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丸山敬太×軍地彩弓対談 服を売らないファッションビジネスを考える(後編)

 丸山敬太「ケイタ マルヤマ(KEITA MARUYAMA)」デザイナーは、ココネが運営する着せ替えアプリ「ポケコロ」とコラボレーションし、キャラクターの着せ替えアイテムをデザイン・監修した。現在「ポケコロ」は累計1500万ダウンロード、1日あたりのアクティブユーザーは約20万人を超える。ユーザーは9割以上が女性で10代から60代まで幅広く、中でも10代が多くを占める。「服を作って売るだけがデザイナーではない」と語る丸山デザイナーと、今回のプロジェクトに丸山敬太を招へいした軍地彩弓gumi-gumiCEO 兼「ヌメロ トウキョウ」エディトリアル・アドバイザーの2人が、これからの“服を売らないファッションビジネス”について語った。今回はその後編。

WWD:「ポケコロ」で丸山さんが監修したアイテムを見たが、完成度が高かった。

軍地:「ポケコロ」のスタッフも私たちもお互いに新しい経験だった。社内デザイナーの方たちは、さまざまなテイストのアイテムを描ける力を持っている。そこに敬太さんが入ることでトータルコーディネートやディテールのバランスが変わってくる。たとえば色調をちょっと変えるだけでぐっと大人化する。敬太さんの服はただかわいいだけでなく、大人の洗練があって、そのニュアンスをスタッフの皆さんにも学んでもらえるきっかけにもなって、とても勉強になったと思う。

服を作っているからファッションデザイナーではない

丸山:「ポケコロ」のスタッフの方は、パーツごとにどういったものが人気なのかを熟知しているから、僕がやる新しさはそこしかなくて。服を作っているからファッションデザイナーではなくて、世界観を作れることが大事でそれがファッションデザイナーの仕事だと思っている。逆に言えば、ただ服を作っている人はファッションデザイナーだとは思っていない。

お客さまがデジタルの世界で何を求めているのかということを、スタッフの方からうかがいながら、どこまで過剰にして、どこをそぎ落とし、どこまで省略してどこまで追い込むかみたいなところをすごく考えたので、僕もとても勉強になった。本来12頭身みたいなモデルに着せているようなものを、3頭身の「ポケコロ」のキャラクターに合わせていくことって、やっぱりものすごく技術がいることだと思う。最初から3頭身の子にデザインする方が早い。でもそれって勉強になるし面白かった。それでちゃんとかわいくできるし、かわいくなるし、「ケイタ マルヤマ」らしさも出ている。

WWD:提案されたヘアに対してイメージが合わず、実際に丸山さんがヘアをデッサンしたこともあった。

軍地:たとえば、服とヘアスタイルとのバランスでも「この服にこのボリュームのヘアはないよね」とか、「このヘッドドレスはこのボリューム感ではないよね」とか。みんな各パーツを作ってきた人たちだから、まだまだそこが弱かったところを、敬太さんが入ることによってトータルコーディネートの考え方を学ぶきっかけになった。それって“ファッションとは何か”という究極の話になってくる。

デジタルに触れることでデザイナーの本質が浮き彫りに

WWD:ショーを通してモデルと服、ヘアメイクのバランス、演出といったトータルな世界観を考えてきたからこそかもしれない。

軍地:ファッションデザイナーならばやってきた工程をデジタルに置き換えるだけで、なるほどこういうことができるんだと。でもそれを、今の日本人のデザイナーの中で実際にできる人って数えるほどしかいない。正直、今の時点では敬太さんしかいない。だからこそ今回のキャスティングはすごくよかったんだと思う。「デザイナーとは何ぞや」といったときに、本質的なところがゲームやデジタル世界に触れることで、むしろはっきりとした。世界観を持つ人、オリジナリティーを構築できる人――デザイナーの定義が逆に浮き彫りになった。

丸山:最近、若いデザイナーたちのデザインを見ていると、すごく面白い世界観を持つ人たちもいっぱい出てきているんだけれど、それを形にしていくことが今の時代だとある意味で難しくなっていることもある。そのようなデザイナーたちが2次元の世界に挑戦して、それなりにちゃんと対価を払ってもらい、稼げるようなすべを見つけ、それをまた自分のリアルな世界に結び付けていくようなことができたら、面白いことが生まれるような気がする。

