ファッション

「グッチ」が温室効果ガスの排出を完全に相殺 「サプライチェーン全体に責任を持つ」

 ケリング(KERING)傘下の「グッチ(GUCCI)」は9月12日、世界の森林保全を支援するREDD+(レッドプラス:森林伐採による二酸化炭素排出量の増大とそれによる気候変動を防ぐための対策)のプロジェクトを通じて、今月末までに自社および全サプライチェーンの事業活動において温室効果ガスの排出を完全にオフセット(相殺)すると発表した。

 これは8月に発表された「ファッション協定(Fashion Pact)」を受けたもの。「ファッション協定」は今年4月にエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)=フランス大統領がフランソワ・アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)=ケリング会長兼最高経営責任者に対して、ファッションとテキスタイル関連企業トップと共に環境に与える影響を削減するための実践的な目標を設定するというミッションを与えたもので、すでに32社が参加している。その目標に「現在から2100年までの間に気温上昇を1.5度未満に保つため、50年までに温室効果ガス排出量ゼロを達成するアクションプランを作成し、実践する」ことや「生物多様性の復元」などがある。

 「グッチ」はこれまでも、温室効果ガス排出を回避、削減、回復、そして相殺するという段階的な活動を行ってきたが、サプライチェーン全体を通じて温室効果ガスを完全に相殺するのは大きな挑戦だ。

 「グッチ」はすでに、ケリングが開発した年次環境損益計算書(EP&L)を導入して環境負荷を数値により可視化しており、17年には、ファッションブランドとして初めてEP&Lを公開している。引き続きEP&Lを通じて、事業活動による環境への影響のすべてを測定、監視する。例えば、温室効果ガスの排出量の約90%はサプライチェーンによるものだが、EP&Lの2018年版では、サプライチェーン全体における全環境負荷が15年に比べて16%、温室効果ガス排出量も同じく16%削減されている。これは全環境負荷の35%相当だという。

 ケリングは19年の世界経済フォーラム、通称ダボス会議での「Global 100 Index:世界で最も持続可能な企業100社」においてアパレルではトップの2位にランクインしている。

「『グッチ』のサプライチェーン全体に対して責任を持つ」

 マルコ・ピッザーリ(Marco Bizzarri )=グッチ社長兼最高経営責任者(CEO)は、「企業の説明責任が問われる新時代を迎えて、私たちはサプライチェーン全体の温室効果ガス排出について、透明性と責任を持つことを含めて、環境への影響を軽減するためにあらゆる方策をとらなければならない。『グッチ』はこれからも、環境への影響を回避し削減するためのスマートで戦略的な方法を追求していくが、それと同時に、サステイナビリティーを推進するためのイノベーションに投資していく。しかし、私の個人的見解としては、私たちの業界が直面している課題、そしてグローバルな地球温暖化問題と生物多様性の危機という現実を見据えたとき、スピード感も含めてこれだけでは十分とは言えないと考える。早急な解決策が求められているという現実に対処するため、私たちはカーボンニュートラルへの取り組みを通じて、今までにない野心的な先例を作る。これは、『グッチ』のサプライチェーン全体におけるすべての温室効果ガス排出に責任を持ち、それを回避、削減、回復するために行動し、避けることができない排出をREDD+プロジェクトを通じてオフセットしていくという明確な施策に基づくものだ」というコメントを発表した。

 カーボンニュートラルへのアプローチにおける最重要課題として、「グッチ」は、環境への負担が少なくサステイナブルな素材の開発と調達や、製造効率改善への取り組みを展開している。これにより、「グッチ」は18年、二酸化炭素排出量を約44万125トン削減した。そして、強化のための新たな方針として、年次ベースで世界中の重要な生態系の保全と再生を支援し、サプライチェーン全体に残存する温室効果ガス排出を相殺していく。

製造プロセスから販売活動における主な取り組み

・事業活動、店舗、オフィス、倉庫における再生可能エネルギー使用量を現在の70%から20年までに100%にする。この施策により、すでに18年だけで約4万5800トンの二酸化炭素排出量が削減された。

・製作と製造プロセスの効率を改善し、最適化していく。スクラップレスプログラムもその一環で、レザーの処理に使用する水と化学物質の量を大幅に減らし、輸送にかかる温室効果ガスの排出量を削減する。18年には8カ所のレザーの加工工場が参加し、電気エネルギー(84万3000kW)、水の使用量と排水路に流れる廃水(1000万リットル)、化学物質の消費量(クロームなど28トンを含む145トン)、レザーの断片(66トン)の削減を達成した。同期間にこのプログラムの実施によって排出が回避された二酸化炭素は全体で約3400トンだった。

