
沖縄発のスキンケアブランド「SuiSavon-首里石鹸-(以下、首里石鹸)」が急成長を遂げている。ブランド創設から10年を迎える今年、国内34店舗まで拡大し、5月には海外初の直営店を台湾・台北に出店した。コロナ禍でも業績を伸ばし、2025年度の売上高は前年比15%増の約27億円と順調に推移している。一般的に地方ブランドは、都市圏との距離的な隔たりや人手や予算、PR不足などから事業継続が難しい場合も少なくない。その中で急成長を遂げている同ブランドの秘訣とは。首里石鹸の緒方教介社長と屋宜絵理香副社長に話を聞いた。
「首里石鹸」を代表するスキンケアが自社工房でも製造している固形石けん“ボタニカルハンドメイド洗顔石鹸”だ。常時10種以上のバリエーションがそろうが、価格は1個2000円以上と石けんの中でも“強気”だ。緒方社長は「付加価値さえあれば売れる」という自信があったと話す。その信念を支えたのが、自身の路上販売の経験だ。那覇市・国際通りの路上で貝殻を用いた自作のブレスレットなどアクセサリーを陳列したところ、周辺の店舗より高い価格設定したにもかかわらず次々と売れたという。「商品の魅力をふまえて説明をする。そして自らの体験を交えて商品を語れば、も商品は売れる」と実感したという。
また、「沖縄の香りを持ち帰れる石けん」として、海や太陽、果実や空など沖縄の自然をイメージした商品は“ビジュ映え”が抜群だ。そのミニサイズがセットになった特製ボックスはまるで高級チョコレートのよう特別な価値のあるギフトとして客の心をつかんだ。
そのような地域ブランド化とともに、徹底しているのが店舗における“沖縄らしい接遇”だ。商品の案内だけではなく、「おいしい沖縄そば屋は?」という質問にも丁寧に回答する。屋宜副社長は、「場合によっては人気店を3軒くらいは提案できるように、とスタッフ同士で情報共有をしています。特に国際通りは観光客が多いエリアということもあり、商品を販売するだけではなく、楽しい会話を提供するというスタイルが販売を下支えしたと考えます」と話す。
特に、この親しみを込めた接遇は5月にオープンした台北店でも大いに生かされたという。屋宜副社長は「台北にある大手百貨店ではお客さまには話しかけず、何か聞かれたら答えるというスタイルが一般的。でも、私たちの店舗では県内同様に、お客さまに進んで話しかける対応をさせていただきました。すると、台湾のお客さまも進んで会話を楽しんでくださり、実はこのような会話を楽しむ接客を求めていらしたのでは、と思いました。このような経験から多くの気づきを得られましたし、こんな沖縄らしい“親しみのある接遇”は商品価値とともに世界中に広めていきたいです」。
また、このような顧客との親密なアプローチは、社内コミュニケーションを活性化することにもつながっている。緒方社長は「3、4年前くらいからでしょうか。弊社に入社した社員の95%が商品の愛用者であることがわかったのです。その時、『首里石鹸』の印象が外から見た時と、入社した後では変わらないようにしなければならないと、働き方を改めて見直しました」。
実施しているのは店舗の売り上げや利益、利益やキャッシュフローなどを可視化する年1回のイベントと、そのイベントで公開される“告白”と題した緒方社長への通信簿だ。「スタッフの働き方への提案はもちろん、私への否定的な評価を含め、社員からフィードバックを得ています。私の評価では5点満点で点数もつけてもらい、3点以下をつけた社員からは何がクリアになったら5点になるか、といった設問を設けるなど、働き方の問題点を洗い出すことで、仕事の効率や充実感を高めようと工夫しています」(緒方社長)。同施策は、社員にとって柔軟な働き方ができるように企業内保育所を設けたり、常備型の社食サービスを用意するなど、職場環境の改善に努めることで社員のキャリア形成をサポートする。
今後は国内のさらなる出店で売り上げを拡大するとともに、「海外での出店を進めていきたい」と緒方社長は意気込む。「私たちには『世界のための沖縄になろう』というビジョンがあります。台湾を皮切りに、今後も世界のさまざまな国で『首里石鹸』ブランドを展開したい。加えて、沖縄の商品とともに私たちのカルチャーを根付かせることで、沖縄が育んできた優しさやぬくもりを世界の人に届けていけたらと願っています」。
沖縄には「いちゃりばちょーでー(一度会えばみな兄弟)」という考えや、困った時はお互いに助け合う「ゆいまーる」というフレーズがある。人の懐にすっと入っていけるようなおおらかで人情味のあふれる人間性は 、まさに“文化的価値”といえる。ストーリー消費や情緒的価値を重視する機運が続くなか、この価値を顧客サービスに生かせることはブランドの強みになるはずだ。