軍地:これまでのデザイナーのビジネスモデルというのは、ショーをやった後に展示会を行い、注文を受け、それを商品化してエンドユーザーに届けるという、モノ(服)を中心としたサプライチェーンで動いていた。敬太さんは最近では「GU」ともコラボして、完売するアイテムが続出するほど人気で、いろんな販売チャネルを持っている。これはいろんな人に応用した方がよいと思う。今の時代においてパタッと販売ルートが途絶えたときに、何か別のルートでちゃんとモノを回していけるのはすごく必要なこと。たとえば斬新な家具をデザインしてみてもいい。いろんなビジネスモデルを構築し、現金化できるチャネルを多く持つというのは大事なことだと思う。

新しい扉が開くことはすごく楽しい

WWD:今回の「ポケコロ」のようにデジタルの世界の人たちがファッション業界に興味を持ち、話を持ちかけたように、異業種同士のつながりや接点が増えたりすることで、デザイナーやヘアメイクなどを含めてこれまでと違う働き方ができるし、仕事の幅も広がるかもしれない。

丸山:そもそも“ファッション業界”っていう言葉自体ももういらないと思っていて、業界って何?って思ってしまう。よくファッション業界って言われるけど、どこまでをファッション業界とカテゴライズするのかをよく軍地さんとも話していた。そこに何かあるの?って(笑)。“業界”って言葉がナンセンスで、今どれだけみんながフラットに溶け合えるのかがすごく重要。僕は「ポケコロ」のことを知らなかったけれど、実際に一緒に仕事をするとみんな素晴らしい。「こんな人たちと今までやってこなかったんだ、つまんないな」って思っていて。新しい扉が開くということはすごく楽しいことで、その先に楽しみに待ってくれる人がいるっていうことが大事なこと。へんなこだわりみたないものを持ち続けるのってつまらない。これだけ時代が変わっていて、いろんなことが変化しているんだから、アフターコロナはいろんなみんな交じり合って、社会に望まれることをもっとかたちにしていくんだなということがクリアになった。

軍地:“ファッション業界”って自分たちで言っている瞬間にどこかで壁を作っていたり。

丸山:マウンティングっぽい、ちょっとそういうところもあったりするじゃない。実際あったと思う、自分も(笑)。比較的いろんな業種の方たちと仕事をしているから、それについて何か言うような人たちも中にはいるんだけど。

軍地:私がテレビでコメンテーターをやるとかに対して中には「ん?」て思う人もいると思うけれど、私にとってファッションは世界の一つだから、そこで“村化”していることの方がダサいと思っていた。「ネットフリックス(NETFLIX)」の「フォロワーズ(FOLLOWERS)」でも、あれだけのファッションブランドの服を借りるのはほぼ難しいとみんながあきらめたことだけど、私たちからすれば素直にできること。「ファッションの人って、もっと敷居が高いと思っていました」と必ず言われるけれど、そういう風に利用してもらえばいいと思う。ファッションビジネスのことを「ニューズピックス(NEWSPICKS)」で話したり、映画にファッション業界の強みを持っていったり、ファッションをよく知っている人間がいろんなところで重宝がられることはあると思う。

丸山:確かに村は村でそのよさを持っていることが大事。ほかにも村があって街もあって都市もあって世界もあることを忘れてはいけない。隣の村や世界とどうコネクトしていくのかがこれからもっと重要になっていくから、そういう意味でお互いを専門職のような個々の魅力を持っている同士と考えればいい。でも根底にある人間の喜びみたいなものはみんな同じで、それに対して何かをクリエイトするのも、根本はみんな同じ。それぞれの強いところをうまくシェアし合って、よりよいものを提供していくことが今回の仕事の意義だと思った。

WWD:「ポケコロ」内でも今後、そのような仕事の広がりがあったらよいと思うか。

丸山:今度は人気スタイリストにも入ってもらってコーディネートを提案してもらったり、レクチャーとかがあったりしても楽しい。イベントとかもその中でやって、誰かがその中でトークショーをやるとか(笑)。

