ファッション

ドリス・ヴァン・ノッテンらが「ファッション業界への公開書簡」 「クロエ」も賛同

 ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)、シラ・スー・カルミ(Shira Sue Carmi)=アルチュザラ(ALTUZARRA)最高経営責任者(CEO)、そして香港の高級専門店レーン・クロフォード(LANE CRAWFORD)やセレクトショップのジョイス(JOYCE)を率いるアンドリュー・キース(Andrew Keith)社長は、5月12日にオンラインイベントを行い、実際の季節に合ったスケジュールで商品を販売することなどを提言するウェブサイト「ファッション業界への公開書簡(Open Letter to the Fashion Industry)」を立ち上げたことを発表した。

 通常、春夏物は1月中旬から6月に、秋冬物は6月から9月初旬にかけて店頭に並ぶ。しかし同サイトに掲載された公開書簡では春夏物を2月から7月まで、秋冬物を8月から翌年1月まで店頭に置くことや、セールをシーズンの最後(春夏は7月、秋冬は1月)に実施することを提案。「現在は危機的な状況にあるが、ファッション業界のビジネスを根本から見直してよりシンプルにするまたとない機会だ。環境的にも社会的にも持続可能なものにすることで、顧客の要望にさらに応えられるようになるだろう」と表明している。また「不要な商品の生産を減らすことで生地や在庫の無駄を削減し、物流や輸送の負担を軽減して、サプライチェーン全体と販売スケジュールをより持続可能なものにする」ことや、デジタル・ショールームの利用を促している。

 ドリスは、「この公開書簡の目的はルールを押し付けることではなく、緩やかに連帯し、業界全体によりクリエイティブな発想を促すことだ。値下げをせずに顧客を引きつける方法はいくらでもある」と語った。

 キース社長は、「多くの店舗が休業していた3月上旬に、とあるオンラインプラットフォームが『シーズン真っただ中の春夏物の在庫を安く買わないか』と連絡してきたが、それで目が覚めた。こうしてすぐに値下げして売ろうとするのは、ファッション業界に長らく蔓延している病のようなものだと思う」と話した。またカルミCEOは、「強制的にロックダウンされているこの機会を無駄にしてはならない。一度立ち止まり、これまでの慣例を常識に基づいて考え直すべきだ。この公開書簡に多くの人々が賛同し、署名してくれることを願っている」と述べた。

 5月15日の時点で署名しているのは、デザイナーのダナ・キャラン(Donna Karan)、アニヤ・ハインドマーチ(Anya Hindmarch)、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク(Walter Van Beirendonck)、ガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)、トリー・バーチ(Tory Burch)ら。小売り関連では、ピート・ノードストローム(Pete Nordstrom)=ノードストローム(NORDSTROM)社長兼チーフ・ブランド・オフィサー、リンダ・ファーゴ(Linda Fargo)=バーグドルフ・グッドマン(BERGDORF GOODMAN)ファッションおよびストアプレゼンテーション部門シニア・バイス・プレジデント、サラ・クーナン(Sara Coonan)=リバティ(LIBERTY)バイイング・ディレクター、セバスチャン・メインズ(Sebastian Manes)=セルフリッジ(SELFRIDGES)バイイング・ディレクター、栗野宏文ユナイテッド・アローズ上級顧問クリエイティブディレクション担当らが署名している。ほかにも、ドイツ、イタリア、デンマーク、トルコ、カナダ、オーストラリア、韓国などの小売店も名前を連ねている。

 また19日には、クロエ(CHLOE)のリカルド・ベッリーニ(Riccardo Bellini)CEOが署名した。「クロエ」は「カルティエ(CARTIER)」や「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」などを擁するコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)の傘下で、この公開書簡に賛同する初めてのラグジュアリーブランドとなった。同氏はドリスがブランドや小売店に対して、スローファッションの実現や規律を守った形でセールを行うこと、そしてクリエイティビティーにいっそうの敬意を払うことを促す姿勢に感銘を受けて直接連絡したという。「現在の危機的な状況は、ファッション業界のビジネス全体を見直し、間違いや時代遅れなこと、また環境や社会にダメージを与えていることを正せるまたとない機会だ。われわれにはこうしたことに取り組む責任があるし、問題を解決するためには大勢の力が必要だ。業界全体が協力しようと動いていることに拍手を送りたい」と話した。

 賛同者の中でも、ファッションショーを開催するかどうかについて判断するのは時期尚早だとする意見がほとんどだが、「ドリス ヴァン ノッテン」は今年の夏にメンズのショーは行わず、9月に予定されているウィメンズについても開催しない可能性が高いという。今後については、ショーの終了後にすぐルックを購入できる“シーナウ・バイナウ(See Now, Buy Now)”方式を導入することも含め、21年春に再検討するとしている。ドリスはまた、メイン・コレクションの生産や店頭への入荷が現在よりも遅くなるのであれば、プレ・コレクションの必要性は低くなるだろうと指摘した。

 こうした動きはファッション業界で徐々に広がりを見せている。ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)は4月3日に米「WWD」に公開書簡を寄せて、衣料が過剰に生産されている現状や、実際の季節とはかけ離れたスケジュールで販売されていることに疑問を呈した。また秋冬物の入荷が遅れることから、「アルマーニ」では春夏物を長く店頭に並べることを発表している。「シャネル(CHANEL)」や「ヴェルサーチェ(VERSACE)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」も同様の取り組みを行うほか、「ジバンシィ(GIVENCHY)」はセールの時期を遅らせることを要請する文書を小売店に送付した。

 百貨店では、米国のサックス・フィフス・アベニュー(SAKS FIFTH AVENUE)が20の主要ブランドと話し合い、実際の季節に合わせて商品を入荷するようにしたという。しかし、これに伴ってセール期間がどうなるのかについては明らかにしていない。

 一方で、ラグジュアリー専門のECではすでに20年春夏コレクションのセールを行っているところもある。イギリスの高級ECサイト「マッチズファッション ドットコム(MATCHESFASHION.COM)」、そしてイタリア発のセレクトショップであるルイーザヴィアローマ(LUISAVIAROMA)やアントニア(ANTONIA)が運営するECサイトなどでは3月から15〜50%引きのセールを実施した。今回の公開書簡に署名しているECサイトは、現時点ではドイツの「マイテレサ(MYTHERESA)」のみだ。

 ドリスは、「ほかのEC企業にも声をかけている。現在はラグジュアリーやデザイナーズブランドが中心だが、将来的には小売りなども含めてより幅広い賛同者が集まることを期待している。われわれはライバルであると同時に、同志でもあるのだから」と説明した。

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