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丸山敬太×軍地彩弓対談 服を売らないファッションビジネスを考える(前編)

 丸山敬太「ケイタ マルヤマ(KEITA MARUYAMA)」デザイナーは、ココネが運営する着せ替えアプリ「ポケコロ」とコラボレーションし、キャラクターの着せ替えアイテムをデザイン・監修した。現在「ポケコロ」は累計1500万ダウンロード、1日あたりのアクティブユーザーは約20万人を超える。ユーザーは9割以上が女性で10代から60代まで幅広く、中でも10代が多くを占める。「服を作って売るだけがデザイナーではない」と語る丸山デザイナーと、今回のプロジェクトに丸山敬太を招へいした軍地彩弓gumi-gumiCEO 兼「ヌメロ トウキョウ」エディトリアル・アドバイザーの2人が、これからの“服を売らないファッションビジネス”について語った。今回はその前編。

WWD:5月16日にスタートする「ポケコロ」とのコラボレーションは、どういった経緯で実現したのか?

軍地彩弓gumi-gumiCEO兼「ヌメロ トウキョウ」エディトリアル・アドバイザー(以下、軍地):「ポケコロ」の担当者からファッションの観点で相談させてほしいと連絡があった。私自身がまだ「ポケコロ」を知らない状態から話を聞いたときに、「ポケコロ」を見て素直にかわいいなと思ったのが一つ。あとは、アクティブユーザーが1日約20万人もいること。ファッションビジネスのチャンスを同時に考えた。

WWD:「ポケコロ」の担当者からは、デジタルで洋服アイテムを作って売っている数では、日本において「ポケコロ」が一番多いかもしれないけれど、社内でファッション業界での経験を持つ人が全然いないのはどうなのかという疑問があったと聞いた。ファッションの経験、文化、センスを持つ人と話をすることが必要だと感じて軍地さんにお願いしたと。

軍地:「ポケコロ」にはコロニーという星があって、その中に一つ一つの部屋がある。そしてその中に“コロニアン”という自分のキャラクターがいる。自分(またはキャラクター)の着替えのほか、表側のコロニー、中のインテリアそれぞれ模様替えが可能で、家、ソファ、ベッドなどを含め、どんな部屋にしたいかを選ぶことができる。そうなるとライフスタイル丸ごとを表現できる人でないとまず無理だと思った。今、トータルの世界観でファンタジーを作れる人は、敬太さんしかいないと思い相談した。

丸山敬太デザイナー(以下、丸山):ここ数年ずっと思っていたのが、“服を作って売ることだけがファッションじゃない”ということ。僕がファションに興味を持ち始めたきっかけって、蔦谷喜一のぬりえブック「きいちのぬりえ」とか、紙でできた着せ替え人形。幼い頃に原風景の中で2次元のものに触れてきた。この話をいただく2、3年前にもゲームのコンテンツ「うたの☆プリンスさまっ(うたプリ)」のアイドルたちに洋服を作ることを実際にやっていて、それがものすごく面白かった。

キャラクターデザインを担当する方がファッションをデザインするのではなく、キャラクターをデザインした人とは別に、ファッションデザイナーが関わって服をデザインするのは、新しいことのような感じもするけど、逆に至極当たりまえのような気がして。この話をもらったときに「わあ、楽しそう」と思って引き受けた。

ブランドのバリューは毀損するのか、しないのか

軍地:本来、デザイナーとしてリスクもあることだと思う。最初に敬太さんに話を持っていったときも「お願いしていいのかな」という思いもあった。ブランド価値の毀損が一番怖いから、本来だったら「ムリだよ」と言われてもしょうがないと思っていたけれど、敬太さんはすんなり受けてくれた。ちゃんと考えられていると思うけれど。

丸山:基本は楽しそうかどうか。ただ、2次元なら何でもよいわけではなく、ブランドの世界観にマッチするかどうかを客観的に考えての決断。そして先のお客さま(エンドユーザー)のことを最初にきちんと聞いて、そこでやれそうだなと思わないと仕事は受けないようにしている。

軍地:どのブランドでも当てはめてできるわけではないし、ブランドの毀損になると言ってくるところもあると思う。でも私は今回のことでよっぽどのことじゃない限り、ブランドは毀損しないんだなと思った。

丸山:そう。むしろアコギなことをするとかだますとか(笑)、そういうことをしない限り、ブランドは毀損しないんだと思う。ただ、これをテキトーにやって、大して自分でもかわいいと思っていないのに「どうぞどうぞ」ってやっていったらブランドは毀損するけど。