軍地:デジタルでもみんながつながる場所を持てて、敬太さんのような普段気軽に会えないような人の話を聴けるような場所を作ってもいい。「ポケコロ」っていろんなコロニーや部屋に遊びに行って、挨拶したりほかの人の木に水やりとかをしたりもする。文字によるコミュニケーションで元気?大丈夫?とか声を掛け合える。人とのつながりのライフラインが意外とデジタルの中にある。

丸山:このコロナ禍のときに、こういうこと(ポケコロ)をやっている人とやっていない人では豊かさが違う。もうすでにコミュニティーができているから、自分のキャラクターにオシャレさせてデジタル上で出掛けることができる。その欲求を満たすことができるからそれだけでも救いだと思う。

軍地:コネクトし、つながりを持つということ。

丸山:SNSもそうだし、いろんなデジタルの力がこのような災いの中にあっても、人間らしくいられる支えになっている。

軍地:ZOOMにしてもライン電話にしても、デジタルのツールがあったらから私たちは孤独にならずにすんだ。

丸山:リアルに街にも出られなくなり、表参道のラグジュアリーブランドが一斉に閉店し、自分の店も閉めなくてはならなくなったときに、終わりなんだなと思っていたけれど、そうなってもこんな風にちゃんとファッションを楽しむ場所があるというのは、僕にとっても今回救いというか、ありがたいなと思えた。このコロナ禍に備えて「ポケコロ」をやっていたわけではないし、プロジェクトはだいぶ前から進んでいたけど、いいタイミングでこのお仕事をさせてもらっていると感じている。

軍地:このプロジェクトの副産物として「ポケコロ」のスタッフの方たちの目がキラキラしていたのは私の想像を超えていた。一度打ち合わせで「丸山邸」に来てもらったときも、みんなこの場所に来たことで気持ちが上がっていた。実際に店舗にあるリアルな服やバッグ、インテリアなどに触れ、その後、実際にアイテムに落とす作業をした。副産物ではあったけど、ファッションの力をこうやって伝えていけるんだと思った。スタッフの方たちの仕事はいつもより何工程も増えたと思うけれど、キラキラしたみんなの目がよかった。一方でお互いに“闘った感”もあって、最終的に異なる2つの業界が交じり合うってそういうことなんだなと感じた。

丸山:最終的にはそういうものが生き残っていける時代になるし、ユーザーにも伝わるんだなと。

軍地:敬太さんはこのプロジェクトに時間をかけていて、敬太さんが加わったことで修正するポイントも明らかに変わってくる。私が見ていて、服を作っている工程と何ら変わらないと感じた。デザインを起こして、トワルチェックして、サンプルでこれは違うなど、普段やっているのと同じに見えた。そういうことも含めてモノを作るという根源は同じ。その情熱をリアルでもデジタルでも同等にやっていかないといけない。デジタルだから、ゲームだからラクでいいでしょう、ということでは全然ない。その熱量を同じように同価値で保っていけるというのは今回の体験で得たこと。

ファストファッションでも雑誌の付録でもかける熱量は同じ

丸山:今回のプロジェクトや「GU」でのコラボを含めて、ずっと思っていたことだけど、ファストファッションだろうが、雑誌の付録だろうが、かける情熱はちゃんとかけないとダメということ。「単価が安いからこのくらいでいいや」とか、諦めみたいなものや、たかをくくった感じとか。計算で物事やっていく時代は本当に終わるので、もっと僕らモノを作っている人間は、そこに情熱を傾けていく。だからある意味いい時代に戻っていく、というか、変わっていく。

軍地:常に敬太さんと話している中で、服を作ることだけにこだわっていないのを感じる。そしてすごく本質的なことをやっている。最終的にモノを作るという本質的なことは何らブレていないし、最終的にユーザーに届けることも、私が雑誌を作っているときと変わらない。そういうところに立ち返っていくんだということを、今回このタイミングでより強く感じるというか。そして敬太さんは日本のデザイナーで一番多角的にやられている方だと思っている。