・製造中に発生するレザーとテキスタイルの端切れをアップサイクルする「Gucci-Up」プログラムを含む循環型アプローチを拡大する。18年にはこのプログラムの実施によって、レザー11トンが再利用され、約4500トンの二酸化炭素発生が抑えられた。またこのプログラムは、NGOや女性が活躍するプロジェクトとも連携して余剰素材を再利用し、イタリアの社会活動団体と連携して社会的に弱い立場にある人々の訓練やコミュニティーへの復帰を支援している。

原材料の処理プロセスにおける主な取り組み

・レザー加工工程において重金属の使用を排除する「メタルフリーレザープログラム」をはじめ、伝統的な加工技術をよりサステイナブルなものに替えていく。

・15年に始まったポリ塩化ビニール(PVC)の使用禁止とそれを追加的に補完するリサイクルプラスチックへの転換、アクセサリーやジュエリーへのリサイクルメタルの使用など、リサイクル技術とアプローチを最大化している。アクセサリーの金属部やジュエリーに従来使用されていたバージンメタルに替えて、リサイクルしたゴールドやシルバー、パラジウムを使用することにより、採鉱や精錬による環境への悪影響を回避し、18年には約1万1000トンの二酸化炭素排出を抑えることができた。

・オーガニック繊維の認証であるGOTS認証のオーガニックコットンやシルクなどの使用量を年々増やしており、その結果18年には二酸化炭素の排出を約2700トン回避することができた。

・ビスコースなどのセルロース系繊維は、FSC規格(森林管理協議会)の認証を得た森林、およびCanopyStyle監査の期待値を満たした生産者から調達している。さらに、化学物質を環境に漏出させないクローズドループ型の管理システムを導入している生産者からの調達に注力し、すべてのパッケージにはFSC認証の紙と段ボールを100%使用している。

・再生ナイロンの「エコニール(ECONYL)」、再生カシミア、信頼できる生産者によるエシカルゴールドなど、環境への影響が少なくよりサステイナブルな代替原材料への転換を継続する。

・原材料は、推奨される国から、環境への影響が比較的小さいシステムによって生産されたものを厳選調達している。例えばレザーは、この戦略によって自然への影響を最大で5分の1に抑えることができる。さらに、自然生態系を劣化させたり破壊したりすることのない営農システムからレザーを調達することにより、土壌の再生、さらには営農による森林破壊を防ぐことができる。18年には、こうした調達によって、約37万2800トンの二酸化炭素排出を回避することができた。

原材料の処理プロセスにおける主な取り組み

・原材料の調達を最適化し、土壌と生物多様性のための環境回復を実施している農業システムを厳選する。気候変動の影響を軽減し、ローカルコミュニティーにポジティブな経済的、社会的な影響を生み出し、野生生物とその生息地を保護するREDD+プロジェクトを通じて、革新的でグローバルなオフセットポートフォリオを展開する。

・原材料の開発・転換・生産、製品製造に関連するサプライチェーンの上流における温室効果ガスの排出すべてをオフセットする。18年には、840万ドル(約8億9000万円)を投じて、140万トン相当の二酸化炭素の排出を相殺した。「グッチ」の18年のオフセット対象だった約110万2000ヘクタールの生物多様性の保護地区の保全と回復を引き続き支援する。

「あらゆる産業のCEOに行動を促す声として受け取ってほしい」

 ビッサーリ社長兼CEOは「これは称賛すべき取り組みではあるが、グローバルコミュニティーとして私たちが現在取り組んでいる活動は、気温を産業革命以前の水準より1.5度高い範囲にとどめるという指標には十分ではなく、50年までに『ネットゼロ』を実現するためにも不十分だ。私たち企業はみな、気候変動と生物多様性の喪失という2つの課題に対して責任を持つとともに、前向きに闘うためのソリューションを実施しなければなりない。先に発表された『ファッション協定』は、ファッションおよび繊維産業が積極的に達成すべき一連の目標を掲げたもので、私はフランソワ・アンリ・ピノー=ケリング会長兼CEOのリーダーシップに勇気を得て、この重要なプロジェクトをまとめた。今回の決定はさらなるイノベーションと問題解決の完璧な触媒になると考えている。全サプライチェーンの温室効果ガス排出に責任を持つという新しいカーボンニュートラルのアプローチは、私たちのかけがえのない自然と気候に、迅速で具体的かつポジティブな影響を与える先進的な道だと考えている。回避、削減、回復、オフセット(相殺)するという論理的な施策を通じて『カーボンニュートラル』を再定義する私たちの取り組みを、あらゆる産業のCEOに行動を促す声として受け取ってほしい。これからの10年間の、そして未来の世代の自然と社会を救うための重要な責任を果たすために、今こそ企業が力を結集して行動を起こすことが求められている」と述べた。

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