軍地:敬太さんはすごくそこにこだわっているから、デザイナーはその努力をずっとしていくしかない。結局はデザイナーの責任になってくる。

丸山:そういうこと。

軍地:それはとても大変な作業だから、途中で「大変なことを頼んじゃったな」と思って……。私的には敬太さんが最初に「こうじゃない、こういう髪型じゃない」と一つ一つ言ってもらったのが目からウロコで、あとあと形になって見てみると、「なるほど、これでOK出しちゃいけなかったなんだな」と。

WWD:丸山さんは、取り組んでみて具体的にどういったことに面白さを感じたのか。

丸山:今回は過去のアーカイブのコレクションを再現してみて、やれることがとても自由で、その楽しさを感じた。「ポケコロ」をやっている人たちは、何が楽しいのかがリアルに分かってくる。実際、ドレスを自分のライフスタイルの中で着るシーンがなかったりする人の方が多い。僕もそういうファンタジーを作りたくてデザイナーをやっているから、デジタルの中で自分のキャラクターにいくらでも好きな服を着せることができる楽しさを実感した。

軍地:好きな服を選んで隣に挨拶にいってコミュニケーションをとったり、何度も着替えたりすることができる。

丸山:そう。コミュニケーションがすごくできるツール。ファッションはコミュニケーションの一つだと昔から思っていて、着ているものを通して会話のきっかけになったり話が膨らんだりすることがファッションの楽しさ。そういうことが逆にこのデジタルの世界の中では活発に行われていて、あらためてこういうところにファッションの本質みたいなところがつながっているんだなと思えた。それと同時に、これから可能性がある場所だなと思った。

軍地:デジタルの世界にもファンタジーがある。私がファッション誌の「グラマラス」「ヴィヴィ」「ヴォーグ ガール」を作っていたとき、ページを開いたときの、女の子の気分がふわっと上がるようなファンタジーをすごく考えながらハウツーにまで落とし込んで作っていた。今の女の子たちでいうと、それと同じような体験は何だろう?と。もちろんインスタグラムもピンタレストもあるんだけど、何かストーリーを伝えたり、ファンタジーの世界観を伝えたりすることにここ数年ずっと分断を感じ、自分なりに疑問があった。

WWD:実際に「ポケコロ」のユーザーに会ってどう感じたのか?

軍地:インタビューした際、ファッションと接点を持つこと、服を着替えることに対して女の子たちの目がキラキラしていたのが印象的だった。その情熱は私が「ヴィヴィ」を作っていた頃、女の子が熱狂していた時代と全然変わらない。リアルでは「ポケコロ」に着せるような格好はできないけど、自分のクローゼットを持っているようだと言って、中には課金で10万円くらい使う人もいる。「10万円あったら、まあまあいいバッグが買えるのでは?ずっと使えるし」と聞くと「違うんです。バッグ1つ買うとまずその分スペースが必要になるし、買った瞬間に安くなるからリスクにもなる。だけどデジタルの中では逆に価値が上がることもあるし、価値が落ちないんです」と言ったりしていて、モノの価値観の変化をまざまざと感じた。

モノの価値観がガラガラと音を立てるように変わっていく

WWD:とくに若い世代におけるモノの価値観が変わってきている。

軍地:たとえスマホが壊れても継続できるものであって、価値が毀損されず、逆に財産になる。そうなるとモノの価値観がガラガラと音を立てるように変わっていく。私たちはリアルでフィジカルなモノを売り買いすることにずっと注力してきた。デジタルの中にあるモノの価値を下に見ていたのかもしれない。実際に「ポケコロ」の画面を見たら分かるけれど、すごい再現力。そうなるとリアルとのクオリティーが近寄ってきて、2次元の世界と私たちのフィジカルの世界のどちらで提供しても、モノの価値ってそんなに変わらないんじゃないかと思う。

たとえば実際に「ケイタ マルヤマ」の50万円のドレスが買えなくても、「ポケコロ」の課金でクローゼットに置ける感覚、実際のドレスと同じように買った感覚を手に入れることができる。感情的な上がり感、エネルギーの総量的にはそんなに変わらない。

丸山:スマホやiPadといったデジタルのいろんなものが出現してからだいぶ経つけれど、今までリアルとデジタルは別のものという考え方があった。だけど、すでに変わってきていて、どちらを選ぶかというだけの話で、デジタルの中にしかいない住人がリアルの方に目を向けたり、その逆もある。今はその過渡期。交じり合ういい時期に来ていると思う。

