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渋谷で一番「ワガママ」な服屋 コダワリの別注商品に込める思い

 2月24日号の「WWDジャパン」は渋谷特集。100年に一度と言われる再開発で変貌する若者の街にフォーカスした。ただ、編集部員の総力特集といえど、紙面からこぼれてしまった話もあるはず。そこで記者は、勝手に渋谷特集の番外編を企画。代々木上原駅との間にある「奥渋」エリアで最近、にわかに話題となっているセレクトショップ「ワガママ トウキョウ(WAGAMAMA TOKYO)」をピックアップする。

 代々木公園駅にほど近い半地下に店を構える同店は、30平方メートルほどの空間に玄人好みのブランドがそろう。価格帯はコートで10万円前後はするし、シャツやニットでも3万~5万円程度と決して安くはない。ラインアップや店内の雰囲気は「ザ・服好きのためのショップ」という印象だが、それだけでは取り上げる理由にはならない。訪問した結論から言うと、名は体を表すというが、本当に「ワガママ」なショップなのだ。

ワガママその1 「別注ができないなら取り扱いたくない」

 店は「ハバーサック(HAVERSACK)」「ナイスネス(NICENESS)」「ザ・イノウエブラザーズ(THE INOUE BROTHERS)」など国内ブランドが中心のラインアップ。聞けば商品の大半が別注商品という。

 オーナーの中村勇貴氏によると、彼の中で別注企画のプロセスは2パターン。一つが、ブランドの展示会で「ここをもっとこうしてほしい」とこだわりが顔を出す場合。デザイナーの譲れない部分と中村氏の「ワガママ」のつば競り合いの末に生まれるのが、「こだわりのある人に響く(しか響かない)マイナーチェンジモデル」。一方で、「こんなものがほしい」と漠然と思い描いている服を、ブランドにイチから商品化を依頼することもある。たとえば、2020年春夏新作の「レインメーカー(RAINMAKER)」のシルク100%のキューバシャツ(4万8800円)はパターンからの完全オリジナルだ。最近、ブランドから取り引きを持ち掛けられた場合は、「別注をさせてくれることが前提になりますが」という注釈付きで承諾しているという。

ワガママその2 「いつまでも“お客さん”でいたい」

 どうして、こうも別注にこだわるのか。もはや、自分でブランドを立ち上げればいいのでは……?そう投げ掛けると、中村氏は「僕はデザイナーになりたいわけではない」と答える。「自分の力では着たいものは作れないし、いつまでもデザイナーのクリエイションを浴びていたい。100%お客さんのマインドで店をやっている」。

 EC販売をしないのも中村氏の主義だ。「パンツを買いに行ったのに高いコートを買ってしまった。そういうことは、実店舗でしか起こらない。満足感と罪悪感が入り混じるような気持ちで帰路につき、家に帰って鏡に映った自分にニヤニヤ。そんなセレンディピティー(思いがけない出合い)が買い物の中毒性だし、お客さまもそれを期待しているはずだ」。

ワガママその3 「お店のスペース、間借りさせてください」

 セールも一切しないのも、お客さま目線でのこと。中村氏は大学卒業後、大手セレクトショップ勤務を経験し、「利益をあげる上での方法論を叩き込まれた」という。一方、その経験は反面教師にもなっている。「売り上げ目標を達成するためのセールは、粗利を削ることになる。正価で買ってくださったお客さまへの裏切りでもある。独立してからは、業界が今までセールでムダにしてきたお金を、お客さまにどう還元するかを考えている」という。

 そこで「ワガママ トウキョウ」は、他店のセール時期(6~7月と1~2月)に地方出張をしている。これまで名古屋、大阪、福岡、広島に出向き、現地でつながりのあるショップを間借りして商品を並べた。「(出張により)現地のお店は新規のお客さんを呼び込めるし、われわれも東京にはいないお客さまとつながれる。お客さまにとっても、東京に足を運ぶお金や機会費用が必要ない。みんながハッピーになれる」。

 19年度は「具体的な金額は明かせない」ものの、数千万円の規模で売り上げた。「お金の掛け方にメリハリをつけ、きちんとお客さまに還元すれば、ファンついてきてくれるという手応えがある」。自分のほしい服ばかり仕入れて、売って――記者もそんな店ができたら楽しそうだと能天気に考えていたが、中村氏にはビジネスモデルをしっかり下支えする理論があったのだ。