では「その“きれい”のために必要なものを探している人たちへ。」をテーマに、美しくしなやかに生きる女性たちのインタビューや美容情報など“きれい”のヒントを発信している。また、美容ライターの長田杏奈氏、写真家の前康輔氏との共同著書「あなたは美しい。その証拠を今からぼくたちが見せよう」(大和書房)の出版も予定している。

 今回、ニューヨーク在住の吉川氏にスカイプで取材を実施。「キッカ」のブランドクリエイターとして感じたことや終了後の活動、さらにはこれからのビューティ業界への思いを語ってもらった。

WWD:「キッカ」のブランドクリエイター退任後、ウェブメディア「アンミックスラブ」の開設など多忙な日々を過ごしている。

吉川康雄(以下、吉川):「キッカ」をやっているときもとてもいそがしかったんですが、今は次のチャレンジや活動に向けていろいろと準備をしています。自分のキャパシティを完全に超えていて、やってもやっても終わらなくて……紅茶のスプーンで富士山を作っている感じです(笑)。

WWD:「キッカ」終了に向けて動き出したとき、どう思われましたか?

吉川:最後の1年くらいは、将来のことや次の契約のことも話し合っていて、「ここから離れなくてはいけないな」というのは感じていました。また、「キッカ」のクリエイションをしていく中で、これからの10~15年の間にビューティ業界を変えていかなければいけないと考えていました。美容というのは女性が生まれてから死ぬまで付き合うもので、人生の中で寄り添い、心地よいものであるべきであるのに、ビジネスサイドの都合が見えることで、女性が気持ちよいと感じられなくなってしまう。そこを変えなければいけないと。

例えば、コンプレックスを刺激するような、人の心に刺さるショッキングな言葉を使ったプロモーション、ビジネスが多い。それは僕がこの業界に入ったときからそうだったし、今はもっとそういう傾向が強いと思います。だけど、それって人を幸せにしているのかな?と考えたとき、たぶん傷ついているだけでなんです。作り手のほうは毎回同じフォーミュラでちょっとリニューアルしたものを出して、新しい刺さる言葉で人の心をぐさぐさと傷つけて、また同じようなものを売り続けている。それが、やっぱり僕には賛成できなかった。

WWD:確かにコンプレックスに対するプロモーションは多いですね。

吉川:企業っていうのはお金をもうけたいし、ビジネスをするもの。でもそれって全然軽蔑することじゃなく素晴らしいことなんです。しかし、人の心を刺すようなビジネスが多いのも事実。それは美容業界だけじゃない。言葉でドキっとさせて、人を振り向かせる。だけどそのショッキングな言葉って、一番簡単なのは人を傷つける言葉。やっぱり美容の中では特に多かったし、人の心に蓄積してしまうんです。それって人が傷つくだけじゃなく文化的にもすごくレベルが下がってしまう。

自分がどこまでできるかわからないけれど、ビューティは背中を押してくれたり勇気を出させてくれたり、自分を助けたり、そういうものにしなくてはいけないと思っています。今新たに挑戦していることや活動もそこにつながっています。もう少ししたら具体的にお伝えできると思います。

WWD:最近では多様性(ダイバーシティー)というキーワードが台頭しているが、どう捉えている?

吉川:人種や肌の色が違っても皆抱えるコンプレックスは似たようなもの。全てを快く受け入れられる人なんてそういなくて。だけど、外国人は「そういうのないよね」というイメージを持ちがちですよね。でも、アメリカでもダイバーシティーって言葉がよく使われるっていうことは、まだ目標だからなんです。出来上がっているものじゃなく、そうなっていかなくちゃねっていうもの。言葉で言うのは簡単だけど、世界的に全員がそこに向かって頑張っている途中で、誰もまだたどり着いていない。だからそういう言葉がある。本当の意味で理解している人たちにそういう言葉は必要ないでしょ?

今は世界中の人がそこに行こうとしている途中。だから僕が提案するのは、次世代ビューティ。次世代がそうなっていけるようなベースをつくりたい。僕が今やめてしまったら、何もなかったようにただの流行で終わってしまいそう。次のはやりはなに?って。だからこそ今、時代が後戻りしないようにしっかりメッセージを伝えていきたいと思っている。世界とつながれるテクノロジーはあるけど、遮断してしまうことも簡単。だからこそ、流行で終わらせず、日本も世界と同じように変わっていけたらと思う。

WWD:メディア「アンミックスラブ」はインタビューが中心だが、どういった意図で立ち上げた?

吉川:僕は“自分を大切にする”ということを大事にしています。“自分を大切にすることの大事さに気づいている”と僕が感じた人たちに出てもらって、人それぞれ違うであろう独自のお話を聞きたいと思っています。有名な人だろうが無名の人であろうが、普通の会社員であろうが、全て横一列になって出てもらうサイトです。スタート地点の“自分を大切にしている人”に話を聞くというところ以外、あとは自由なんです。

WWD:撮影、メイク、インタビュー、全てを吉川さん自身が手掛けているんですね。

吉川:ヘアメイクの仕事って人と話ながらするじゃないですか。相手の緊張感を解いて、リラックスさせることも大切な仕事。そういう経験から引き出せることもあると思ったんです。昔はメイクしかしていなかったけど、そこから形が変わってきているように思います。だから今、自分の職業は何か?と聞かれたらちょっとわからないんですよね。自分でも自分の枠を決めつけていません。

WWD:発売予定の新著書「あなたは美しい。その証拠を今からぼくたちが見せよう」はどういった内容?

吉川:ライターの長田杏奈さんを「アンミックスラブ」でインタビューした際に話したことがきっかけでした。10代の若い女性たちがモデルや女優、タレントとしてデビューすると、透明感があるねと言われるけど、30代や40代の人は自分にはもう透明感はないと思っていて、 “透明感”って年を取るほど遠のいていく言葉だと思っている人が多い……。だけど僕が思うには、全ての世代にピュアネスがある、全ての女性に透明感がある。でも話しだけじゃなくて、それを証明しなくちゃいけない。じゃあビジュアルで証明しようということになった。それで僕と長田さん、カメラマンの前さんとこの本を作ろうということになりました。10~50代の女性たちのポートレートを通して、全ての女性にある美しさやピュアネスを伝えられたらと思いっています。

WWD:今後はどういった活動を行っていく?

吉川:書籍の発売イベントなどを予定していましたが、新型コロナウイルスの影響で中止になりました。夏ごろには日本に行く予定でしたが、今はどうなるか分からないですね。とりあえず今取り組んでいる新しいチャレンジと向き合うことが大きな課題です。しばらくはそこに費やすことになると思いますね。

WWD:新型コロナウイルスの影響が大きくなる中で感じていることは?

吉川:やっぱり安全を確保することがとても大切で、一人になる時間も増えていると思うんです。家族がいたら人間関係もよくも悪くも強調される。これまでシリアスに考える必要がなかったことがすごく見えてくる。だから自分にもっと目を向けるチャンスだと思います。コロナ禍以前なら仕事や遊びなど、いろんなことで気を紛らすことができたけど、今はそれができないから、ちゃんと考えようって時間なんじゃないかな。そう考えると長期になってもやることはたくさんある。みんながそう思えるといい。そしてそれが、自分を大切にすることなんだと思います。

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