丸山:もうかってないんだけどね。誰かー!(笑)。

軍地:ドリカムの衣裳や企業の制服もデザインしているし、「GU」もそうだし。隅々まで「ケイタ マルヤマ」になっている。それは商品がかわいいから。結局モノを作る人はいいものを作り続けなきゃいけないという宿命があるから、それは大変だと思うけど、ある程度ビジネスでそれをサポートしていかなくてはいけない。

丸山:そこは大事(笑)!サポートしないとクリエイションがこの国からなくなり、クリエイションが死んじゃう。でも逆にクリエイターの人たちもそれに応えるための努力はしないといけなくて、自分がやりたいことのためだけにサポートしてもらう訳ではないから。その仕事に対して自分が何をどう返せるかということを真剣に考えないといけないんだけど、みんな勘違いしちゃう。自分のやりたいことをやるだけになってしまう。

軍地:私も東京のデザイナーに対しても「ショーをやっても売れてなくてはダメでしょう」とずっと言っている。

丸山:やりたいことをやるなら自分のお金、財力でやるべきだし、仕事ならば何でもその先にお客さまがいる。そのお客さまに、どれだけどう自分の世界観で喜んでもらえることを提供できるかっていうことが重要なことだから。

軍地:敬太さんのインスタグラムを見ていると、ファンとのつながりがしっかりしていると感じる。「GU」もしかり、今アップサイクルで作っているかごバッグもすぐ売り切れる。確実に広くファンを持っていて、すごく真摯にやりとりしている。

丸山:だから洋服を買わないファンも逆に増えていて。じゃあ何をしてあげたらいいのかと考えると、言葉を望んでいる人がいたりとか、いろんな人たちがいる。でもファッションという流れの中から僕を知ってくれて、そういうことを望んでくれる人が多いならばそれは一つの形になるだろうなとは常に思っている。ファッションデザイナーでやってきているから、それは生業としてやっていくわけだけど、興味を持ってくれて、投げかけてくれることに応えていくのが楽しい。

WWD:今回のプロジェクトや服を売らないビジネスの話は、これから出てくるデザイナーやクリエイターにも生かせる話だ。

丸山:あまりカテゴライズされず、わりといろんな仕事をしている僕がやると、若いデザイナーも含め、みんなやりやすくなるんじゃないかなと思っている。ブランドが毀損するのではないかという心配のハードルが少し下がるんじゃないかな。そんな風にどんどんやっていくのが自分の役割かなとも思う。

軍地:みんな「こうじゃなきゃファッションデザイナーじゃない」と縛られてしまっている。そして今、日本人デザイナーはリアルクローズに寄りすぎてしまって、ファンタジーが少なくなっている。

丸山:視野が狭くなってしまうのは僕も分かる。

軍地:日本のファッションの中にファッションドリームが絶えてしまった。日本からヨーロッパやアメリカに行ってファッションデザイナーを目指す人がいなくなってしまって、ファッション系の学生の目標がファッションブランドではないことも増えた。

丸山:トモ君(小泉智貴)とか、村上亮太君のこの間のショーは映像で見てすごく感動したんだけど、やっぱりああいう人たちが真面目に闘ってきているから、またよくなる気がする。

軍地:私たちよりもフラットな人たちがたくさん出てきているし。敬太さんみたいなデザイナーがたくさん出てきてほしい。

丸山:いっぱいいる。才能がある人はいっぱいいるんだと思う。

軍地:このプロジェクトが好評で第2弾があったときには、リアルとデジタル上で同じバッグを買えたり、デジタルの中からリアルに送客することもできたりしたらよいと思う。いかに、これからどうファンをつなぎとめるか。敬太さんも「ポケコロ」もファンを持っている。相互送客によってケミストリーが起きて、デジタルにはまっていた人にファッションを知ってもらったり、リアルしか知らない人が自分のアバターに敬太さんの服を着せて楽しんだりとか。お互いにとってウィンウィンだと思う。最後はユーザーがかわいい服にテンションを上げくれるのが、私たちの最終的な目標。それがこれからできるかなと思う。