フォーカス

「フォーサムワン」が挑んだ無観客ショー デジタルでファッションは伝わるのか

 LDHアパレルの小川哲史社長が手掛けるブランド「フォーサムワン(FORSOMEONE)」は、2020-21年秋冬コレクションのランウエイショーを東京・品川の寺田倉庫で3月16日に行った。18年のブランド設立以来初のショーだったが、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、RFWT)」の中止を受けて急きょ無観客での開催となった。ショーの模様はブランドの公式インスタグラムアカウントでライブ中継したほか、ムービーカメラで撮影したフル動画を「RFWT」公式サイトやLDHジャパンのユーチューブチャンネルで3月19日18時から公開する。

 会場となった寺田倉庫は、約1400平方メートルの広大なスペースを有する。東京ファッション・ウイークでも「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」や「ハイク(HYKE)」などの名だたるブランドが会場に選んできた場所だ。「フォーサムワン」も、観客こそいないもののスタッフや関係者、そして23人のモデルをそろえた万全の布陣で21時開始の本番に向けて着々と準備を進める。通常のショーは開場が近づくにつれて徐々に熱気が高まっていくのだが、今夜は本番が近づくにつれて静けさが増し、空気が張り詰めていった。小川社長もスタイリングの最終確認や、リハーサルで撮影したライブ動画のチェックを本番ぎりぎりまで入念に行う。2度のリハーサルを終えてスチールとムービーのカメラマンも位置につき、いよいよ21時まであと5分。静寂の中、「インスタライブ開始します」という声とともに会場は暗転した。

 しばらく続いた沈黙の後、白みがかったライトによって暗闇の中にランウエイが浮かび、ショーがいよいよスタートした。コレクションはテーラリングを軸にミリタリーやパンク、バイクといった男性の普遍的スタイルを大胆にアレンジして融合。ベーシックなスーツはハーネスやポインテッドトーのシューズでぐっとシャープになり、巨大なトレンチコートは流れるようなドレーピングでさらに迫力を増す。フライトジャケットは鎧のようなショルダーパーツが付き、無骨なバイカーズジャケットは超ショート丈にしてミニマルにするなど、振り切ったデザインを定番品に加えて強いスタイルを形成していく。これまでのストリートに軸足を置いたリアルクローズから大きく舵を切り、ハイファッションに向かう姿勢をにじませた。

 同ブランドのインスタグラムのフォロワーは約1万8000で、12分間のショーを配信したインスタライブの視聴者数は常時170〜200人。スマートフォンの画面越しでは実物のキモである素材感をはじめ、ディテールやモチーフはやはり伝わりにくいが、視聴者は“実況”感覚で複数の人とショーを共有できる楽しさがあり、ブランドは投稿されるコメントを通じて視聴者のタイプも見られる。そして中継はインスタライブのみにし、動画は数台のムービーカメラで撮影することに徹したのも今回は英断だった。同日には別ブランドが無観客ショーを一発勝負でライブ配信したものの、不安定なネットワークによって配信が途切れたり、時間が唐突に巻き戻されたりして集中できなかったからだ。さらにショーを配信する場合はBGMに著作権が発生するため、無音での配信となってしまったのももったいなかった。「フォーサムワン」のショーBGMはLDH所属のDJ DARUMAによるオリジナル楽曲だったため配信でも問題なく使用でき、後日公開されるフル動画も含めて、視聴者にコレクションの世界観やアイテムの魅力は届けることができそうだと感じた。

「できれば直接見てもらいたかったが、楽しかった」

 ショーが終わると、小川社長はスタッフや関係者の拍手に迎えられて、安堵した表情でそれぞれに感謝の言葉をかけた。しかし、どこか複雑な表情にも見えた。その理由を「やっぱり直接見てもらいたかった」と切り出すと、今回のショーにかけていた思いが溢れ出した。「自分たちのコミュニティー以外の人たちにも知ってもらいたかったので『RFWT』への参加を決めた。アイテムの型数もほぼ倍に増やして準備していたが、こういう状況で中止になってしまった。でも今後はショーの配信も増えて動画の時代になっていくはずだ。だから僕たちもプランを変更し、配信でも見やすい会場構成に急きょ変更して無観客ショーを実施することに決めた」。クリエイションで見せた変化については、「これまではアイテム単品の強さを意識してきたが、今回はその積み上げてきた物作りを一つのスタイルとして再構築し、トータルの世界観で提案することを意識した」と語る。さらに、見た目の派手さやキャッチーさの追求から解放されたことで「自分が好きな映画やパンクの要素を入れて、より等身大の物作りができた」と続けた。現在は直営店とオンラインストアのほか、国内は伊勢丹新宿本店メンズ館やヌビアンなど11アカウント、海外はセルフリッジ(SELFRIDGES)など7アカウントで卸も行う。今後は「販路は増やしたいが、世界がこの状況なので様子を見ながら」と慎重な姿勢を見せた。

 「RFWT」の中止を受け、さまざまなブランドが発表方法の変更を余儀なくされている。ショーを行うことだけが決して全て正しいわけではないし、デザイナーが100人いたら100通りの表現があってしかるべきである。しかし「フォーサムワン」が無観客ショーで新たな一歩を踏み出せたのは、自分たちのやり方を信じ、萎縮せずに真っ向勝負を挑んだからこそ。小川社長や現場スタッフの「できれば直接見てもらいたかったけど、楽しかった」という言葉が、現時点での全てを出し切ったことの何よりの証拠だろう。現場の静かな闘志に、会場にいた数少ない業界関係者の一人として心を動かされた。ファッションショーというフィジカルな場とデジタルの融合にはまだまだ可能性があるし、こんな状況だからこそメディアも含めてみんなでその可能性を探るチャンスでもある。暗いニュースが続く世の中で、ファッションを通じて道を切り拓こうとした「フォーサムワン」の姿勢には素直に拍手を送りたい。