KYOTO SILK HUBは、これまで職人の知見に大きく依存してきた養蚕から製糸までの工程を、AIやロボティクス、センシング技術によって再構築する。技術開発はソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)をはじめ、研究機関や大手企業、スタートアップなど幅広いパートナーと連携し、科学技術と職人の知見を融合させながら推進する。場所は京都府・与謝野町。古くから絹織物の産地として知られる与謝野町で約4万2000㎡の土地を取得し、桑の木の栽培を開始した。2027年に約1500㎡の養蚕施設の建設に着工し、28年までに桑畑と養蚕施設を一体化したシステムを完成させ、試験養蚕を始める。30年には年間10トンの繭生産を目指す。35年以降は、このシステムを全国へ展開し、日本の養蚕業の再生につなげる構想だ。本ページでは、28年までに構築を目指すシステムの全体像を紹介するとともに、現時点で参画が公表されている専門家への取材を通して、技術的な要点や実現に向けた課題、そして描く未来像を読み解く。(この記事は「WWDJAPAN」2026年7月13日号からの抜粋です)
北野宏明
ソニーCSL社長 沖縄科学技術大学院大学教授

トラディション、テロワール、テクノロジーの
掛け算が価値を最大化する
伝統産業や伝統技術は、新たなフレームを与えることで新しい市場へ展開できる。日本がこれから何で勝負するかを考えると、資本やデータ量で世界と正面から競うのは現実的ではない。海外と組む領域と自前でやる領域を明確に切り分ける必要がある。それと、日本ならではの歴史や伝統(トラディション)、文化、職人集団といった土地に根差した価値の源泉(テロワール)を再定義(リフレーミング)して、大きな価値に転換することが重要になる。ただし、伝統やテロワール(土地・自然・土着性)だけでは新しい市場やスケールは生まれない。AIやロボティクス、バイオテクノロジーに加え、経営やブランディング、資本政策まで含めた広い意味でのテクノロジーを組み合わせることで、リフレーミングを実現させれば、これまでにない価値を生み出せるのではないか。
養蚕から製糸までの工程には、科学技術によって再設計できる余地がある。カギとなるのは、桑の栽培から養蚕、製糸まで一貫したデータの蓄積だ。「こういう糸をつくりたい」という要望に対し、AIが最適な条件を提示し、試作と検証を重ねる。その知見を集約し、社会実装する拠点として、KYOTO SILK HUB が中核的な役割を担うことを期待している。
そして最後に重要なのは、「美しいかどうか」という判断だ。これはAIのパラメーターだけでは決められない。だからこそ、このプロジェクトにはアートが介在する余地がある。アート、サイエンス、テクノロジーが往還しながら新たな価値を生み出していく。そのプロセスこそ、この取り組みの最大の魅力だ。
桑畑
POINTS
1 数種類の桑を有機栽培し、土壌の水分量や栄養状態を24時間測定し遠隔管理する
2 桑刈り自動ロボットを開発し、桑を建屋まで運搬する
3 桑の品種、土壌や水質、気象と糸の品質の相関を検証する
協働する専門家や企業
桑の選定と土壌づくり
(日本唯一の桑の研究者、元農研機構)

小山朗夫/KYOTO SILK HUB技術顧問
自動運転による機械収穫に適した桑園の造成と、多回育に対応する収穫体系の構築を目指す。桑は植え付けから本格的な収穫まで数年を要する永年性作物のため、収穫機械の開発と並行して桑園を造成する必要があるが、一度植え付けると修正が困難であることから、現時点で最適と思われる桑品種および植栽形式を選定した。これまで桑の栽培・育種の研究と指導を50年以上続けてきたが、年齢的にも長くは続けられないと考えていた。そんな折に本プロジェクトの話が舞い込み、これが実現すれば日本の蚕糸業を革新できるだけでなく、自身の仕事の集大成にもなると考え、参加を決断した。
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