僕がこういう仕事をさせてもらえたのは、ちょうどそのタイミング。「ポケコロ」で「ケイタ マルヤマ」を知った人が実際の商品を見てすごく素敵、欲しいと思ってくれる人もいるかもしれないし、その逆でずっと「ケイタ マルヤマ」を好きでいてくれた人が、デジタルの世界に入っていったときに、もっと気軽に体験できる喜びに目覚めていく。

軍地:自分のアイテムが増えていけば増えていくほどクローゼットの中身が増えていき、その中で服やバッグなどの組み合わせを考えるのは、毎日女の子がやっていることと同価値で普遍的なこと。実際にはその格好(ドレス)で会社には行けないけれど、かわいいものを着たい、組み合わせたいという着せ替え欲求は女の子の根源にあるのでは。

丸山:デジタルの世界では、現実にないようなアイテムを楽しめたりもすれば、「ケイタ マルヤマ」のように現実にあるものを楽しむこともできるし、どこにでも行けたりする。イマジネーションの中でいろんなことができるのは、ほんとにクリエイティブな遊びだなと思う。取り組んでみて楽しかったし、変な言い方かもしれないけれど「ケイタ マルヤマ」の世界観ってそういうものにハマりやすいファンタジーとかモチーフがある。僕自身、そういう物語を組み立ててモノを作っているから、何の違和感もなくやれた感じがする。

軍地:敬太さんの顧客は年齢層が上がってきているから、敬太さんにとってもチャンスだなと思うのは、10代の女の子が「ケイタ マルヤマ」をデジタル上で知ることで、ブランドを知るきっかけになる。「ポケコロ」は親子で楽しんでいる人も多いから、アイテムを贈り合ったりもする。実際にその若い世代の女の子たちもかわいいと思えるものを、世代を超えて表現できる人は敬太さんしかいないと思った。

丸山:モノを作っている人たちって楽しめると思うから、「ポケコロ」の部屋の家具デザインを家具デザイナーが担当したり、建物のデザインを建築デザイナーが手掛けたりとか。どんどん膨らんでいったら面白いなって思う。ヘアメイクアーティストなんて絶対入ってきていいと思う。僕なんかからすると、デジタルの中に本物のファッションが入っていくことは素敵なことだと思うから、いろんなデザイナーがいろいろやればいいのにと思う。

クリエイトする力のある人が生き残れる時代にしなければいけない

軍地:加茂(克也/ヘアメイクアップアーティスト)さんが今いらっしゃったらと思う。クリエイトする力のある人が生き残れる時代にしなければいけない。加茂さんみたいなゼロからすごいものを生み出せる人たち。右から左ではなく、ゼロからモノを作るというのは全然違うもの。クリエイターが生き残る道の2020年版を作っていかないといけない。私はクリエイティブを失ったら人間ではないと思っていて、そのクリエイティブやファッションを新型コロナウイルスで諦めるとかとかではなく、ファンタジーを継続させて、それをちゃんと商業活動に持っていけるように、われわれのような周りにいる人たちもサポートしていくべき。

WWD:新型コロナウイルスがここまで感染拡大する以前からこのプロジェクトは進んでいたというが、くしくもリアルで服を売れない状況になり、ファッションデザイナーのビジネスモデルの在り方を考えるきっかけにもなっている。

軍地:「ファッションデザイナーは何を売っているのか」ということに帰結していくと思う。敬太さんを見ると「ケイタ マルヤマ」の世界観にお客さまがついていている。世界観を強く持っていると、さまざまなビジネスに生かすことができる。洋服を売ることだけが出口になってしまうと、今後ビジネスモデルとして服を売るパイが小さくなっていったときに先細りしてしまう。

物理的にモノを買うことだけがファッションを手に入れる手段ではなくて、たとえばゲームの世界でファッションに触れる、そこにタダでなくて対価を払うということが普通になるといい。デジタルの世界は0円が多かったが、デジタルで素敵なファッションを手に入れることにも、これからは対価が払われる時代。5G時代になってリアルとデジタルが溶け合っていくときに、物理的に洋服を買わなくても、ファッションをデジタルのAIやARの中で着られるということも今後起きていく。そういうときのステップとして、ゲームやアプリからスタートするのはよいと思う。

丸山:実際に服を作らないデザイナーが出てくるかもしれない。

軍地:ファッション専門学校では、アニメのデザインだけをするとか、ゲーム衣裳のデザイナーを志望する学生も増えてきている。布を縫わないデザイナーは20代だと当たりまえのように出てきていて、それが交じり合っている時代だなと思う。